弁護士法人Nexill&Partners(那珂川オフィスサイト)

気をつけたい企業におけるSNSトラブル

近年、インターネットの普及に伴って急速に盛り上がりを見せているSNSですが、投稿した記事や意見がいわゆる「炎上」を起こし社会的な問題になり、誤った情報などが拡散されるなど、トラブルも多く見受けられます。
コミュニケーションツールとして、また企業PRにも使用されるなど便利な一方、さまざまな危険性やリスクも存在します。今回は現状と労務側から見たリスクについて考えてみましょう。

1.SNSの概要と共通する問題点

SNSとは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(Social Networking Service)の頭文字をとったもので、匿名もしくは実名で登録された利用者同士で、専用のWEBサイトやスマートフォンアプリを通じ、記事の投稿やメッセージのやり取りを行うサービスのことを言います。
Twitter(ツイッター)やFacebook(フェイスブック)、Instagram(インスタグラム)などが有名なSNSですが、どれも同じということはなく、ツイッターは匿名制で投稿する字数が限られていること、フェイスブックは実名登録制で学歴や職業まで記載するよう推奨していることなど、各SNSで特徴が異なります。

しかしながら、個人情報、機密情報の漏えいや執拗な友人申請、「いいね」を強要するなどのハラスメントは各SNSに共通した問題となっており、個人・企業関わらず慎重に運営していかなければなりません。
SNSでは、ブログなど他ネットサービスと同様、投稿した記事が世界中に一斉に広まるため、完全な削除が困難であることや、匿名で投稿したとしても、あらゆる情報を駆使し個人を特定されてしまうおそれもあるため、注意が必要です。

2.SNSで問題となりやすいケース

憲法にある表現の自由(第21条1項)に基づき、SNSへ自由に投稿する権利は誰にもあるとされていますが、投稿の内容については十分気をつけなければなりません。

(1)個人アカウントからの情報漏えい、業務中の不適切な行為

カメラ付き携帯電話やスマートフォンの普及によって、多くの人がいつどこでも高画質で写真撮影ができるようになり、撮影したその場ですぐにSNSへ投稿できることは気軽で便利ともいえます。
しかし、その公開されたSNSの写真中に、個人の連絡先や勤務先で開発中の新商品が写ってしまっていたらどうなるでしょうか。

個人情報が拡散され悪用されてしまったり、漏えいした新商品より先に競合他社が同様の商品を販売開始してしまい、利益が得られなくなることもあり得ます。
匿名で行われるSNSの場合、勤務先や個人情報の表記は必須ではありませんが、多くのSNSでは他SNSやブログと連携しており、連携先で記載していた情報や写真、投稿文から氏名、勤務先や学校名といった個人情報が判明することがあるのです。

また、業務中にアルバイト従業員が勤務先の食器洗浄機内や冷凍食品販売ケース内に入り、写真を撮影しSNSに投稿したところ、たちまち拡散され、飲食店やコンビニには「不衛生だ」とか「従業員の教育はどうなっているのか」など苦情が相次ぐ事態となり、大問題になったことは記憶に新しいところです。
問題を起こした各店舗の多くは、売ることができなくなった冷凍食品の廃棄や庫内の清掃、食器洗浄機の消毒もしくは機器を新品のものに入れ替えるなどの対応をせざるを得なくなり、また、小規模店舗などでは運営が困難になったとして、閉店、破産に追い込まれたケースもあるなど、損害は大変大きいものとなります。

(2)企業公式アカウントの炎上トラブル

企業が広報の一環としてSNS上に公式アカウントを得て、自社商品やサービスのPR、客とのやり取りを行うことも最近では珍しいことではありません。
人気のある企業アカウントでは、こまめに客への返信を行い、新商品の紹介をユニークな動画で紹介するなどした結果、業績が向上したケースもある中、SNS運用が適切でないケースでは、スピードを重視するあまり、充分な内容の確認をしないまま担当者のみの判断で投稿されることもあるようです。
担当者の主観的な意見がその企業全体の意見として捉えられることもあり、世論と真逆の意見を述べたり、倫理的に問題があった場合に批判や非難が殺到、いわゆる「炎上」を起こし収拾がつかなくなる事態にもなりかねません。

(3) その他のSNS上でのトラブル

上記のトラブルの他にも、
・SNSアカウントが乗っ取られ、友人登録されている取引先のアカウントへ勝手に詐欺メッセージが送られてしまう
・勤務先、同僚への誹謗中傷を実名でSNSに書き込んだところ拡散されてしまい、名誉毀損、業務妨害で訴えられる
・本来自由になされるべき行為である、従業員に対する自社アカウント投稿記事への「いいね」を強要(行き過ぎた業務命令)
・好意を寄せている同僚へSNSの友人申請を執拗に行い、拒否されたのにも関わらず申請を続けている
などの問題が日々起こっており、これまでにない新しいケースとして、労務管理側は対応に時間がかかり苦慮することもあります。

3.トラブルを防ぐための規定作り

個人アカウント、企業アカウントに関わらずSNSを適切に利用するためには、就業規則や社内規則に利用上の禁止事項を規定して従業員に徹底させ、重大な違反があった場合は規則に則って措置を行う体制を構築しておくのが望ましいとされます。

なお、就業規則を変更するためには、従業員代表者の意見を聞き、変更後の内容については労働基準監督署に届出をする必要がある等、手間がかかるのはもとより、目まぐるしく様態が変化するSNSに沿った内容に逐一変更していく、というのは現実的ではありません。
そのため、就業規則についてはSNS以外でも適応できる一般的な表記にし、SNSに対しては別にガイドラインを設け、具体的な注意点等を記載していくことが、トラブルを未然に防ぐ対策として有効となります。

ガイドラインの詳しい作成方法は後述しますが、SNSの種類、使われ方や運用方法などの把握をした上で、アルバイトやパートを含む全従業員が内容を理解できるような簡潔な文書を作成し、適宜変更や項目の追加をしながら運用していくことが重要です。