<ご相談者様からのご質問>
先日,父が亡くなりました。私が父の長男であったため,早急に父の葬儀を執り行いました。その際の葬儀費用は300万円程度だったのですが,まとまったお金もなかったので,父が亡くなってすぐ,父名義の口座から引き出して支払いました。
その後,父の遺産分割の話し合いになった際,私の弟たちから葬儀費用を父の預金から支出していることに不満がでました。父の葬儀費用なので,父の口座から支出することに問題はないと思うのですが,どうなのでしょうか。
<弁護士からの回答>
ご親族が亡くなった場合,葬儀を実施するのが一般的ですが,この葬儀費用に関しては被相続人の預金の引き出しとの関係で問題になることが非常に多いです。今回は葬儀費用の負担の問題についてご説明させていただきます。
葬儀費用とは,死者の追悼儀式に要する費用と,埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬に関する費用及び火葬に要する費用等)をいうとされています。
この葬儀費用について,被相続人の死後に相続人間で話し合いを行い,相続人間で負担する,若しくは,相続財産より支出する旨の合意ができる場合には,その合意に基づいて,葬儀費用を負担すればよいのであって,特段問題になることはありません(実際に多くのご親族が,話し合いにより葬儀費用の負担を決めていることが多いのではないでしょうか。)。また,被相続人が遺言などで葬儀費用の負担について記載している場合や,互助会等に葬儀費用の積立などを行っている場合(通常葬儀費用の負担についても決めていることが多いです。)には,被相続が決めた内容にしたがって,葬儀費用の負担が決まることになるため,問題になることはありません。
これに対し,葬儀に費用の負担に関して,被相続人が何ら取り決めておらず,かつ,相続人間で協議が整わなかった場合にはどのように処理されるのでしょうか。実際に問題になるケースでは,ご相談者様の事例のように,被相続人がお亡くなりになってすぐに,被相続人名義の預金口座から葬儀費用を引き出し,後の遺産分割協議等で,他の相続人から預金の引き出し行為について指摘されるといったケースが非常に多いです。
ここで,葬儀費用について,相続財産から支出することが可能なのか,すなわち,葬儀費用を誰が負担すべきであるかについては,法律上明確な規定があるわけではありません。学説などでは,①共同相続人で負担すべきという考え方,②喪主が負担すべきであるという考え方③相続財産より支出すべきであるという考え方など諸説の考えがあります。
この問題に関して,名古屋高等裁判所の平成24年9月29日の判決では,葬儀費用のうち,追悼儀式に要する費用(葬式代等)については,儀式を主宰した者(自己の責任と計算において,儀式を準備し,手配等をした者)が負担すべきであると判断しました。簡単にいうと,儀式を主宰した喪主(通常,喪主が儀式を主宰することになると思うので,喪主負担となると考えても差し支えないと思います。)。
理由としては,葬式に関しては,被相続人が何ら決めていない場合には,そもそも葬式を行うのか否か,どの程度の規模の式を行うのか否か,その式にどれだけ費用をかけるのかについては,全て主宰する人が決めることができる以上,主宰者で負担すべきであると考えたのです。また,喪主が負担すべきであると考える考え方の理由として,上記裁判例の理由に加え,主催者は出席者からの香典についても受け取ることができることからも,喪主が負担すべきであると考えているようです。
このように,葬式の費用等については,何も決めていない以上,喪主負担となってしまうことから,自身のお亡くなりになったときの備えを何ら準備していないと,遺されたご家族間での争いを生んでしまう可能性があるため,弁護士に相談し,しっかりと葬式についても記載した遺言書を作成することをお勧めします。