弁護士コラム

2019.05.24

経営法務リスク~無期転換ルールのリスクとは~

金融危機や労働者派遣法の見直しが実施された1998年頃から正社員としての雇用が減り、有期雇用契約が増加し始めました。有期雇用契約を活用することは、会社の経営状況に合わせて人件費を調整しやすい点や、正社員と比べて人件費を抑えることができる点から、有期雇用契約は長期間に渡り、更新されてきました。しかしながら、有期雇用契約の社員にとっては雇用が安定しないことから経済的な自立やキャリア形成を図ることが難しいという問題がありました。

それらの問題に対応するために、国は政策の一環として、「無期転換ルール」を法律として定め、企業に積極的に取り入れるように推進しています。今回は「無期転換ルール」を取り入れる企業に生じるメリット、デメリットについて説明したいと思います。

1.有期契約雇用と無期契約雇用の違いとは?

平成25年4月1日に施行された労働契約法の改正において、「有期雇用されている期間が5年を超える場合は、労働者は無期雇用に切り替えを求めることができる(労働契約法第18条1項)」という「無期転換ルール」が定められました。
対象者は、有期契約社員、アルバイト、パートタイマー等の有期雇用者となり、企業は対象者から期間の定めのない労働契約の締結の申込みがあった場合、対象者からの申し入れを拒否することが出来ません。

有期雇用と無期雇用の違いは、「契約期間に定めがある雇用」か「契約期間に定めが無い雇用」かという点になります。そこで、理解しておかなければならない事は、「無期雇用に転換になる=正社員」ではないという点です。雇用形態が無期雇用に変更されたとしても、契約期間の定め以外の労働時間、賃金、その他の労働条件は、特段の合意がなされていない限り、有期雇用時と同一のものになります。
つまり、「無期転換ルール」とは、あくまでも雇用期間の変更に過ぎず、自動的に労働条件が正社員と同一になるわけではありませんので、ご注意ください。

2.無期契約雇用のリスク

前述した通り、無期雇用への変更により、特段の合意がなされていない限り自動的に労働時間、賃金、その他の労働条件が正社員と同一の条件に変更されるわけではありません。しかしながら、その様な事態を防ぐために企業側も就業規則の整備など一定の事前準備が必要となります。

就業規則において、有期雇用から無期雇用に転換した社員と、無期雇用の正社員(通常の正社員)との賃金等の労働条件が区別されていなければ、無期雇用に転換した社員が正社員と同じ労働条件になるリスクが生じます。
もし、有期雇用から無期雇用に雇用形態を変更した全員が正社員と同一の労働条件となれば、人件費等が大幅に増大することになり、経営を圧迫する要因の一つとなります。

一般的な会社の就業規則においては、「正社員」「契約社員」「パート」などの区別しかなく、労働条件は有期雇用の契約社員と同等だが、雇用期間は無期という形態があまり想定されておらず、就業規則には規定されていないことが多いものです。一度、しっかりと確認した方が良いでしょう。

また、業務内容の範囲についても、各雇用形態別に区別して定めることが重要です。区別して定める理由としては、例えば、無期雇用に転換した社員と正社員との間に業務内容や責任の範囲に違いが無いにも関わらず、待遇面において差が発生することによって、社員の間に不満が生じ、トラブルの原因になる可能性が考えられます。

雇用形態別に業務範囲を区別して定めることにより、未然にトラブルを防ぐことが可能になります。この様な事態を防ぐためにも、事前に就業規則を見直し、整備することをお勧めします。

もう一つの企業側のリスクとして、解雇にかかる問題が挙げられます。有期雇用の場合では契約期間が明確に定められているため、経営状況に合わせて契約更新の可否を判断し雇用人数を調整することが可能でした。

しかしながら、無期雇用の社員の場合、契約を解除するには「解雇権濫用法理」(解雇権濫用の法理とは、「就業規則の規定に反する行為をした等の解雇事由に該当したとしても、解雇は社員やその家族へ与える影響が非常に大きいため、合理的かつ論理的な理由が存在しなければ解雇できない」という理論。)により、厳格な解雇規制が適用されます。その結果、経営状況に合わせた雇用人数、人件費の調整が難しくなってしまいます。

3.無期雇用転換のメリットとは?

それでは、企業にとって有期契約の従業員を無期雇用へ転換するメリットはどのようなものがあるのでしょうか。

1つ目は、新人を採用するのと比較し、既に会社の実務を理解し、経験のある社員を手放さずに済む点です。契約期間の定めが無くなることで、中長期的な社員の育成が可能となり、新規社員の採用コストや育成コストを削減することができます。

2つ目は、有期雇用から正社員や無期雇用に転換を行った場合、一定の受給要件を満たせば政府からキャリアアップ助成金を受給することができる点です。社員の雇用を見直す際には、助成金の受給も併せて検討すると良いでしょう。

検討する際には、社員の雇用形態の現状をきちんと把握することが大切です。予め、雇用形態の現状を把握することにより、助成金の受給申請の計画が立てやすくなります。
助成金申請は、細かいルールが定められており、これを満たしていないと形式的に受給申請ができなくなりますので、専門家に相談しましょう。

4.まとめ ~企業側が備えること~

無期転換ルールの発生に伴う企業のメリット、デメリットについてご理解いただけましたでしょうか?

平成30年より制度の運用が本格的に開始され、約1年が経過しました。まだ社内において、無期転換ルールに対応できる労務環境が整っていないのであれば、急務で整備に取り掛かる必要があります。

まず企業が行うべきことは、雇用形態に合わせた就業規則を確認、整備し、待遇面や業務内容の範囲について明確に定めることが大切です。
弁護士や社労士などの専門家にも相談しながら、「無期転換ルール」に対応した労務環境作りを行いましょう。

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