国内の企業では年俸制を採用している企業は少ないですが、外資系の企業やベンチャー企業などでは、従業員に労働時間を意識せずに業務に取り組んで欲しいといった思いから、年俸制を採用している企業、若しくは導入を検討している企業が多く存在しています。
今回は企業にとって年俸制を採用することによる、月給制との相違点、リスクについてご説明します。
1.年俸制について
年俸制とは、支払われる給与が1年単位で固定されている給与体系の事を指します。金額については従業員との合意に基づき決定されますが、年俸金額の決定方法が不合理でなければ、特別に法的な制限は設けられていません。
一部の経営者の方は、年俸制を採用すれば従業員との間で合意した金額を年に1回支払うことで給与の支払いが済むという認識をお持ちの方もいらっしゃいますが、その考えは誤りです。
年俸制を採用しても、一般的には月給制と同じように年俸を12等分に分割して各月に1度は支払う必要があります。
万が一、従業員が傷病により働けないといった場合にも毎月年俸を12分割した金額を支払わなくてはなりません。
また、年俸制を採用したとしても、労働時間の管理、残業代の支払い、といった点は月給制と同様に対応する必要があるため、それらの手間を省くことを目的に年俸制を採用するといったことは出来ません。
よって、月給制と年俸制の違いは、給与の金額が月単位で変動するのか、もしくは年単位で変更するのかという部分のみになります。
それでは、年俸制を採用することによる企業のメリットとはどこにあるのでしょうか?メリットの1つとして人件費が年単位で固定されるため、長期的な経営計画が立てやすくなるという点があります。
月給制では営業手当等によって賃金が大きく変動することがあるため、当初の経営計画より人件費が大きく変わる可能性があります。
しかし、年俸制では基本的に残業代以外の賃金が変動する可能性は少ないため、経営計画通りの人件費で事業を進めることが可能となります。
もっとも、従業員にとっては、仕事の成果が賃金に反映されるのは最長で1年後となるため、モチベーションの維持することが難しいという問題点も存在します。
2. 年俸制における残業代
前述した通り、企業は年俸制を採用したとしても、法定労働時間を超えた労働時間について残業代を支払う義務を負っています。
企業としては毎月の残業代を算出する手間を省くために、年俸に固定残業代を含めて支払うケースがあります。なお、年俸に固定残業代を含めるという扱いをする場合には、雇用契約書において基本給と固定残業代を明確に区分して明示する必要があります。
これに加えて、固定残業代が何時間分の残業に対して支払われているのかを明確にしておく必要があります。
これらが雇用契約書に明示がされていない場合、従業員との間で残業代のトラブルに発展すると、裁判所等から、固定残業代は無効として年俸の全額が基本給であると判断されてしまい、年俸とは別に残業代を支払わなければならないリスクが生じます。
そのため、年俸制を取り入れる場合には、企業と従業員に認識のずれが生まれないように正確な雇用契約書を作成し、年俸制に適応した就業規則を整備してリスクを排除する必要があります。
3.年俸制で減額をする際のリスク
企業は年俸制の採用によって長期的な経営計画が立てやすくなる一方で、従業員との間で年単位の契約を結んでいるため、業績不振に陥ったとしても企業側の一方的な理由で減額を行う場合には、従業員にとっては明らかな不利益変更であって、従業員の個別同意がない限り、許されません。
したがって、年棒を減額する場合は、必ず従業員の合意を得るように注意が必要です。
また、従業員の同意を得るときに注意すべき点は、企業が従業員に同意を強要していないこと、つまり従業員の意思に基づいて合意がなされているという点が重要になります。年俸額の合意決定権は従業員が有していると考えておくことが相当です。
賃金規定等で年俸の増減の規定が定められている場合には、その規定を超える減額は認められません。
仮に、賃金規定等が整備されておらず企業側の判断によって翌年の年俸が決まる場合では、一般的に年俸額の減額に限度はありませんが、社会通念上認められない不合理な減額については権力の濫用と判断されるリスクもありますので注意が必要です。
4.まとめ
今回は年俸制について説明をしましたがメリット、リスク等を含めご理解いただけましたでしょうか?リスクを軽減するには、正確な雇用契約書の作成、就業規則の整備、従業員との合意、が大切なポイントとなります。
年俸制の採用を検討している企業は専門家に相談したうえで、現状のまま年俸制をスタートさせて問題がないか精査を行い、必要であれば就業規則等を整えたうえで、年俸制への移行を進めましょう。