【ご相談者様からのご質問】
慰謝料には、離婚慰謝料と不貞慰謝料の2種類があるのですね。
不貞が原因で離婚するのだから、不貞慰謝料だけでなく離婚慰謝料も当然、第三者にも請求できると思うのですが・・・。
【弁護士からの回答】
前回は、最高裁判例の事案のご説明と、どのような点が問題になっているのかについてご説明させていただきました。
この事件、第1審、第2審と最高裁との間で判断が分かれたのですが、ポイントは、不貞行為を行ったことと、夫婦が離婚することをどのように考えるのかというところにあります。
1 第1審及び第2審について
第1審及び第2審は、妻とAとの不貞行為により、夫と妻との間の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったものであるから、Aは両社を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負い、Aは夫に対し、離婚に伴う慰謝料を請求することができると判断しました。
すなわち、第1審及び第2審では、不貞行為を行った第三者に対しても離婚慰謝料を請求することができると判断し、原告の慰謝料請求の一部を認容しました。
判決の理由にもあるように、不貞が原因で離婚したのであるから、離婚慰謝料を支払う義務があるというのは自然なようにも思えます。
もっとも、不貞行為の第三者に対し離婚慰謝料が認められるとすると、不貞により直ちに離婚した場合には、離婚してから3年間相手から請求がない場合には、時効により、請求を逃れられることになりますが、不貞が原因で家庭内別居が続き、不貞行為から10年経過した後に、離婚したような場合には、第三者はその場合でも慰謝料を支払う義務があることになってしまい、いつまでも損害賠償を受けるリスクにさらされることになり、妥当ではないという考え方もあります。
2 最高裁判所の判断
上記第1審及び第2審の判断を不服としたAが、最高裁判所に上告を行った結果、平成31年2月19日、最高裁判所において、それまでの判決のうち、Aの敗訴部分(離婚慰謝料を認めていた部分)を取消した上で、原告である夫の請求を棄却しました。
そして、最高裁判所は、以下のような判断を行いました。
①夫婦の一方は他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害を求めることができる。
②夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合はあることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない
③第三者がそのこと(夫婦離婚させたこと)を理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不法行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られる。
上記①~③の詳細な内容については次回ご説明させていただきますが、上記判断のうち②については、第三者に対し、「不貞慰謝料」は認められるものの、「離婚慰謝料」は原則として認められないと判断した点で非常に重要な判例とされています。
次回は、最高裁判所の判断の内容について解説させていただきます。