弁護士法人Nexill&Partners(那珂川オフィスサイト)

[危険運転致死傷」「過失運転致死傷」の違いは?

【相談事例④】

東名高速道路でのあおり運転による死亡事故から1年が経ちました,当初は自動車運転処罰法違反の「危険運転致死傷」ではなく「過失運転致死傷」だったことから,疑問の声があがっていましたが,違いが良く分かりません。どう違うのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

 平成29年6月5日,神奈川県の東名高速道路で,トラックがワゴン車に衝突し,ワゴン車に乗車していたご夫婦がお亡くなりになってしまうという悲惨な事故が起きました。この事故が起きた原因は,加害者の男性が,被害者のワゴン車に対し,いわゆるあおり運転をし,ワゴン車の前に割り込み,停車させたことから,加害者の男性に対し,どのような罪が科されるのかについて,テレビ番組などで議論にもなったことを覚えています。この事件については,昨年10月に横浜地方検察庁にて,加害者(被疑者)を,「危険運転致死傷罪」にて起訴したとの報道もなされましたが,逮捕時の被疑事実は「過失運転致死傷罪」でした。そこで本日は,2つの犯罪の違いや,本件でなぜ「危険運転致傷罪」として起訴したのかについての,私の考えについてご説明させていただきます。

 

1 「危険運転致死傷罪」と「過失運転致死傷罪」について

 「危険運転致死傷罪」とは,自動車の運転により人を支障させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法と略されています。)に規定されており,アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為や,今回問題となる,人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為により人を死傷させた人を処罰するものになり,犯罪が成立すると,致死罪であれば1年以上20年以内の有期懲役,致傷罪であれば,1月以上15年以下の懲役が科されることになります。

 「過失運転致死傷罪」は同じく,自動車運転死傷行為処罰法に規定されており,自動車の運転上必要な注意を怠ったことにより,人を死傷させた場合に処罰するものであり,1月以上7年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金が科されることになります。

 このように,「危険運転致死傷罪」と「過失運転致死傷罪」では,科される刑罰について,大きな差があることから,東名高速での事故の際の逮捕事実が「過失運転致傷罪」であったことから,成立する犯罪について非常に注目される事態となりました。

2 成立する罪名について

 テレビ番組等では,加害者に対し,殺人罪を適用することができないかということも議論されているのも目につきました。確かに,処罰感情からすると殺人罪として処罰したいという気持ちも分からなくもないですが,進路妨害して停止させた加害者に,殺意(人を殺してしまっても差し支えないという認識)まで認めるということは難しいので殺人罪での立件(起訴)は難しいのではないかと思います。

 また,警察の逮捕段階で,「過失運転致死傷罪」という罪名であったことについては,今回のようにどのような犯罪成立するか難しいケースでは警察の逮捕段階と起訴段階では異なる罪名になるということは珍しくはありません。

 今回の事件でのいちばんの争点は,加害者の行為が,危険運転致死傷罪の「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」に該当するかという点と,その行為と被害者の死亡との間の因果関係(原因と結果の関係をいいます。)が認められるという点にあると思います。この争点については,あくまでも,私個人の意見ですが,あおり運転により前に割り込み走行を妨害し,「高速道路で停車させるという重大な交通の危険を生じさせる速度」で運転したことにより,後続の車両が衝突し,死亡するに至ってしまったということは十分に成り立つため,「危険運転致死傷罪」で起訴したことは十分に間違っていないのではないかと考えています。

 もっとも,今回の事件では,「危険運転致死傷罪」が本来的に想定している犯罪対応とは異なる事故対応であることは間違いありません。また,近年あおり運転が横行しており,それにより今回のような重大な事故が起きてしまっている現状をなんとかしなければいけないのではないかと考えており,立法によりあおり運転を行ったこと自体に対し,厳しい制裁を科すなど,あおり運転自体をなくす方策が必要なのではないかと感じています。