Q.新築マンションを購入して住み始めたのですが、外壁が剥がれ落ちている箇所があり、マンションの建築工事の段階で不備があったのではないかと思っています。こういったとき、売主に対して損害賠償請求をすることは可能なのでしょうか?
A.マンションの設備や建築の問題としては、最初に挙げたような
の他にも、
といったように、一つの不備があったことから複数の重大な問題が発生することが想定されます。
こういった被害が実際に発生した時、誰に、どのような根拠に基づいて請求をすることができるのかを考えていきます。
1 民法上の瑕疵担保責任
例①の場合、当該マンションの買主としては、まずは売主に対する瑕疵担保責任の追及を試みることが考えられます。瑕疵担保責任とは、購入したものに何らかの瑕疵(不備)があった場合に、その瑕疵の補修や損害賠償などを求める権利のことです。
民法では、瑕疵担保責任について1年間の除斥期間(時効のようなものです)を設けていることから、買主が瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をする場合、隠れた瑕疵の存在を知った時点から1年以内に行わなければなりません。
また、この「瑕疵担保責任」は、一般債権の消滅時効の規定が適用されると解されています。よって、買主が瑕疵の存在に気付かず、消滅時効期間が経過してしまった場合には、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求は困難になってしまいます。
更に、民法上の瑕疵担保責任の規定は任意規定であるため、売買契約の中で瑕疵担保責任の行使期間が短縮されているケースも多くあるため注意が必要です。
以上を踏まえて、購入した年月日、瑕疵を発見した年月日、売買契約書の中に売主が瑕疵担保責任を負わない旨の規定が入っていないかなど、確認されてみてください。これらを確認し、どのような瑕疵があるのかを明確にして、弁護士などの専門家に損害賠償請求ができないか、売主に補修をするよう請求できないかを相談してみましょう。
2 住宅の品質確保の促進等に関する法律による瑕疵担保責任
上記1の通り、民法の規定を前提とした場合、除斥期間が1年とかなり短い上に、個別の売買契約において更に期間が短縮されていることも多く、買主にとって大変不利な状況にあるように思われます。
しかしながら、住宅の瑕疵は、購入時や入居時にある程度確認するため、実際に見つかる瑕疵は、なかなか気付かないような瑕疵が多いものです。(簡単に見つかるような瑕疵なら、購入時や入居時に気付いているでしょう。)実際のところ売買からそれなりの期間を経過した後に判明するケースが多いため、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」という法律によって、民法上の瑕疵担保責任の特例として、住宅新築請負契約や新築住宅の売買契約においては、「構造耐力上主要な部分(基礎、基礎杭、壁、床板、屋根板など)」、「雨水の侵入を防止する部分(屋根、外壁など)」に関する請負人または売主の瑕疵担保責任の除斥期間を10年と定めており、この期間の短縮は出来ないものと定めています。
これらを踏まえて例①のケースを考えると、新築マンションの買主であり、また、問題となっている瑕疵は外壁に関するものであるため、住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づき、当該マンションの引渡しから10年経過より前であれば、買主は売主に対して瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をすることができると考えられます。
3 資産価値の下落による損害賠償
例②及び例③について検討します。
マンションの瑕疵について売主により補修工事が実施され、マンションの機能上の問題が解消されたとしても、大規模な補修工事が行われたという事実によって、そのマンションの価値が低下するという事態は十分に想定されます。
仮に自分が中古マンションを買う側であれば、瑕疵があって大規模修繕をしたマンションは、他にも瑕疵があるかもしれないと思ってなかなか購入する気にならないですよね。こうした価値の下落部分の損害について、損害賠償を請求することが可能なのかが問題となります。
この点、福岡高判H18・3・9では、新築直後から外壁タイルの剥落を生じていたマンションを、この外壁の問題を知らずに購入した買主が、売主による補修工事後に、交換価値の下落による損害等の賠償を求めた事案について、「外壁タイル以外にも施工不良が存在するのではないかという不安感や新築直後から本件マンションの外壁タイルに対して施工された大規模な本件補修工事から一般的に受ける相当な心理的不快感、ひいてはこれらに基づく経済的価値の低下分は、本件補修工事によっても払拭しがたいといわざるを得ない」ことであり、「売主である分譲業者は、売主の瑕疵担保責任として、瑕疵の存在を知らずに合意した売買代金額と瑕疵を前提とした目的物の客観的評価額の差額に相当する、この経済的価値の低下分について、損害賠償義務を負わなければならない」ことになると判示しました。
なおこの事件では、資産価値下落に掛かる損害賠償を認める前提として、単に当該マンションが新築であったことだけではなく、補修工事の規模・方法、当該マンションが高級感やデザイン性を重視していたことといった様々な事情を総合的に考慮しているため、類似した状況であったとしても、この事件と同様の損害賠償請求が認められるとは限りません。
よって、マンションや実際の損害の程度を、個別案件によって十分に検討する必要があると考えられます。
4 慰謝料請求
瑕疵担保責任に基づいて損害賠償責任が認められる場合には、財産的損害(=建物の瑕疵)に加えて、精神的損害(=建物の瑕疵について補修工事を行った際に騒音等によって被害を受けた場合)についても賠償責任は認められるかが問題となります。
この点、上記3であげた判決においては、居住者は本件瑕疵の補修工事の施工そのものは受けいれなければならなかったものの、上記補修工事によって発生する騒音や粉塵等の生活被害についてまで負担を強いられる理由は無く、これらの生活被害については売主の負担により回復されるべきとの理由から、慰謝料請求を認めました。
よって、例④のようなケースでも慰謝料の請求を検討する余地はあるといえます。
5 まとめ
以上の通り、購入した物件に何らかの瑕疵がある場合、売主に対して様々な請求をすることが可能です。
ただし、やはり事案次第というところが大きく、どのような瑕疵なのかによりますので、しっかりと弁護士などの専門家に相談して検討してみてください。