【相談事例①】
小学校5年生の娘が通う学校の一部のお友達のグループで,タトゥーを入れることが流行しているようです。針と墨を使い自分たちで入れているとのことでした。娘には,絶対にあなたはしてはいけないと強く言っているのですが,もし,娘がそのお友達に誘われてタトゥーを入れてしまった場合,相手の親などに治療費を請求できるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
ひと昔前だと,タトゥー(入れ墨)を入れるのはやくざになる人というイメージがありましたが,海外のタレントやスポーツ選手などの影響でタトゥーを入れたいと考えている人も少なく無いと聞きます。特に中学生のお子さんの場合には,おしゃれ感覚や,「みんながやっているから自分もしてみたい」という安易な考えでタトゥーを入れてしまうのではないでしょうか。しかし,タトゥーを一度入れてしまうと,基本的に消すことは困難であり,タトゥーを入れている人に対する世間の目も厳しいものがあります。今回の相談事例では未成年のお友達同士のタトゥーについてのご相談ですが問題になりうる点について解説させていただきます。
1 刑事事件について
まず,他人にタトゥーを入れる行為については,針を使うため医療行為に該当するかが問題となり,医師免許を有していない人が他人にタトゥーを入れると,医師法違反になる可能性があります。タトゥーを入れる行為が医療行為に該当するかについては刑事事件で争われていますが,平成29年9月には大阪地裁にて,医療行為に該当する旨の判断がなされています(現在,この事件については控訴審で争われており,別の結論がなされる可能性もあります。)。
また,他人の意思に反してタトゥーを入れる場合には針を用いて身体を傷つける行為であるため傷害罪(刑法204条)に該当する行為になります。
上記犯罪については,行為者が未成年者であっても検挙され,回数が非常に多い場合には少年事件として家庭裁判所に送致されてしまう可能性があるため,お子さんには他の人にくれぐれもタトゥーを入れないよう指導しておくことが必要です。
2 民事事件について
次に,お友達にタトゥーを入れられてしまった場合には,不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条,710条)として,治療費や慰謝料を請求することができます。この点,未成年者の場合には,民法712条,714条の適用が問題になります。民法712条では,未成年者が不法行為の時点で責任能力(自己の行為の責任を弁識するに足りる能力をいいます。)を有していない場合にはその行為について,賠償責任を負わないとされています。
責任無能力者の不法行為の場合には,民法714条に規定があり原則として未成年者を監督する義務のある両親が賠償する責任を負います。
責任能力については概ね12歳~13歳ぐらいで認められると考えられているため,ご相談者様の事例では,お子さんのお友達には責任能力は認められないとして,お友達のご両親に対し損害賠償請求をすることになると思われます。
もっとも,タトゥーを入れることになった経緯として,お子さんがお友達に押さえつけられて無理やり入れられた場合には問題とはなりませんが,お友達からしつこく誘われて断りきれなかった場合や,お子さんの方から積極的に入れるよう求めた場合には,お子さんについても一定の落ち度があると認められるため,治療費や慰謝料の全額についての請求は認められないでしょう。
いずれにせよ,一度タトゥーを入れてしまうと,友人関係だけでなく,将来についても取り返しのつかない事態になってしまう可能性もあるのでお子さんにはどれだけ誘われても断るようきちんと指導するべきであると考えます。