【相談事例⑮】
前回の記事で,不貞をしているのを公にしたら名誉毀損罪が成立し,損害賠償を請求することができると記載されていたのですが,芸能人の不倫や,政治家の不倫が週刊誌などで報じられているのは名誉毀損として出版社等は罪に問われないのでしょうか。
【弁護士からの回答】
近年,週刊誌により,芸能人や政治家の不倫などのスキャンダルが頻繁に報じられていますが,このような週刊誌によるスキャンダルに関する報道と,名誉毀損罪若しくは,損害賠償請求の関係についてご説明させていただきます。
1 はじめに
前回の記事でお伝えした通り,他の異性と不倫(不貞)をしているという事実は,一般的に公にされた人の名誉を毀損することは明らかであり,それは,公にされる人が芸能人であっても政治家であっても,名誉が害されることに変わりはありません。
2 政治家の場合
刑法230条の2の2項では,名誉毀損罪に該当する行為が,「公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。」と規定されており,政治家(国会議員)も公務員であるため,名誉を毀損する内容が真実である場合(もしくは虚偽であったとしても真実であると信じたことについて,確実な資料等により相当の理由があると認められる場合)には,名誉毀損罪は成立しないことになります。これは,国会議員等の政治家は,国民の代表として,いわゆる「公人」として存在している以上,公人に関する事項は,公人の名誉よりもその事実を周囲に発表することにより国民の利益(表現の自由や知る権利)を尊重すべきと考えられているからです。
3 芸能人の場合
では,スキャンダルを報じられたのが,芸能人の場合はどうでしょうか。芸能人は当然,公務員ではありません。また,刑法230条の2第1項では,「公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。」と規定していますが,芸能人のスキャンダルが,公共の利害や公益とは無関係であることは明らかであると思います。
したがって,芸能人のスキャンダルに関しては,名誉毀損罪が成立しうることになりますし,プライバシー権を侵害しているとして,損害賠償を請求しうることになります。芸能人として世間にみられる立場である以上,プライバシー権を放棄しているというような極端な考えもありますが,そのような考え方は一般的ではありません。
しかし,名誉毀損罪として処罰の対象となるためには,被害者が告訴をしなければならず,告訴がなければ犯罪として処罰することはできません(これを親告罪といいます。)。したがって,週刊誌によるスキャンダルのほとんどのケースでは,罪自体は成立しうるものの,暴露された芸能人が,今後の活動の影響などを考えて,告訴をしていないのではないかと考えられます。
また,民事訴訟においても,損害賠償として請求することができる金額は多くて数百万程度であり,内容によっては数十万程度しか認められない場合もあります。したがって,マスコミ側としても,そのような少額の賠償を払うリスクよりも,その内容を記事にすることによる利益を優先してしまっているのではないかと考えています。
とはいえ,ひとつのマスコミの記事により,芸能人としての活動やその後の人生まで大きく変えられてしまう人も少なくないと思いますので,マスコミの報道の仕方についても,行き過ぎた取材は報道に対しては,裁判所での制裁だけではく世間としての見方も変えなくてはならないのではないかと感じています。