【相談内容】
殺意の認定というのは非常に難しいのですね。よくドラマなどで「ぶっ殺してやる!」などと言って殴ったりする場面があると思うのですが、その場合には殺してやると言っているので、殺意があることは間違いないですよね?
【弁護士からの回答】
前回に引き続き、今回も殺意の認定の判断要素についてご説明させていただきます。
前回ご説明した考慮要素は、殺意の認定において重要な考慮要素でしたが、今回の考慮要素は、一般の方からすると重要と思われがちですが、裁判上での重要度は前回の内容よりも下がる傾向になります。
1 動機(犯行前の事情)について
通常、人を殺害しようと考えている人は、快楽殺人鬼などの場合を除いて、対象となる人に対して、相当程度の恨みを有している場合や、殺さなければならないような事情を有しているのが通常です。
したがって、喧嘩の際の突発的に殺意が生じた場合を除いて、被害者の方に対して何らかの動機を有している場合には、殺意が認定される方向に働くことになります。
もっとも、単に嫌っていたという程度の動機では足りず、殺意を抱いてもやむを得ないと認められる相当程度強い動機である必要があります。
2 犯行後の事情について
例えば、犯行後に犯人が自ら119番通報した場合や救助行為を行った場合には、死の結果を企図していなかった可能性が高く、殺意を否定する方向に働きうる事情になります。
逆に、何ら救助行為を行わず被害者を放置した場合には、死の結果を容認していたと認定される方向になり得ます。
もっとも、救助行為を行った場合であっても、「行為」時には殺意があり、思い直したという可能性も否定できませんし、放置した場合であっても、致命傷には程遠い傷害結果であるのにも関わらず追撃しなかった場合には、逆に殺意を否定する方向にも働きうるため、行為後の事情の評価は非常に相対的であるため、考慮要素としての重要性は若干下がるといえるでしょう。
3 その他(行為の言動について)
では、ご相談者様のご質問にあるように、犯行時に、犯人が「殺してやる」などと発言している事情はどうでしょうか。
確かに殺意があることをうかがわせるような発言を行っていること自体は、殺意を認定する方向に働きうる事情ですが、そのような発言を常日頃から行っている人もおり、そのような乱暴な言葉を使っている人に限って本当に殺してやるとまでは思っていないケースもよくあります。
したがって、発言を行ったことのみをとらえるのではなく、犯人の性格や従前の言動についても考慮する必要があります。
4 最後に
前回から殺意の認定についてご説明させていただきましたが、殺意があるか否かという問題は、成立する犯罪や量刑が非常に異なる非常に重大な争点であるにも関わらず、判断が非常に難しい問題でもあります。
裁判員裁判ではそのような非常に重大かつ難しい争点について一般の人が判断せざるを得ないため、選ばれた裁判員の方のフォローも必要になってくるのではないかと思います。
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