弁護士法人Nexill&Partners(那珂川オフィスサイト)

【不動産】マンションでペットを飼育するとき

Q.私の住んでいるマンションは、ペットの飼育が管理規約で禁止されています。ところが、隣室の居住者は犬を飼っている様子で、犬の鳴き声や臭気などに悩まされています。このような状況のとき、隣室の入居者に対して私からどのような請求ができるのでしょうか?

A.マンションとペットの飼育について考える際には、以下に挙げたポイントに注意して検討する必要があります。
□ 飼育禁止の管理規約の存在の有無
□ 管理規約の変更により、飼育禁止の条項が追加された場合
□ 違反行為に対する措置

1 ペットの飼育を禁止できるのか

(1)飼育禁止の管理規約が存在しない場合

マンションにおいて、ペットの飼育を禁止する管理規約が存在しない場合、ペットの飼育を禁止することは可能なのでしょうか。
この点、マンションにおいては多数の住民が1棟の建物で共同生活を営むことを考慮すれば、専有部分内における行為であっても、無制約に認められるものではありません。

例えば、専有部分において猛獣を飼育することなどは、管理規約の定めが無くとも、共同利益背反行為に該当し、建物の区分所有等に関する法律(以下、「区分所有法」といいます。)57条ないし60条記載の措置、例えば「共同の利益に反する行為の停止等の請求」が可能となります。

(2)飼育禁止の管理規約が存在する場合

管理規約の中にマンション内における動物飼育を一律に禁止する管理規約がある場合は、当該規定は有効なのでしょうか。
もしマンション内で動物を飼育するとなると、

・ 動物の糞尿によるマンションの汚損や臭気
・ 動物を介した病気の伝染、衛生上の問題
・ 動物の鳴き声による騒音
・ 動物による噛み付きの事故

といった、建物の維持管理や他の居住者の生活に目に見えて影響をもたらす危険があるほかに、動物を建物内で飼うこと自体が他の居住者に対して不快感を与えるといった目に見えない影響をも及ぼす恐れがあります。
そして、上記のような影響を与える可能性のあるペットの飼育は、区分所有者の共同の利益に反する行為であると認められます。
故に、ペット飼育を一律に禁止する規定は有効であると考えられています。

2 管理規約の変更により、飼育禁止の規定が追加された場合

もしマンションに入居した時点では、管理規約内にペット飼育禁止の規定が無く、一部の区分所有者がペットを飼育している状況であったところに、管理規約の変更によりペットの飼育を禁止する規定が加えられた場合はどうなるのでしょうか。

この場合も、ペットの飼育が区分所有者の共同の利益に反する行為に該当しうるため、管理組合の構成員の多数意思として管理規約の規定を追加する場合には、この追加された規定に基づくペットの一律飼育禁止も有効となります。

しかしながら、区分所有法31条1項後段においては

「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべき時は、その承諾を得なければならない」

と定められていることから、既にペットを飼育していた居住者に対しては、管理規約にペット飼育禁止の規定を追加することについて承諾を求めなければならない場合があることに注意が必要です。

3 居住者による違反行為に対する措置

ペット飼育禁止に違反している居住者に対しては、区分所有法第57条ないし60条に挙げられた措置の他に、
・ 飼育禁止
・ 飼育する動物の即時退去
・ 糞尿の除去・消臭措置
といった請求を行うことが考えられます。

4 ペット飼育に関する裁判例

(1)ペット飼育を禁止する管理組合の規約が有効とされた事例(東京地判平成8・7・5)

当該マンションにおいては、ペットの飼育を禁止する管理規約がありましたが、一方で一部の組合員はペットを飼育していました。そこで、ペットを飼育中の組合員により構成されるペットクラブが設立され、設立時点で組合員が飼育していたペット一代に限って飼育を認め、それぞれの寿命が来れば、ペットを飼育する組合員は自然消滅することとしていました。

ところが、ある居住者はこのペットクラブ設立の数年後より飼育を始めたために、管理組合側よりペットの飼育を辞めるよう通知があったものの、これに応じなかったために、管理組合はこの居住者を訴え、裁判で争うこととなりました。

本判決においては、「マンションは入居者が同一の建物内で共用部分を共同して利用し、専有部分も上下左右又は斜め上若しくは下の隣接する他の専有部分と相互に壁や床等で隔てられているにすぎ」ないため、当該マンションの構造が「必ずしも防音、防水面で万全の措置がとられているわけではない」こと、また、「ベランダ、窓、換気穴を通じて臭気が侵入しやすい場合も少なくない」ことを考えると、各居住者の生活形態が相互に重大な可能性を及ぼす可能性を否定できない」とした上で、「本件マンションは、14階建の居住用の分譲マンションであり、動物の飼育を配慮した設計、構造にはなっていない」ということも認定の要素とし、被告による本件マンションでのペットの飼育を認めませんでした。

(2)管理規約の変更によりペット飼育禁止規定が追加された場合(横浜地判平成3・12・12)

本件は、被告が当該マンションへ犬を連れて入居した後、管理規約において動物の飼育を禁止する規定が新設された事案です。

被告は、当該規約の改正が被告の権利に「特別の影響を及ぼす」ものであるにもかかわらず、被告の承諾なしに改正されたものであるため、区分所有法第31条1項に反しており無効であるとして争いました。

しかしながら、裁判所では、当該マンションに入居する際、「動物の飼育は一応禁止されている」という旨の記載がある入居案内が配布されていた点を考慮した上で、当該マンションが以前からペット飼育禁止という共通認識があったと認定し現在の社会情勢・国民意識に照らし、全面的禁止には相当の必要性・合理性が認められると判断し、区分所有法31条1項後段の「特別の影響」は認められないとしました。

5 まとめ

判例を見ると、マンションは多くの人が共同生活を営む場所である以上、管理規約の内容、組合員の要望、マンションそのものの構造が動物を飼育することを考慮されたものであるかといった様々な観点から検討されていることがわかります。

ペットを飼いたい場合には、こういったトラブルを回避するためにも、マンションを購入する前に必ず管理規約や周知事項を確認するようにしましょう。