交通事故には不注意で遭遇してしまうものから、注意していても遭遇してしまうものまでありますが、総じて交通事故は、予期せぬタイミングで起きるものです。
そのため、交通事故に遭遇するとどうすればいいか分からなくなってしまうもので、そのような状況で損害賠償責任が、休業損害が、後遺障害等級認定が、過失相殺が、と知らない用語で説明されても頭には入ってこないはずです。
そこで、今回は、交通事故でよく問題になる「過失相殺」についてご説明したいと思います。
1 過失相殺ってなあに?
過失相殺という言葉は、日常でも耳にすることもあるかと思いますが、正確には、被害者側に事故の発生や損害の拡大に落ち度がある場合、損害賠償額を減額する制度を言います。
この制度は、自分の責任に基づく損害を第三者に負担させるべきではないという公平の理念に基づくものとされています。
例えば、A車とB車が衝突し、A車にだけ100万円の損害が発生した事案で、それぞれの過失割合がA:B=2:8だとします。
この場合、お互いの過失割合を考慮したうえで過失相殺を行い、BはAに対して80万円を賠償すればいいことになるのです。
2 過失割合はどのように決まるの?
過失相殺は、本来裁判所の裁量によって、個々の事件ごとに判断することが可能なはずですが、交通事故は日々大量に発生しており、同じような交通事故について裁判官ごとに判断が異なるのは望ましくありません。
そこで、裁判所や弁護士の間では、過失割合について、別冊判例タイムズ第38号や財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(通常、「赤い本」と言われています。)を参考にして判断されています。
これらの基準表では、事件類型ごとに図を作成し事故当事者の過失相殺割合が記載されています。具体的には、歩行者対自動車・単車、歩行者対自転車、自動車対自動車、単車対自動車、自転車対自動車・単車の類型及び高速道路上の事故類型が基準化されています。
しかも、類型ごとに提示された基準を修正する要素やその修正率等まで定められていますので、事案ごとのおおよその過失割合を知ることができます。
3 こんなとき過失割合はどうなるの?
それでは、具体的事案で過失割合がどのようになっているかご紹介したいと思います。ここでは、実際によく発生している追突事故、出会い頭の衝突事故、右折時衝突事故について見て行きたいと思います。
(1) 追突事故の場合
追突事故の場合、基本的には追突された側の車両には過失がなく、追突した側の前方不注意(道路交通法70条)や車間距離不保持(道路交通法26条)等の一方的過失によるものと考えられます。そのため、赤信号や一時停止の規制、渋滞で停止した車両に追突した場合、追突した車と追突された車の過失割合は100:0ということになります。
もっとも、追突された側の車が急ブレーキをかけた場合は話が別です。急ブレーキは、危険を防止するためやむを得ない場合を除き、してはならないとされています。そのため、追突された側の車が急ブレーキをかけたために、追突してしまった場合、追突された側にも過失があると判断されることになります。
その割合は、速度違反の程度など具体的な事例にもよりますが、70:30くらいの場合が多いでしょう。
(2) 出会い頭事故の場合
次に出会い頭事故の場合をご説明します。ここでは、信号機による交通整理の行われていない同幅員の交差点で自動車同士が出合い頭に衝突した場合を見てみたいと思います。
このような交差点では一般的に左方車が優先とされているだけで(道交法36条1項1号)、それ以外に特別の優先関係がある訳ではありません。しかし、見通しのきかない交差点では、左方車は減速しない限り、自分が優先されていることに気付けないのですから、あまり左方優先を重視すべきではありません。また、同幅員の交差点においては、両車ともに徐行義務があります(道路交通法42条1項)。そのため、過失割合の判断にあたっては、両車が減速したか否かが重要となってきます。
具体的には、両車が同じくらいの速度だった場合、過失割合は左方車:右方車=4:6となります。左方車が減速したのに、右方車が減速しなかった場合、さらに左方車が有利となり、過失割合は2:8となります。これに対して、左方車が減速せず、右方車が減速した場合、過失割合は逆転し、6:4となります。
なお、これらはあくまでも基本割合なので、見通しのきく交差点だったか、夜間だったか、どちらかに著しい過失があるといえるか等により、割合が変動することになります。
(3) 交差点で右折車と直進車が衝突
交差点で右折車と直進車が衝突した場合についてご説明します。ここでは、直進車・右折車共に青信号で侵入した場合を検討しましょう。
この場合、右折車は直進車の進行を妨げてはなりません(道路交通法37条)。そのため、右折しようとした場合に、直進車が存在し速度や方向を急に変更しない限り両者が接触するおそれがあるときには、直進車が右折車に対して優先関係に立ちます。もっとも、直進車が優先されるとしても、右折する車両に注意する義務を有することには変わりがありません(道路交通法36条4項)。
したがって、直進車と右折車の過失割合は、通常、2:8となります。
もっとも、右折車が徐行をしていなかったり、ウィンカーを出していなかったりする場合、右折車に不利に、他方、直進車に時速15キロメートル以上の速度違反やその他の著しい過失がある場合などは直進車に不利に修正されることとなります。
4 過失割合を争う方法
過失割合を争う方法を簡単にですが説明させて頂きたいと思います。
過失割合は、通常、事故時の状況に基づいて判断されることになります。そのため、過失割合を争う場合、事故時の状況のうち自分に有利な事情を積極的に立証して行くことが必要になります。
裁判所が別冊判例タイムズ38号を参照して過失割合を判断することが多いことからしますと、ここで考慮されている事情のうち自分に有利なものを立証することが重要になると考えられます。具体的には、ドライブレコーダーの映像や目撃者の話などから事故時の状況を客観的に立証して行くことになります。
では、それは自分で簡単にできるかと言うとそういう訳ではありません。別冊判例タイムズ38号の類型はどうしてもモデルケースにすぎませんので、実際の事故にぴったり合致しているとは限りません。そのような場合には、類似する事故態様でどのような過失割合が認定されているのか過去の裁判例を調べてみることも必要になるでしょう。
5 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は、交通事故における過失相殺について簡単にご説明させて頂きました。
過失割合を争うには、先程も申しました要因別冊判例タイムズ38号における過失割合の知識だけでなく、証拠の収集方法など様々な知識が必要になってきます。自分で保険会社や弁護士と交渉するとなると、どうしても知識的に専門家に劣ってしまうから、保険会社からの提案を鵜呑みにしてしまい、思わぬ損をすることもあります。
そのため、実際に自分の事件ではいくらくらい弁償してもらえるのか弁護士に相談してみることをお勧め致します。