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刑事事件での細かいトリビア

複数の人が亡くなってしまった殺人事件での裁判では、一般の傍聴人の方だけではなく、報道機関も傍聴に訪れ、社会的にも非常に耳目を集める事件となります。

ニュースでは、裁判の模様が報道され、検察官が被告人に死刑を求める求刑を行ったことや判決で死刑判決が出されるのかがニュースなどで報じられることがよくあります。

その中でも、判決言い渡し期日にて、「裁判官が判決理由を先に述べ主文を後回しにしました!」等と記者が報じることがよくあります。
この判決理由を先に述べ、主文を後回しにする場合(単に「主文後回し」ということが多いです。)、被告人に死刑判決が出される可能性が非常に高くなるため、上記のニュースが速報で流れることが多いです。

今回は少しマニアックなトリビア的な内容になってしまいますが、この「主文後回し」の根拠やなぜそのような対応がなされるのか等についてご説明させていただきます。

刑事裁判の具体的な流れについては、別の機会にご説明させていただきますが、検察官の論告・求刑と弁護側の最終弁論及び被告人の最終意見陳述が終わると、刑事裁判の手続は終結し(「結審」と言います。)別の日に判決を宣告する日(「判決期日」といいます。)が指定され、判決言い渡し期日にて、裁判から判決が伝えられ刑事事件は終結となります。

そして、判決言い渡し期日では、判決、具体的には「被告人が有罪であるのか無罪であるのか、有罪である場合には、どのような刑罰(量刑)が科されるか」が言い渡されることになります。

そして判決は、判決の上記結論を述べている「主文」と判決種便に至った根拠(理由)を述べている「判決理由」の2つで構成されています。刑事訴訟法44条1項では、「裁判には理由を附しなければならない。」と規定されており、判決・決定・命令等の裁判には理由をつけれなければならないことが規定されているため、判決は「主文」と「判決理由」の2つで構成されることになります。

そして、判決の言い渡しの方法については、刑事訴訟法規則35条2項に、「判決の宣告をするには、主文及び理由を朗読し、又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げなければならない。」と規定されていますが、主文と理由のどちらを先に告げなければならないかについてまでは、規定されていないため、判決を言い渡す裁判官の裁量に委ねられています。
もっとも、裁判官が作成する判決書(一般の方は「はんけつしょ」と」読まれることが多いと思いますが、法律家の間では「はんけつがき」と読まれることが多いです。)では、①主文②判決理由の順で記載されているため、通常の刑事事件では、まず主文を告げ、その後に判決理由を告げることがほとんどです。

これに対し、死刑判決の場合には、人の生命を奪う刑罰を行う判決が出されるため、いきなり結論である主文を告げてしまうと被告人において動揺してしまい、判決理由をおちついて聞くことができなくなってしまう可能性があるこため、主文後回しになることが多いです。

また、上記のとおり死刑判決が予想される重大事件の場合には、報道機関も多く傍聴しており、先に主文を述べてしまうと判決理由を述べている間に多くの報道機関が、主文の内容を報じるために慌ただしく法廷から退席するため落ち着いて判決理由を述べることができないため、主文後回しの運用が取られるようになったということも言われています(上記の通り、今では主文後回し=死刑判決の可能性が高いということが知れ渡っているため、そこまでの効果は無いのかもしれません)。

いずれにせよ、判決言い渡し期日は、被告人に刑罰を科す非常に大事な場面であるため、裁判官としても被告人に自らの行った罪についてきちんと理解してもらうため、判決理由をきちんと聞いてもらうために、主文後回し等の措置が取られています。

余談にはなりますが、有罪判決と無罪判決の判決言い渡しでは、主文の読まれ方に違いがあります。
有罪判決の場合には「被告人『を』懲役●年に処する。」と言い渡されますが、無罪判決の場合には「被告人『は』無罪。」と言い渡されます。
「を」と「は」で有罪か無罪がわかることになり、この違いを知ったとき、決まり字が決まっている百人一首のようだなと思いました。

 

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