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起業する前に知っておくべきこと4~会社の設立~

前回前々回の記事では、個人事業主が法人成りするメリット・デメリットについてお話しました。今回は、それらの記事を踏まえて、法人成り(会社の設立)をお考えの方が知っておくべき知識をご紹介します。

1.会社の種類

会社には、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4つの形態があります。それでは、実際に会社を設立する場合、この中のどれを選べば良いのでしょうか?

合資会社と合名会社に関しては、以下に記載しているとおり、無限責任社員が存在し、事業に失敗したときに経営者が直接リスクを負わなければならないため、現在、これらの形態で会社を設立する人は少なくなっています。

<合資会社>
・全ての出資者が無限責任社員となり、会社の債権者に対して無限に責任を負う
・無限責任社員は、倒産などで会社が債務を負ったが履行できない場合、自らの全財産を弁済に充てなければならない=自分の財産をもって会社の債務に対する責任を負わなければならない

<合名会社>
・前述した無限責任社員と、出資額を限度として会社の債権者に対して責任を負う直接有限責任社員とで構成される

これに対し、株式会社合同会社有限責任社員で構成されます。つまり、事業で失敗してしまった場合でも、社員は出資額の範囲内でしか責任を負う必要がないということです。

以上のことから、会社を設立するときは株式会社または合同会社を選択することをおすすめします。

2.株式会社と合同会社の違い

「1.会社の種類」から、会社設立時には株式会社か合同会社が良いということがお分かりいただけたかと思います。それでは、株式会社と合同会社ではどちらを選択すれば良いのでしょうか?

<株式会社と合同会社の違い>

株式会社 合同会社
議決権 出資割合に応じて、株主総会の議決権の割合が変わる 出資割合に関わらず、原則として1人1票の議決権を持つ(=複数の出資者が存在し、意見に相違があった場合、収集がつかなくなる可能性がある)
配当 出資割合に応じて配当金を支払う 定款の定めにより、出資割合とは異なる割合で自由に配当金の支払いができる
認知度 日本の多くの法人が株式会社なので、認知度が圧倒的に高い 日本の多くの法人が株式会社なので、認知度が圧倒的に高い
設立費用 ・登録免許税:資本金の7/1000
(15万円に満たないときは、申請件数1件につき15万円)
・定款認証手数料:5万円
・印紙代:4万円
(電子定款の場合は不要)
・登録免許税:資本金の7/1000
(6万円に満たないときは、申請件数1件につき6万円)
・定款認証手数料:5万円
・印紙代:4万円
(電子定款の場合は不要)
決算公告 決算公告をして、会社の決算書を公表する義務がある 決算公告は不要

「どちらで設立したほうが良いのか分からない…」という方には、株式会社をお勧めします。なぜなら、海外では合同会社はLLCとして認知度が高いですが、日本においては多くの法人が株式会社であり、合同会社の認知度は低いです。
社会的信用度を考慮すると、株式会社にしておいたほうが、取引や採用の場面などで安心できるかと思います。

3.株式会社設立の流れ

それでは、株式会社はどのように設立したら良いのでしょうか?

① 商号の調査
まず、同じ所在地に同じ会社名(商号)がないかを確認します。この調査が必要な理由は、同じ所在地に同じ会社名を登記することができないためです。

② 出資者(以下、「発起人」といいます。)、取締役の印鑑証明書取得
会社を設立するにあたり、印鑑証明書が必要な場面が2回(定款認証をするとき、登記申請をするとき)あります。印鑑証明書は、住民登録をしている自治体で取得することができるので、各自治体のホームページなどで持参する必要があるものを調べた上で窓口に行きましょう。

③ 定款の作成
定款は会社の運営に関するルールであり、会社を設立するときは必ず作成しなければなりません

<絶対的記載事項>
(1)目的 (2)商号 (3)本店所在地 (4)設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
(5)発起人の氏名又は名称及び住所 (6)発行可能株式総数
以上の事項が定められていなければ、定款の認証を受けることはできません。

<相対的記載事項>
(1)取締役会等の設置
(2)取締役等の任期の伸長
(3)株式譲渡制限に関する定め
これらはあくまで例であり、相対的記載事項は上に述べたもの以外にも多く存在します。相対的記載事項が定められていなくても、定款自体は無効になりませんが、定款に定めの無い事項の効力は認められません。

<任意的記載事項>
(1)定時株主総会の招集時期
(2)株主総会の議長
(3)営業年度
これらもあくまで例であり、任意的記載事項は上に述べたもの以外にも多く存在します。任意的記載事項は、定めていなくても定款・事項の効力は否定されませんが、定款に記載することでルールが明確になるので、会社にとって重要な事項は定めておいた方が良いでしょう。

④ 定款認証
定款を作成したら、発起人の署名または記名押印をした上で、公証役場で定款認証を受けます。この認証を受けなければ、定款の効力は認められません。公証役場には、定款3通(公証役場保存用・会社保存用・登記用)、印鑑証明書(発起人全員分)を持参します。また、手数料として5万円、収入印紙代4万円が必要です。

⑤ 資本金の振込み
登記申請では、払込申請書(資本金の振込みがあったことを証明する書類)を添付しなければなりません。そこで、発起人は、出資金を通帳に振り込む必要があります。この時点ではまだ会社は設立できておらず、会社の口座は存在しないので、発起人個人の口座に振り込みます。振込みが完了したら、通帳をコピーして、払込証明書とします。

⑥ 登記申請書の作成・申請
株式会社登記申請書を作成し、本店となる場所を管轄している法務局に申請します。

<全ての株式会社が登記する事項>
(1)商号 (2)本店所在地 (3)設立日※ (4)公告の方法 (5)事業の目的
(6)資本金の額 (7)発行可能株式総数 (8)発行済株式総数 (9)取締役の氏名
(10)代表取締役の氏名、住所 
※設立日は登記を申請した日になります。
  
<定款等の定めがある場合に登記すべき事項>
(1)譲渡制限株式に関する定め (2)取締役会の設置会社である旨 
(3)監査役の設置会社である場合には「その旨」と「監査役氏名」 等
 一度登記してしまうと、内容を変更するためには手数料がかかってしまうので、よく考えて登記をする必要があります。

①から⑥までの手順を経ることで、株式会社を設立することができます。

4.まとめ

「会社を設立したいけれど、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社のどれを選択すれば良いか悩んでいる」という方には、ぜひ今回の記事を参考にしていただけたらと思います。

「3.株式会社設立の流れ」でお話した通り、会社を設立する手続きはとても煩雑です。手続きに漏れがあって会社を設立するまでに時間がかかってしまったり、誤った内容の登記をして変更手数料を支払ってしまったりすることを考えると、依頼費用は必要ですが、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのがおすすめです。