前回の記事に引き続き、今回も「起業する前に知っておくべきこと」がテーマです。
今回と次回の記事にわたって、個人事業主が法人成りするメリット・デメリットについてお話します。起業するにあたり、「ひとまず個人事業として始めてみようかな」と考えていらっしゃる方はもちろん、「個人事業として始めてみたけれど、法人化しようかな」といった既に個人事業主として活動されている方にも読んでいただけたらと思います。
前回の記事はこちらから→「起業する前に知っておくべきこと1~注意点~」
1. 法人成りとは
法人成りとは、「個人事業主が、株式会社や合同会社などの法人を設立し、個人として行っていた事業を法人に移行すること」を指します。
2. 個人事業主が法人成りするメリット
法人成りによる一番のメリットは、節税できる点です。
現在の日本の税制では、個人に係る所得税は、累進課税制度が採られており、法人に係る法人税は比例課税制度が採られています。つまり、利益があればあるほど、個人事業主よりも法人のほうが節税できるということです。
それでは、具体的にどのように節税できるのか、1つずつ見ていきましょう。
<給与にかかる税金>
(1)給与所得控除
そもそも、給与には、給与所得者が収入から差し引くことができる給与所得控除があります。この給与所得控除は、みなし経費と呼ばれるもので、一定額について経費とみなすため、控除をすることができることになっています。
個人事業主だと、給与ではなく事業所得という扱いになりますが、法人成りした場合、社長である自分自身に給与を支払うことができます。つまり、社長の収入から給与所得控除として一定額を差し引くことができるため、その分の所得税を節税できるというわけです。
(2)家族に対する給与の支払い
個人事業主の場合、事前に税務署に届出をしていれば、青色事業専従者制度によって家族に給与を支払うことができますが、年齢や期間など働き方に制限があります。
しかし、法人成りすると、個人事業主と違って前述したような制限がないので、パートタイムで働かせるなど働き方を自由に決めることができます。
また、日本は、累進課税制度を採用しているため、所得額が多くなればなるほど高い税率が課されます。つまり、個人事業主が一人で稼ぐよりも、法人化して家族への給与支払いという形で分散して還元することによって1人あたりの収入が下がり、それに応じて税率も下がるので、家族全体で考えると税金が安くなります。
(3)配偶者控除・扶養控除の適用
個人事業主の場合、事業専従者である家族に支払う給与について、配偶者控除や扶養控除を適用することはできません。
しかし、法人成りして、家族の給与を年間103万円以下にすると、配偶者控除や扶養控除を適用することができるため、その分所得税を節税できます。
(4)退職金
個人事業主だと自分自身に退職金を支給することができないのに対し、法人の場合は自分に対して退職金を支給することができます。また、退職金が以下の金額までであれば、課税されません。
・勤続20年以下の場合
40万円×勤続年数 ※最低80万円
・勤続20年を超える場合
800万円+70万円×(勤続年数-20年)
⇒勤続20年を超えると、より優遇されます!
<給与以外にかかる税金>
(1)赤字繰越
年度の収支が赤字になってしまった場合、この赤字は翌年度以降に繰り越すことができます。
前回の記事でも少し触れましたが、個人事業主の場合、赤字は3年間しか繰り越すことができません。
しかし、法人成りすると、赤字を9年間(平成30年4月以降は10年間)繰り越すことができます。
(2)消費税を2年間免税できる
2年前(法人の場合は2期前)の売上高が1,000万円を超えている、または、前年上半期(法人の場合は前期の上半期)の売上高が1,000万円を超えている場合、消費税を納税しなければなりません。
個人事業主が、売上高が1,000万円を超えて納税義務が発生するタイミングで法人成りをすることで、通常の会社設立をした場合と同様に、2年間免税されます。
ただし、前述したとおり、第1期目の上半期の売上高と給与(役員報酬含む)の金額がいずれも1,000万円を超えた場合は、第2期目から消費税納入義務が発生しますので、注意が必要です。
(3)出張手当
個人事業主の場合、自分自身に出張手当を支払うということはできません。
しかし、法人かつ出張規程を作成している場合は、出張手当を支給できます。出張手当は経費扱いになる上、消費税法上、仕入税額控除の対象になります。出張手当は、受け取った従業員の給与には加算されないので、社会保険料や所得税がかからず、従業員にとっても負担になりません。
(4)役員社宅
個人事業主の場合、居住用に借りている自宅の家賃は経費とすることはできません。
しかし、法人の場合は、自宅を法人名義で契約して、社宅として貸し出せば、家賃の半分ほどを経費として計上できます。
(5)生命保険
個人事業主の場合、生命保険に加入すると、最大12万円まで所得税の生命保険料の控除をすることができます。
これに対し、法人の場合、法人名義で契約し、被保険者を従業員、受取人を法人とすることで、保険料を経費とすることができます。
3. まとめ
今回の記事では、法人成りをする税金に関するメリットについてお話してきましたが、いかがでしたでしょうか?個人事業として始めた場合でも、売上が1,000万円程度になったら、法人成りした方がお得になります。
次の記事では、今回の続きとして、法人成りの税金以外に関するメリットと、法人成りのデメリットについてご説明します。