昨今、働き方の多様化や人件費の抑制を理由に、請負契約や業務委託、派遣社員等の雇用ではない社員(以下、「請負・業務委託社員」といいます。)の活用が多くなってきました。
このような働き方をしている社員は、通常自社が直接雇用している労働者ではないのですが、業務の実態によって、「労働者」であるとの主張がなされ、未払い残業代や解雇の無効性を争って紛争に発展する会社が増えてきています。
では、契約上は従業員ではないのに、どういった点で雇用されている従業員だと判断されてしまうのでしょうか?
1.過去の裁判例の分析
過去、さまざまな裁判が行われてきましたが、以下の判例をもとに分析していきたいと思います。
〈内容〉
原告は被告会社と「運送請負契約」を結び配達員として稼働し、かつ被告会社の営業所で所長職に従事していた。(所長職とは、複数名の配達員の中から事業所ごとに1名選出される、被告会社と配達員らの間の窓口となる役職であった。)
原告としては、自身は被告会社の「労働者」であり、所長職の解任や配達員としての稼働停止処分は不当であるとし、解雇無効及び所長解任による賃金減額分の未払い請求を求めた。
〈判決〉
原告と被告会社の間には、配達員としての運送請負契約、所長職に任命する契約関係がそれぞれあったことを認定したうえ、配達員に関する契約は請負契約であるとして稼働停止処分は認められたものの、所長職については、被告会社と指揮命令関係があったとして「労働者」と判断し、賃金減額分の支払を命じた。
≪参考判例 東京地判平成22・4・28労判1010・25≫
今回なぜこのような判決となったかについてですが、いくつか理由が挙げられています。
契約関係においては、配達員としての請負契約は締結していたのですが、所長職に対しての契約は特に結ばれていませんでした。
また、業務の実態においては、①所長職に対する拒否権はなかったこと、②会議等がありそこで原告に対して指示命令がなされていたこと、③営業所内で伝票整理や事務的作業を行うなど場所的拘束があったこと、④所長職を誰かに代理でしてもらうことができる状態でなかったこと等が挙げられました。
そして、過去、所長職手当から源泉徴収がなされたことがあるなど、賃金としての性質を持つ手当の振込みがあったこともあり、以上をもって裁判所としては原告が被告会社の労働者であったと判断し、賃金減額分の支払を命じたのです。
2.判断ポイント
過去、この労働者性というものに関する裁判が多々行われてきており、近年の裁判では、以下の要素をもとに「労働者」か否かの判断が下されています。
(1)仕事の依頼や業務指示に対して拒否する自由があったかどうか
(2)業務における指揮監督関係があったかどうか
(3)時間や場所的自由があったかどうか
(4)職務代行が可能かどうか
(5)報酬が労働の対価となっているのかどうか
(1)仕事の依頼や業務指示に対して拒否する自由があったかどうか
会社と雇用関係にある「労働者」であれば、使用者である会社からの依頼や業務指示に拒否する自由はありません。
しかしながら、請負や業務委託等の契約であれば、その仕事を引き受けるかどうかはその人次第であり、決定権は自身にありますので、指示に対する拒否の自由が判断基準の一つとされています。
ただ、その会社専属の下請業をされている場合は、事実上拒否することは出来ませんので、これだけをもって「労働者」かどうかの判断をされることはありません。
(2)業務における指揮監督関係があったかどうか
指揮監督関係があれば、業務の進め方などで具体的な指示が及ぶことになりますので、そうなると「労働者」と判断されるおそれがあります。
そのため、請負や業務委託等の方への指示は、仕事を依頼している注文者としての立場にとどめ、実際の業務遂行に関しては、本人の裁量に任せるのが望ましいです。
なお、契約した業務内容以外の業務をさせてしまうと、使用者からの指示を受けていると判断される可能性がありますので注意してください。
(3)時間や場所的自由があったかどうか
請負・業務委託社員であれば、仕事をいつ・どこでするのかは個人の裁量に委ねられます。そのため、「労働者」と同じように勤務時間や勤務場所を明確に定めてしまうと、使用者である会社の監督下であると判断される材料となります。
また、会社の全従業員が参加する朝礼等への出席義務も指揮命令関係があると思われてしまいますので、出欠については本人に任せるのが良いでしょう。
(4)職務代行が可能かどうか
請負・業務委託社員は、すべて自身の裁量で決められる個人事業主です。
「労働者」であれば、使用者と指揮監督関係にあり雇用契約となるため、本人に代わって労務の提供をすることは出来ません。
そのため、自身の判断で自身の代わりに業務を提供する人を用意する、つまり労務の代替性が認められているかも判断のポイントとなってきます。
(5)報酬が労働の対価となっているのかどうか
本人へ支払う報酬が労務を提供している時間に応じて金額が決められているのであれば、「労働者」と判断される恐れがあります。
請負や業務委託は、仕事の完成や仕事の処理を目的としているため、一定時間働いたからといって報酬が支払われる訳ではありません。注文を受けた仕事が完成した、契約をたくさんとったなど、成果に対しての報酬となりますので、労働時間とリンクはしません。
そのため、支払われた報酬が時間給で計算されていたり、休んだ分の控除がなされていたりすると、「労働者」と同じく労働時間の提供への対価とみなされる可能性があります。
請負・業務委託社員へは成果に対する報酬、「労働者」へは労働時間に対する報酬ということをきちんと把握し、報酬額を決めるように心がけましょう。
3.まとめ
請負・業務委託社員と「労働者」の違いは、契約関係の違いにとどまらず、実際の業務内容、働き方、報酬などさまざまな要因で判断されます。
また、請負・業務委託社員は自社の「労働者」ではないので、就業規則はもちろんのこと、労働保険や社会保険、退職金制度の適用も出来ません。
トラブルを未然に防ぐためにも、請負・業務委託社員と「労働者」の違いをきちんと理解し、現代社会の多様な働き方のニーズに合わせた対応をしていきましょう。