最近、仕事の忙しさもあって、このブログをさぼってしまっており、ふと思い出したように記事を書いています。
弁護士の後藤です。
2019年4月に東京の池袋で発生した、乗用車の暴走事故。
親子2人が死亡し、9人が負傷してしまったというとても凄惨な事故であり、被害者のご遺族の方のインタビューや会見、被告が公判で過失を争い、無罪を主張していたことなども相まって、世間でも非常に耳目を集める事件となっていました。
先日2021年9月2日にこの事件の第1審の判決が東京地方裁判所で出され、被告人にはブレーキとアクセルを踏み間違えた過失があると認定し、被告に対し、禁錮5年の実刑判決を言い渡しました。
判決後、被告人が第1審の判決を不服として、高等裁判所へ控訴するか否かが注目されていましたが、先日、被告人において、控訴をしない意向であることがニュースなどで報道されるようになりました。
被告人において、禁錮5年の判決に対し控訴をしない場合には、かかる判決が確定することになります。
そして、テレビニュースや新聞では、被告人が90歳と高齢であることから、判決が確定場合に、刑務所に入らない可能性があるのではないかということが盛んに論じられてきました。
私もこの事件があるまでは、刑務所に入らなくてもいいケースがあることは知っていましたが、具体的にどのような場合に刑務所に入らなくていいケースがあるのかについてはよく知らなかったため、今回の事件を機に少し調べてみることにしました。
まず、犯罪を犯したとしても、事件が検察官に送致されない場合や、検察官に送致されたとしても、示談などが成立して不起訴処分になった場合には、そもそも刑事裁判すら開かれないので、刑務所に入る(「収監」といいます。)ことはありません。
この執行猶予判決が出た場合にも、刑務所に入らずに済みます(どのような場合に執行猶予判決が認められるのか、どのような場合に執行猶予が取り消されるのかについては別の記載にご説明しようと思います。)。
そして、今回の事件のように、判決に執行猶予がつかなかった場合(「実刑判決」といいます。)には、判決が確定次第、原則として刑務所に収監されるのですが、実刑判決を受けたとしても、刑務所に入らなくて済む場合、すなわち刑の執行を止める制度については、刑事訴訟法に記載されており、具体的には2つの場合が規定されています。
まず、刑事訴訟法480条では、「懲役、禁錮又は拘留の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、刑の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官又は刑の言渡を受けた者の現在地を管轄する地方検察庁の検察官の指揮によって、その状態が回復するまで執行を停止する。」と規定されており、病気や認知症等が原因で、心神喪失状態になっている場合には、その状態が回復するまでは、刑の執行が停止されることになります。
次に、刑事訴訟法482条では「懲役、禁錮又は拘留の言渡を受けた者について左の事由があるときは、刑の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官又は刑の言渡を受けた者の現在地を管轄する地方検察庁の検察官の指揮によって執行を停止することができる。」と規定し、検察官の裁量で刑の執行が停止されるケースを規定しています(480条の末尾が「停止する」となっており、必ず停止することを記載しているので「必要的執行停止」、482条の末尾が「停止することができる。」と検察官の裁量に委ねられている記載になっているため、「裁量的執行停止」と呼ばれています。)。
そして、裁量的執行停止が認められるケースとして、
②年齢70年以上であるとき。
③受胎後150日以上であるとき。
④出産後60日を経過しないとき。
⑤刑の執行によって回復することのできない不利益を生ずる虞(おそれ)があるとき。
⑥祖父母又は父母が年齢70年以上又は重病若しくは不具で、他にこれを保護する親族がないとき。
⑦子又は孫が幼年で、他にこれを保護する親族がないとき。
⑧その他重大な事由があるとき。
と、記載されています。
今回では、被告人の年齢が90歳であり、①の「年齢70年以上であるとき」に該当するため、収監されないのではないかと報道されています。
逆に70歳を越えた人が原則収監されないとした場合には、いくら罪を犯したとしても刑務所に収監されないと知った高齢者の方の犯罪が増えてしまったとしてもおかしくありません。
したがって、今回の被告人も90歳と非常に高齢ではあるものの、おそらくは判決確定後、刑務所に収監されることになる可能性が高いでしょう。
逆に、③や④の場合には、特に出産の直前直後には、刑務所で出産することは赤ちゃんにとって適切ではないため、刑の執行が停止され、病院へ行き、病院に入院して出産することは少なくありません。
ニュースやインターネットの記事では、高齢者は原則刑務所に収監されないかのような記載も見受けられますが、おそらく高齢者の犯罪は、価格の低い商品の万引き(窃盗)など、軽微な犯罪が比較的多く、そもそも不起訴処分となるケースや、起訴されたとしても執行猶予になるケースが比較的多いため、それを有罪であっても刑務所に収監されないと誤って認識している可能性があるのではないかと思っています。
このように、実刑判決が出されてしまうと、原則として刑務所へ入らなくてはならないため、起訴されないことや、執行猶予判決を得ることが非常に重要になり、それには早期に弁護士に依頼して、適切かつ迅速な対応が求められますので、ご自身や近しい方が罪を犯してしまった場合には、早めに弁護士にご相談されることをおすすめいたします。
最後にはなりますが、この度の事故で、お怪我やお亡くなりになってしまった方や、その後親族の皆様には心よりお悔やみ申し上げます。