営業職は、外回りなどにより外勤の時間が多いことから、正確な業務時間の把握が難しいため適切な残業代の算出が難しくなります。
そのため、残業代の代わりとして営業手当を支給している企業も多く存在します。今回はこの様な対応について生じる企業側のリスクについて説明します。
1.営業手当とは
営業職は仕事の成果に応じて報酬が支払われる成果主義であるという考え方から、適切な残業代を計算していない企業が多く存在します。
しかしながら、労働基準法では法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた時間外労働時間に対して残業代を支払わなければならないと定められています。
つまり、営業手当を残業代の代わりに支払っているからといって、残業代を支払わなくて良いということにはなりません。
仮に営業手当を固定残業代として支給している場合、何時間分の残業代に相当するのか従業員へ明確に示す必要があります。
そして、固定残業代に相当する時間数を超える時間外労働が発生した場合、企業側は残業代を支払う義務が発生します。
2.事業外のみなし労働時間制
多くの企業は、労働時間の把握が難しい営業職に対し、労働時間の計算が容易になることから「事業場外のみなし労働時間制」を取り入れています。
実際の労働時間にかかわらず、会社以外の場所で仕事をする場合に始業時刻から終業時刻までの所定労働時間を労働したものとみなし、業務を行う上で通常の所定労働時間を超えた労働が必要となる場合においては、業務を行うために必要とされる時間を労働したものとみなして取り扱う制度のこと。
この制度を利用すると、従業員が事業場外において実際には所定労働時間より多く働いていたとしても、所定労働時間が労働時間数とみなされるため残業代の支払いが不要になります。
しかしながら、ここで企業が注意しなければならないのは、「事業場外のみなし労働時間制」を取り入れているからといって、残業代を一切支払わなくて良くなるということではない点です。
労使協定で定めた労働時間や、従業員との間で定めたみなし労働時間を超えた労働時間が発生している場合には、実労働時間に対する残業代を支給する必要があります。また、深夜勤務手当、休日勤務手当などについても通常通り支給しなければならないため、気を付けましょう。
「事業場外のみなし労働時間制」が認められる前提として、事業場外で業務を行い、会社の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難なときという要件を満たしている必要があります。
例えば、電話で上司からの指示を受けながら業務を行っている、上司に対して業務報告を行っている場合では、企業の指揮監督が及んでいる状態であると言えるため「事業場外のみなし労働時間制」の適用が認められず、未払残業代が発生するリスクがあります。
事業場外のみなし労働時間制を採用している企業は、実際の労働状況が制度を利用できる要件を満たしているか確認をすることが大切です。
3.労働時間性について
労働時間を算定する前提として、具体的にどこまでの範囲を労働時間と認定するのでしょうか?業務中の待機時間、又は従業員が自宅へ仕事を持ち帰り作業を行っていた場合でも労働時間に含まれるのでしょうか。
労働時間に該当するか判断するうえでも、前述したように使用者の指揮監督が及んでいたか、黙示の業務命令が行われていたかという点が重要になります。
よって、業務中の待機時間については、従業員が常に稼働可能な状態で待機していると状態であるため、従業員は指揮命令下にあった判断され労働時間に該当する可能性があります。
労働時間であると判断された場合、例え待機時間であったとしても企業は従業員に対して賃金を支払う必要があります。
それでは、企業側が特段の指示をしていないにも関わらず、従業員が自宅へ仕事を持ち帰り作業を行っていた場合は自宅での業務を行った時間に対し賃金を支払う必要があるのでしょうか?
この問題については具体的な状況によって判断が分かれる部分ではありますが、企業側が明確な指示を行っていない場合でも、従業員がその業務に対応しなければ何らかの不利益が課される可能性があるときには、従業員は労働から解放されていないと見なされ、指揮命令下にあったと判断される可能性もあります。
以上の通り、実際に業務を行っていたかという点や、明確な業務命令の有無だけで判断されるわけでは無いということについて注意することが大切です。
4.まとめ
営業手当を残業代の代わりとして支給していることや、営業は成果主義だから残業を支払わないという事は何の法的根拠にもなりません。
また、事業場外のみなし労働時間制について、残業代を支払わなくて良い制度という間違った認識を元に制度を取り入れていた場合、後に従業員から未払残業代を請求される可能性があります。
自社の労働時間の管理体制について見直しを行い、社労士や弁護士などの専門家に相談しながらリスクを洗い出すことは、安定的に継続した企業運営に繋がります。一度自社の労働管理体制を検討されてみてはいかがでしょうか。