弁護士コラム

2019.05.09

マイナンバーの将来予測~先進国の事例から

マイナンバーの利活用に当たっては、2015年6月30日の政策閣議で決定された「世界最先端IT国家創造宣言(修正版)」がその道標として参考になります。宣言には、医療分野や金融等にも活用していく展開について、今後の継続的検討課題として挙げられており、こうした活用が拡がれば、国民の利便性は飛躍的に高まると考えられています。

世界でも最高水準といわれる韓国の電子政府やID活用方法をはじめ、先進国の事例をヒントとしてひも解き、日本のマイナンバー制度の活用法の将来を考えてみましょう。

1.先進諸国のIDカード制度

マイナンバー制度と同様のIDカード制度は、先進諸国ではすでに導入されています。アメリカのソーシャル・セキュリティ・ナンバー(社会保障番号)をはじめ、EU諸国やアジア地域でも、同制度はなくてはならないものになっています。

翻って日本を振り返ると、行政の手続きが煩雑且つ非効率で、そうした背景が外国人の企業を妨げる一因となっているとも言われています。こうした行政の手続きの煩雑さを解消するためにも、マイナンバー制度が始まったとも言えるわけですが、先進国の事例をひも解くことによって、マイナンバー制度の方向性がある程度見えてくるかと思います。
特に参考になるのは、世界最高水準とも言われる韓国の制度「e-GOV3.0」です。

2.世界最高水準と言われる韓国の電子政府「e-GOV3.0」

この電子政府は、他人への成りすましといった様々な問題も生んではいるものの、そのデメリットを補ってあまりあるメリットをもたらし、国民の利便性の向上を実現させました。世界各国の政府関係者が視察に行くことも少なくないようです。

実際に韓国の行政機関(税務署、市役所、ハローワーク等)に足を運んでみると、人がいないことに驚きます。電子化によって様々な手続き業務が自宅や会社のPC等でできてしまうため、日本のようにわざわざ役所等に出向く必要がないのです。

3.ID活用により年末調整業務がなくなる?

韓国では、個人のID番号(または携帯電話番号)を買い物の際にレジで提示することで、経費処理が幅広く認められています。
また、国税庁は、ID番号の提示を簡素化させる目的で「現金領収証カード」というものを希望者に配布しているため、IDカードの現物を持ち歩く必要もないようです。

韓国では、この購入履歴の蓄積により、確定申告時期には個人ごとのポータルサイトに、「あなたの確定申告書ができ上がりましたので承認ボタンを押してください」といった通知が届き、サイト内で税金の不足分の入金や還付手続きができてしまいます。
従来の「国が国民に申告を促す」から、「集まった情報をもとに、国が国民に申告書を提供する」という高次元のフローが実現しています。

この仕組みが構築された結果、企業での年末調整業務がなくなり、個人が確定申告する流れに変わったことで、企業の総務部門はスリム化し、現地の税理士の仕事も代行業務からコンサルティングへとシフトしたと言われています。

日本において、消費税の増税にともなう軽減税率の処理のために、国民がスーパー等で買い物をする際にマイナンバーを提示する案が以前検討されていましたが、この「e-GOV3.0」を意識しているものと推測できます。

4. マイナンバーの医療分野への利活用

ここまで韓国の電子政府「e-GOV3.0」の事例から、主に税分野で今後どのように利活用が拡がるかについて、ひも解いてみました。
それ以外でも、頭書のとおり「世界最先端IT国家創造宣言(修正版)」においてマイナンバーの活用の拡大が予定される分野が挙げられています。中でも、国民医療費が増大しているなかで、医療分野への活用は必然となっていると言えます。

医療制度と介護制度が将来的に統合されていく可能性があるなか、介護保険関係の給付等でマイナンバーの紐づけが行われることがすでに決定しており、2015年9月に成立した改正マイナンバー法においても、以下の場面でマイナンバーを活用することが決定しました。

・メタボ検診にマイナンバーを紐づけ
・予防接種の履歴管理をマイナンバーで実施

直近の方向性として、政府は2019年2月15日、マイナンバーカードを健康保険証として使えるようにすることを盛り込んだ健康保険法などの改正案を閣議決定、2021年3月からの施行を目指しています。

これは、医療機関における診療報酬の請求事務で、間違った保険証を提示する、例えば退職したにも関わらず前職の健康保険証を提示するといった患者からの請求ミスなどがあまりにも多い状況の改善を図る施策です。

これまで、医療機関としては本人の申告を信じるしかなかったのが、ICチップ付きのマイナンバーのカードを用いるようになれば、カードを照会することで診療報酬の請求間違いと混乱の防止につながることが期待されます。

また、地域内の医療機関等との情報共有にもデータ照会が活用され、薬剤管理等が統一的に行われていくものと考えられます。つまり、重複受診の抑制による薬剤費等の医療費の抑制に大きく寄与するとことが期待できるのです。

国民の視点に立っても、確定申告時に請求書等の整理が不要になる可能性もあることから、利便性の向上且つ国民医療費の削減という国家的課題の解決にもつながり得ると考えられます。

5.まとめ

政府は、東京オリンピックが開催される2020年をめどに、「ITイノベーション社会の実現」「国民生活の豊かさ向上」を目指しています。来る日までに、多くの国民がICチップ付きのプラスチック製「個人カード」を保有することになると考えられています。

そうした環境が整えば、企業における総務業務の多くも、入退社手続きを含めた各種手続きの社内からのオンライン申請が可能となると思われ、国民にとっても企業にとっても効率的な社会が実現することが予測されます。

その反面、マイナンバーが医療分野はじめあらゆる分野と紐づけられることで、情報漏えい時のリスクも甚大となる事から、情報漏えいを防ぐ体制づくりが今後より一層の課題となります。

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