「無料で求人広告を掲載できます!」
そんな甘い誘い文句に惹かれて契約したものの、後から高額な請求を受けたり、契約トラブルに発展したりするケースが増加しています。こうした「無料求人広告」をめぐるトラブルは、契約内容や法律に関する知識が十分でないまま進めてしまった結果、思わぬ損害を被る経営者の方が少なくありません。
本記事では、無料求人広告に潜む典型的なリスクや具体的な事例、そして被害を防ぐための対策や、すでに被害にあってしまった場合の解決策を、弁護士の視点から詳しく解説します。
1. 無料求人広告をめぐるトラブルが増える背景
1-1. 「無料」の誘惑と広告業者の収益構造
採用活動を行う企業にとって、広告費の負担を抑えられる「無料求人広告」は魅力的です。一方で、広告業者やプラットフォーム運営会社も事業として収益を上げる必要があるため、「無料」と銘打ちながら実際は別の形で費用を請求する仕組みを用意しているケースがあります。たとえば「無料期間の終了後、自動更新で課金」などが典型例です。経営者の方がこうした収益構造を十分理解せずに契約してしまうと、後々思わぬ請求に発展する恐れが高まります。 コロナ禍や景気の動向によって、求人市場も激しく変化していますし、人材確保に苦戦する企業が増えていることで、このようなトラブルに対する相談の件数も年々増えています。
1-2. 行政や弁護士会も注意喚起を強化している理由
こうしたトラブルは、企業側だけでなく求職者も巻き込む可能性があり、社会的影響が大きいことから、厚生労働省や弁護士会などの公的機関も注意喚起を行っています。求人内容の虚偽表示や過度な要求を受けた場合は、早めに専門家へ相談するよう呼びかけが強まっているのです。
【関連情報】求人広告についての法的根拠と関連法令のポイント
職業安定法・労働基準法と求人広告のルール
無料求人広告を含めて、求人広告は本来、企業と広告業者間の契約だけではなく、労働者を募集する行為として職業安定法や労働基準法の範囲にも関わってきます。求人広告の内容が虚偽表示や過度に誤解を与えるものであれば、行政からの指導や是正勧告を受けることもあり、企業イメージを大きく損なうリスクがあります。
景品表示法や不正競争防止法が絡む可能性
求人広告が消費者向けに公開され、そこで料金や待遇の面を誇大にアピールする場合、景品表示法による規制がかかる場合があります。過大な表示や虚偽の宣伝が認定されると、行政処分や公表などのペナルティを受け、信用を大きく失いかねません。また、他社を誹謗するような比較広告は不正競争防止法が適用される可能性もあるため、特に注意が必要です。
2. 具体的なトラブル事例と騙しの手口
2-1. 掲載後に高額請求されるパターン
業者側からは「とりあえず無料で掲載できます」と促されたものの、契約書の隅に「一定期間を超えた場合は有料プランに移行する」旨が小さく書かれていたり、あるいは口頭と書面で説明が食い違っていたりするパターンです。企業側は気付かずに利用を続けていたところ、後から「無料期間はとっくに過ぎている」として有料プランの料金を請求されるのが典型です。
2-2. 「無料期間終了後」に自動更新扱いで多額の支払いを求められる例
広告代理店や求人サイトによっては、無料期間終了後に自動更新される仕組みが設定されており、事前に解約手続きを取らなかった企業に対して「今月から有料枠に移行しています」として請求書を送り付ける手口もあります。 前述した掲載後の高額請求のパターンと似ていますが、こちらは、最初から「一定期間は無料だが、解約手続きをしない場合は自動更新で有料になる」という仕組みが明示的かつシステムとして設けられているケースです。自動更新になる旨の通知があまりにも曖昧なため、トラブルになるケースが増えています。
2-3. 広告内容の誤記載を理由に責任を転嫁されるケース
広告業者側が勝手に求人内容を改変し、その結果、求職者や企業に混乱が生じることもあります。たとえば「週休2日制」とすべきところを「完全週休2日制」と記載し、契約と異なる就業条件を提示してしまったために、企業が求職者からクレームを受けるトラブルです。業者が責任を逃れようとする例もあり、法的対応が必要になる場合があります。
3. 無料求人広告の“悪質な手口”と見分け方
3-1. 極端な好条件を提示されている
「採用が決まっても費用は一切かかりません」「何名採用しても無料です」といった、あまりにも魅力的に聞こえる勧誘には注意が必要です。こうした場合、契約を結んで詳しい利用規約を確認してみると、実際には有料サービスへの自動移行や、成功報酬以外の手数料が別途発生するといった条項が潜んでいることが少なくありません。無料期間中のサポート範囲も限定されていて、後から追加料金を請求される可能性もあるため、契約前にしっかりと文面をチェックしましょう。
3-2. 手数料体系が不透明
「掲載費は無料でも、システム利用料や応募者情報管理費を別途頂きます」といった説明をする業者の中には、詳細な費用内訳や支払い条件を曖昧にしたまま契約を急かすところがあります。複雑な手数料内訳や料金体系を並べ立てられ、よくわからないと思っていても「時間がない」「今契約しないと枠がなくなる」と迫られたりすると、とりあえず急いで契約してしまおうという心理になりやすいでしょう。費用項目が明確に一覧化されていない場合は、後から請求内容を争うことが難しくなるため、必ず見積書や契約書の詳細を確認するようにしましょう。
5-3. ハローワークや行政機関のロゴを無断使用する悪質例
企業側が安心感を抱く要因の一つとして、「公的機関との提携」や「行政機関のロゴが使われている」ケースが挙げられます。しかし、実際には何の協力関係もなく、ロゴやイメージを無断で使用している悪質業者も存在します。公式サイトのように装っているだけで、個人情報の取り扱いや契約内容が杜撰である場合が多く、万一トラブルが起きても連絡先や実態が不明瞭で対処不能になる可能性があります。少しでも疑問があれば、管轄の行政機関に問い合わせ、真正な取引先なのかどうかを確かめるのが安全です。
5-4. 問い合わせ先や契約形態が不明瞭
「会社概要」ページや利用規約に、住所・電話番号・代表者名などがほとんど記載されていない会社の場合、何か問題があっても相手に連絡を取る手段が限定され、やり取りができなくなる恐れがあります。さらに、契約形態があいまいで「広告主としての権利義務」がどこに帰属するのか不明瞭なまま掲載を進めてしまうと、後から責任の所在が不明になるリスクが高まります。メールフォームだけを窓口にしている業者も注意が必要です。契約前に必ず正式な連絡先と担当者を確認しましょう。
6. 被害を未然に防ぐための対策と注意点
6-1. 広告掲載前に確認すべき事項とヒアリングポイント
・無料期間の具体的な範囲(何カ月、何回、何名の採用まで?)
・有料プランへの切り替え条件・時期
・中途解約や契約更新の手続き方法・違約金の有無
・担当者や問合せ先
上記の点は契約前に最低限確認をしたうえで、相手の回答内容を記録に残しておきましょう。文章で残しておくことで、後から「言った言わない」の水掛け論を回避できます。 また、契約書を作成・レビューする際、必ず「費用は本当に無料か」「有料プランへの自動移行になっていないか」など、トラブルになりそうな部分が契約書内に記載されていないかを確認してください。
6-2. ネット上での評判のリサーチで信頼性をチェック
インターネット上で企業名やサービス名を検索し、トラブル事例や苦情が出ていないかを確認するのも効果的です。実際にトラブルにあった企業が情報を発信しているケースもあるため、気になる場合は契約の前に一度検索をかけてみるとよいでしょう。
6-3.少しでも疑問を持ったら弁護士へ早めに相談を
「営業担当者の説明と契約書の内容がどうも違う」「このまま掲載してよいのだろうか」と迷う場合は、契約をする前に弁護士に相談されてください。見積もり段階や契約締結の前の段階で法的観点からのリスクチェックを行うことで、トラブルを防ぐことができます。
7. すでにトラブルにあってしまった場合の対処法
7-1. 高額な請求が来た場合でも支払いはしない
無料求人広告だと思っていたのに高額な請求が届いた場合でも、いきなり費用を支払わないようにしてください。まずは契約書の内容やメールなどでの契約時のやり取りを確認し、請求の根拠が契約書に明示されているのか、口頭説明や案内資料との食い違いはないかを確認してください。企業側が「無料」と信じていた根拠があれば、民法上の錯誤や詐欺を主張できる可能性もありますが、先んじて支払いを行ってしまうと後から法的に争う余地が狭まるため、事実関係を固めるまでは支払わないのが原則です。
7-2. 速やかに弁護士に相談する
既に多額の請求書が届いている場合は、できるだけ早めに弁護士へ相談をし、適切な法的手段を取ることをお勧めします。 契約の内容や状況に応じて、取り得る手段が変わってきますので、専門的な視点からアドバイスを得られるのは大きなメリットです。
7-3. 関連サイト(行政・弁護士会)が示す注意点
厚生労働省のハローワークや各地の弁護士会、日弁連などが無料求人広告のトラブルについて注意喚起を行っています。実際に被害が発生した企業が相談窓口に駆け込むケースも増えており、公式サイトには典型的なトラブル例や解決策のアドバイスが掲載されています。契約前にこれらの情報を参照することで、必要な情報収集を行うことができます。
8.弁護士に相談したら何をしてくれる?弁護士が行う法律構成と初動対応
無料求人広告を巡ったトラブルが発生した場合、弁護士がまず行うことは、企業が「契約は無効、もしくは取り消し得る」と主張できる法的根拠を整理することです。具体的には、(1) 民法上の錯誤・詐欺、(2) 消費者契約法(※小規模事業者で準用される場合を含む)、(3) 不当利得や信義則違反などが考えられます。
たとえば営業担当者が「永年無料」と明言していたのに、契約書には有料プランへの自動移行がこっそり書かれていた場合、錯誤や詐欺を理由に契約の無効・取り消しを主張する余地があります。また、景品表示法や職業安定法など、広告表示や労務関連の規制が絡む場合には、事業者側の不正行為を指摘できる場合もあるでしょう。 弁護士が代理人となって広告業者への対応を行う際は、 “内容証明郵便”を使った書面通知から始めるのが一般的です。
内容証明郵便は、配達した日付と配達した文書の内容を郵便局が証明してくれるため、裁判手続きに移行した際の証拠としても有効になります。書面での通知を行う際は、契約書の条項と実際の口頭説明が著しく異なる点や、企業が無料と思い込まされた経緯を具体的に示しつつ、請求の法的根拠を問う形で文書を送ります。
ここで「契約自体が無効・取り消し得る」「すでに支払い請求に応じる義務がない」「必要ならば裁判手続きも辞さない」という姿勢を明確に示すことで、業者の不当な請求を引き下げられる可能性が高まります。業者にとっては、弁護士名義の内容証明が来るだけでトーンダウンするケースもあり、ここで解決できる場合も少なくありません。
仮に、業者が請求を撤回しない場合は、(1) 契約無効・取り消しを裁判で主張する、(2) 不当利得返還を求める、(3) 業者の不当表示や誤認を理由に損害賠償請求を検討するなど、複数の選択肢が考えられます。いずれの方法でも、弁護士が法的構成を整理し、契約書やメールでのやり取りなどを精査し主張立証を行うこととなります。
9. 弁護士に相談するメリット
9-1. 契約前のリーガルチェックで法的アドバイスを受けられる
「無料」と謳う求人広告でも、実際には細かい条件や期間が付されていることが多々あります。弁護士が事前に契約書や利用規約を精査しておけば、後から思わぬ請求を受けるリスクを大幅に低減できます。問題のある条項が見つかった場合は、業者と契約を進める前に修正交渉や代替案を提示することも可能です。
9-2. 弁護士に対応をしてもらうことでの負担軽減
すでにトラブルが発生してしまった場合は、弁護士に代理人として広告業者との交渉を依頼することで、企業側は本来の業務に集中しながら問題解決に向けた手続きを進められます。 法的な観点での精査や立証が必須になるため、弁護士のアドバイスを受けながらの実施が推奨されます。
10. まとめ:無料求人広告トラブルは早期対策が肝心
「無料求人広告」の落とし穴は、企業が十分に内容を確認しないまま契約してしまうところにあります。魅力的な言葉ほど警戒し、契約書や利用規約をしっかりと読み解くことが、トラブル防止の第一歩です。少しでも怪しいと感じる広告提案を受けた場合は、早めに弁護士に相談しましょう。 「いきなり高額な広告費の請求を受けた」「契約書の内容をどうチェックすべきかわからない」とお困りの方は、当事務所の無料相談をご利用ください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。