<ご相談者様からのご質問>
先日,長年乗っていた愛車にぶつけられてしまいました。何年も乗っていて非常に愛着のある車ですが,廃車にするしかなさそうです。とてもショックなのですが,精神的苦痛を被ったとして,慰謝料などは認められないのでしょうか。
<弁護士からの回答>
物損事故に遭われた方がご相談に来られた際に,ご相談者様と同じように慰謝料を支払ってもらえないのかというご相談が少なくありません。結論から申してしまうと,物損事故の場合には,慰謝料が認められることはほとんどありません。
そこで,本日は,物損事故における慰謝料についてご説明させていただきます。
慰謝料とは,不法行為(交通事故)により,精神的苦痛を被った場合にかかる苦痛を損害として金銭的に補填するためのものです。この点,ご相談者様のように,事故により愛用してきた車両が使えなくなったことにより,物損事故であっても事故による精神的苦痛を被っていることは否定できません。しかし,自動車の物損事故においては,修理費若しくは当該車両の時価(全損の場合)等の財産的な損害が填補されたことにより,精神的苦痛も同時に填補されていると考えられています。
したがって,自動車の物損事故において,財産的な損害を越えた慰謝料が認められることはありません。
このように,自動車の物損事故の場合には,慰謝料の支払いが認められることはありませんが,例外的に,①事故により飼っているペットが亡くなってしまったり,ケガをして後遺症が残ってしまった場合や,②事故により墓石が損壊してしまった場合などには物損事故であっても慰謝料が認められています。
①のペットについては,ペットを飼われている方からは異論が出るかもしれませんが,法律上,ペットは「物」として扱われます。過去の裁判例では,この「物」である側面のみ強調され,ペットの時価のみが損害であるとされ,長年育て飼い主の愛着が増したペットのほうが,時価が低いと判断するものもありました。
しかし,近時の裁判例では,ペットは「飼い主との交流を通じて,家族の一員であるかのように,買主にとってかけがえのない存在になっていることが少なくない」として,ペットが亡くなった場合や後遺症が残ってしまった場合には,慰謝料を認めています。
また,②の墓石に関しては,「先祖や故人が眠る場所として,通常その少輔者にとって,強い敬愛追慕の念を抱く対象となる。」として,墓石が壊れたことによる精神的苦痛の賠償を認めています。
このように,例外的に,その物に特別の愛着を抱くことが一般的に争いがない物については,例外的に物損の慰謝料が認められますが,自動車に関しては愛着を持たれている方がいらっしゃることは事実ではありますがそれが一般的に争いがないとまでは認められない以上(単に移動手段としか捉えていないかたもすくなからずいらっしゃるでしょう。),自動車の物損における慰謝料の請求は認められないでしょう。
もっとも,前回お伝えした通り,事故に遭った車の内容によっては,評価損が損害として認められる場合もあるので,是非一度弁護士にご相談ください。