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経営法務リスクマネジメント ~退職に関するリスクについて~

最近、退職したいけど「退職したい」と言い出せない人のため、退職手続きを代行する「退職代行サービス」が新しいビジネスとして話題になっています。
このサービス自体は弁護士法違反ではないかなど、賛否両論がありますが、ビジネスとして成り立つほど、企業と従業員の間で退職時にトラブルが多いことを示しているのではないでしょうか。
企業としてはトラブルを最小限にとどめ円滑に退職手続きを行いたいと考えていると思います。この回では、企業側が従業員の退職に備えておくべきリスクについてご紹介致します。

1. 退職の形式

退職の形式としては大きく分けると「自己都合退職」と「会社都合退職」の二つがあります。
「自己都合退職」とは、転居や結婚または療養など自身の意思や都合に基づいて行う退職の事を指しています。
「会社都合退職」とは、企業側の経営不振や倒産などを理由として一方的に労働契約を解除する事を指しています。

それでは、自己都合退職か会社都合退職かの形式の違いにより、どのような差異が生じるのでしょうか。

まず、退職後の雇用保険(失業保険)の給付内容が異なってきます。
「自己都合退職」の場合、失業保険は退職日から3ヶ月と1週間待機しなければ給付されないのに対し、「会社都合退職」の場合には退職日から1週間後より給付が開始されます。

他にも、支給日数や最大支給額の違いがあり「会社都合退職」の方が従業員にとって優遇された扱いになっています。
これは、自分の意思で職を失った人よりも、会社の一方的な都合で職を失った人の方が保護の必要性が高いからです。

さて、では会社都合退職の方が従業員にとって都合が良いのであれば、「本来は自己都合退職であっても会社都合退職にしてあげようか」という発想もあり得ますね。

実際に、従業員が退職することは変わらないからといって、従業員からの要望に応じ、特段の理由なく「会社都合退職」として手続をしてしまう会社もあります。

しかし、会社都合退職としてしまうと、しばらくの間、助成金申請ができなくなったり、後々従業員から「企業から解雇された。解雇は不当だ!」と主張されてしまうリスクがあります。

従業員がまさかそんな不徳なことをするはずがない、と考える方が多いですが、実際にはそのことを原因として紛争が起こっていることも事実です。

仮に従業員から会社都合退職にして欲しいと要望があったとしても、会社を守るため、その要望は聞かないようにしましょう。

2. 従業員の失踪

従業員が行方不明になり失踪してしまった場合には、どのような形式で退職手続きを行えばよいのでしょうか。

一般的に解雇する際には、30日以上前に解雇予告を行うこと、もしくは、解雇予告手当を支払うことが義務付けられています。但し、次の場合には解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要とされています。

・天災事変やその他事業を継続することが不可能である場合
・労働者の責に帰すべき理由に該当する場合

従業員が失踪した際、解雇予告を行いたくても行えないですよね。従業員が失踪し、「2週間以上の無断欠勤」があった場合には、労働者の責に帰すべき理由に該当するとされているため、労働基準監督署にて解雇予告除外認定を受けることにより、解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要となります。

従業員を解雇する際には、会社から従業員に対する解雇の意思表示が必要となりますが、それが従業員の失踪により事実上不可能な場合には、意思表示の方法として公示送達を行うことも検討しなくてはなりません(裁判所に解雇する旨を掲示して、本人へ意思表示したものとみなす制度です)。

しかしながら、この手続きには相当の時間と労力が掛かってしまいます。
そのため、予め就業規則に無断欠勤が続いた場合について普通解雇・懲戒解雇事由として規定を定めておくと、簡易的に退職手続きを行うことができます。

3. 退職届の有効性

従業員が退職する際、意思表示として退職届を提出します。
就業規則にて、退職届の提出期間を定めている会社も多いですが、さて、従業員から就業規則にて定められている退職届の提出期限より後に提出された退職届は有効なのでしょうか。

民法では

「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」(民法627条 第1項)

と定められています。

つまり、有期雇用契約でない従業員の場合、民法上では退職届を2週間前に提出することによって退職が認められることになっています。

就業規則にて退職届の提出期間が定められていたとしても、民法627条第1項は、強行法規(当事者の意思にかかわらず、法として画一的に適用される規定)であることから、企業側が退職時期の延長を行うことは難しいという見解が多くなされています。

「就業規則には2か月前に退職届を提出しなければならないと定めているのに、1か月を切ってから提出してきた従業員に対して、損害賠償などできないか。」というご相談も見受けられます。

しかし、民法で2週間と定められている以上、それは難しい要望となりますので、いざ退職者が出たとしても、短期間で引き継ぎが可能な業務フローの構築が会社としては不可欠となるでしょう。

4. まとめ

従業員が退職する際には様々な事情があり、気持ちよく送り出せる円満な退職だけでなく、事情によっては業務の引継ぎさえ不十分なまま、退職を認めざるを得ない状況に陥ることも考えられます。

退職時のトラブルや退職後の紛争を避けるためにも、就業規則の規定を整備し見直しを行い、専門家(弁護士や社労士)に相談しながら不備の無いように備えることでリスクマネジメントを行いましょう。