Q.私は現在、中古マンションに母と同居しています。将来的に母の介護が必要になることを見据え、床材を全面フローリングに張り替え、段差をなくしたいと考えています。
加えて、防犯対策のために現在の窓枠の内側にもう1枚窓枠を取り付け、二重サッシにすることも検討しています。こういった工事をする場合、管理組合の理事会の承認は必要ですか?
1.問題の所在
区分所有者が専有部分を利用するにあたっては、室内の不具合の補修や、居住する家族構成の変化などに応じた住環境の改善のため、模様替えや家具の取り付け、取り換え、修繕工事などのリフォームが必要となる場合があります。
しかしながら、マンション標準管理規約では、区分所有者は、
・その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為
をしてはならないと定められています。マンション標準管理規約とは、国土交通省によって、管理組合が各マンションの実態に応じて、管理規約を制定、変更する際の参考として作成されたものです。
そして、リフォームの要否や内容に関する判断を区分所有者へ全面的に委ねた場合、後々管理組合や他の区分所有者との間でトラブルを発生させかねません。こういった状況を回避するため、マンション標準管理規約では、占有部分の修繕等の実施について、以下の規定が定められています。
2.理事会の承認が必要な場合
まず、専有部分の修繕の実施に際して、管理組合の理事会の事前承認が必要な場合があります。規約は以下のとおりです。
区分所有者が専有部分の修繕等を行おうとする場合、予め理事長に申請し、書面による承認を得なければならない。
① 対象となる修繕の内容
「床のフローリング、ユニットバスの設置、主要構造部に直接取り付けるエアコンの設置、配管(配線)の枝管の取り付け及び取り換え、間取りの変更」等が、理事会による承認の必要な工事として想定されています。
よって、見出しで挙げた「床材を全面フローリングに張り替える」ことは上記に該当するため、理事会の承認が必要になります。
② 申請時に必要なもの
区分所有者が理事会に修繕の申請を行うに際しては、設計図・仕様書・工程表を添付した申請書を理事長に提出することと定められています。施工業者等へ依頼し、必ず準備しておきましょう。
(書式:国土交通省 「マンション標準管理規約」より)
③ 理事会による承認
理事長が区分所有者から修繕工事の承認申請を受けたとき、その申請について、理事会の決議により、その内容を承認するか、それとも不承認とするかを決定します。
承認申請時に提出された設計図等をもとに検討することとなりますが、その内容によっては専門的な判断が必要なケースも想定されることから、専門知識を有する者(建築士、建築設備の専門家等)の意見を仰ぐことが望ましいとされています。特に、今回例として挙げたフローリング工事の場合には、床の構造、工事の仕様、使用する材料等により影響が異なるため、専門家への確認の必要性が高いと言えます。
また、実際に専門家へ確認を依頼した場合には、区分所有者の提出した設計図等では情報が足りないため、工事予定の箇所を直接視認して調査を実施できる状況にする必要があります。つまり、理事長又はその指定を受けた者(専門家等)は、工事の施工の判断について必要な範囲内で、修繕予定の箇所に立ち入り、必要な調査を行うことが出来ます。調査時には区分所有者の専有部分に立ち入ることとなりますが、正当な理由が無ければ、当該区分所有者は、立ち入りの要請に応じなければなりません。
(書式:国土交通省「マンション標準管理規約」より)
3.理事会の承認が不要な場合
次に、例示したケースの後半で挙げている、「既存の窓の内側に窓枠を設置して二重サッシにする」という工事について検討していきます
まず、窓に関わる工事は理事会の承認が必要なのかという点です。区分所有建物における窓は、専有使用権が付着する共用部分であるため、マンション標準管理規約では、窓を対象とする工事のうち、「現在と異なる部材を用いるもの」が、理事会の承認を必要とする工事であると定められています。
よって、例えば、現在設置されている窓ガラスを防音ガラスや強化ガラスの窓へ交換する場合は、「現在の窓を異なる部材(=防音ガラス・強化ガラス)」を用いた他の窓と交換することになるため、理事会の承認が必要となります。
一方、今回例に挙げたケースでは、窓の素材を交換するわけではなく、「内側にもう1枚窓枠を取り付け、二重サッシにする」という工事内容であり、共用部分である窓そのものを修繕したりするものはないため、理事会の承認は不要であるといえます。
しかしながら、窓枠の取り付け工事に限らず、リフォームを行う際には建物を工事業者が出入りすることが想定されます。また、工事の種類によっては騒音や粉塵が発生することもあります。これらの状況が他の区分所有者に何ら告知の無い状況で発生した場合、他の区分所有者に迷惑をかける可能性が高く、後から苦情が発生しかねません。
これらを避けるために、たとえ理事会の承認が不要であっても、工事を実施する際には、
・管理組合へ工事期間や工事の内容、業者名を届け出る
・騒音や振動の発生が予想される場合には、他の区分所有者にもわかる形で工事期間と工事内容を掲示する
・工事予定の物件の上下、また隣戸には、事前に騒音等が発生することを直接伝えに行く
といったような対策を取ることが良いと考えられます。
4.まとめ
区分所有建物内で専有部分のリフォームをする際には、必ず事前に管理規約を確認し、理事会の承認の要否、他の区分所有者に与える影響、事前調査の可能性等々あらゆる点を注意する必要があります。
折角自分がより住みやすい環境を整えるためにすることですから、後からトラブルが発生しないよう心掛けることが望ましいですね。