弁護士コラム

2019.04.24

経営法務リスクマネジメント ~採用時のリスク~

近年の有効求人倍率は高水準を記録し、就職活動は就活生にとって有利な「売り手市場」であるとされています。
優秀な人材を獲得するために、インターンの実施やUターン学生を優遇する企業が年々増えています。
また、経団連の発表によると、2021年以降に卒業する学生の採用活動から、これまで定められていた説明会や面接の解禁時期に関するルールを撤廃することが決まり、就活市場は大きく変化しています。

就活市場は変化した一方で、企業は良い人材を獲得するため、今後も内定を早めに出して新入社員を確保する方法は変わらず、むしろ競争が激しくなることが予想されます。
今回、企業が採用から内定を行う際に気を付けるリスクについてご説明します。

1. 内定とは?

多くの企業では、新卒者を採用する場合、在学期間中に内定を出し卒業後に採用するという方法を採っています。

しかしながら、内定時から実際の採用まで時間がかなり空くため、その間に、様々な事情が生じ内定を取り消したいと考えることがあるかと思います。

内定を取り消すとなると、内定者との間でトラブルになる可能性があります。それでは、企業が内定を取り消したい場合にはどのような点に気を付ければ良いのでしょうか。

一般的に、企業と内定者の間には内定通知後に意思確認をした時点で、労働契約が成立しており、内定とは法的に「始期付解約権留保付の労働契約」であると考えられています。
「始期」とは内定通知後に企業と内定者の間で採用・入社の意思を確認し、実際に入社し働き始めるまでの期間を指しています。
「解約権留保」とは、企業と内定者の間に解約権が留保されているという事を示しています。

つまり、内定の取り消しを行うという事は、企業が留保している解約権を行使するという事になり、内定を取り消す際には、「目的に照らして客観的に合理的で社会通念上相当と是認できる」場合に該当するかどうかが重要になります。

2.解約権の行使について

それでは、具体的にはどのようなことが「客観的に合理的で社会通念上相当と是認できる」場合に該当するのでしょうか。

一般的には、選考過程において、企業側が知ることができなかったことを理由とした場合に内定の取り消しが認められるとされています。

例えば、短期間では到底復帰することが難しい重い病気に掛かってしまった場合や経歴詐称の内容が重大であること、また、卒業見込みとされていた学校を卒業することができなかった場合、刑事処分を受けた場合などが該当すると考えられます。

協調性が見られない、不真面目であるといった抽象的な理由では内定の取り消しは認められないため、注意しましょう。

3. 採用面接時にしてはいけない質問

前述したように、一度内定を出すと簡単には取り消すことができません。
そこで、企業側は求める人材かどうか見極めるために、面接が重要になってきます。

そこでつい、採用希望者がどのような人柄か知りたいがために、採用担当者が踏み入った質問をした結果、トラブルに発展することもあります。
それでは、面接時に気を付けなければならない質問事項とは、どのようなものがあるのでしょうか。

採用希望者にしてはいけない質問は大きく2つに分類されます。①本人に責任のない事項と②本来本人の自由であるべき事項です。
①の例としては、家族の職業や家庭環境、出身地などが挙げられます。②の例としては、座右の銘や人生観等があります。企業が面接者の緊張をほぐすために質問をしたことが、無自覚に法律に違反してしまうリスクがあります。

また、知らず知らずのうちに法律を違反してしまうことだけでなく、法律に違反した質問をしたことを採用希望者にSNS等で拡散されてしまい、企業のイメージダウンに発展する可能性も考えられます。
採用担当者は面接に入る際には、採用希望者に質問してはいけない事項をリスト化し、採用担当者同士で共有することで対策を諮りましょう。

4.まとめ

内定者が内定を辞退する際には、原則入社する2週間前までと定められている一方で、企業側が内定を取り消す際には解雇にも等しい、法的に強い制約が定められています。

そのため、企業側が経営の圧迫などを理由に、一方的に内定を取り消すことは、内定者から損害賠償を請求されかねない事態に発展することが考えられます。

良い人材を確保したいがために、焦って採用内定を通知することはとても危険です。
今後の事業計画や退職者数を予測しながら慎重に内定を通知するように十分に気を付けましょう。

 

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