弁護士コラム

2019.01.31

経営者が知っておくべき労災保険の基礎知識

労働保険の1つであり、度々耳にする「労災保険」は、経営者であれば必ず理解しておくべき制度です。しかし、「労災保険って具体的にどんな時に適用されるの?」「社長は労災保険に加入できるの?」「労災保険は絶対に加入しないといけないの?」といった疑問を抱いている方も多くいらっしゃるのではないかと思います。
そこで、今回は、経営者の方が知っておくべき労災保険の基礎知識について、詳しく紹介していきます。

1.労災保険とは?

労災保険とは、労働者災害補償保険の略で、労働者の就業中または通勤途中の災害について、労働者やその遺族に対して保険の給付を行うものです。
この災害とは、具体的に、病気や怪我をしたとき、病気や怪我が原因で亡くなったとき、障害が残ったとき、介護を受けるとき、健康診断で異常所見があったときを指します。

労災保険には、労働者ごとではなく、事業主単位で加入することになっており、保険料は全額事業主が負担します。事業主の方の中には、「労災保険に加入すると保険料の出費が増えるけど、怪我をするような業務はないから、入らずに済ませたい」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし労災保険は、正社員・パートタイマ―・アルバイトなどの雇用形態に関係なく、1人でも労働者を雇用する場合には、加入が義務付けられているのです。

労災保険に加入するためには、所轄の労働基準監督署に、「労働保険 保険関係成立届」と「労働保険概算保険料申告書」を提出する必要があります。
提出期限は、労働保険 保険関係成立届は労働者の採用の日から10日以内、労働保険概算保険料申告書は労働者の採用の日から50日以内となっています。
実際に労働災害が発生してしまった場合の手続きの流れは、労災指定の病院で受診したかそうでないかによって変わってきます。

(1) 労災指定の病院で受診した場合

「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を病院に提出すれば、原則として自己負担はありません。
そして、提出した請求書を病院が労働基準監督署に提出し、受理・調査された後に、病院に費用が支払われます。

(2) 指定病院以外で受診した場合

一度費用を立て替えて、「療養(補償)給付たる療養の費用請求書」を労働基準監督署に提出します。そして、調査がなされた後に、指定された口座に振り込まれます。

2.社長の労災保険の取扱い

それでは、社長が仕事中に怪我をした場合はどうなるのでしょうか。
労災保険は、名前の通り「労働者」のための保険です。つまり、社長のほか、役員も原則として適用されません。代表取締役も平取締役も、労働者ではなく経営者であるからです。
そして健康保険は、労働災害を対象としていません。ですから、もし労働災害が発生してしまった場合、社長は労災保険・健康保険のいずれも利用することができず、全額を自己負担しなければならないということになります。

ただし、例外として、健康保険の被保険者が5人未満である事業所の代表者であり、一般の従業員と同じような業務に従事している場合には、傷病手当金を除いた健康保険の給付を受けることができます。
また、労働者を1人以上雇用している中小企業について、労働保険事務組合へ事務を委託することで、社長や役員であっても特別に労災保険の加入が認められる「労災保険の特別加入制度」というものもあります。
労災保険に特別加入できる中小企業の要件は、常時使用する労働者の数が、金融業・保険業・不動産業・小売業の場合は50人以下、卸売業・サービス業の場合は100人以下、それ以外の業種の場合は300人以下であることです。

労災保険に特別加入をすると、労働保険料の額に関わらず、3回に分割納付することができます。社長1人だけという場合には加入できませんが、対象となる方々には、労働災害が起きてしまう前に、ぜひこの特別加入制度について検討していただけたらと思います。

3.未加入のリスク

前述のとおり、労災保険は、1人でも労働者を雇用する場合には加入が義務付けられています。では、もし労災保険に未加入のうちに労働災害が発生してしまった場合はどうなるのでしょうか。

結論からいうと、未加入であっても、労働基準監督署に給付を請求することは可能です。ですので、未加入であることによって労働者が不利益を被るということはありません。
ところが、事業主については、遡って保険料を徴収されたり、給付された費用の全部または一部を徴収されたりといったペナルティが課されてしまいます。

経営する上で、保険料の支払いを負担に感じる方もいらっしゃるのではないかと思いますが、これまでに述べたように、未加入のままにしておくことは大きなリスクを伴います。
加入を怠っていたばかりに莫大な金額を請求されてしまったということを防ぐためにも、雇用形態に関係なく、1人でも労働者を雇用したら、速やかに加入手続きをしましょう。

4.まとめ

今回は、経営者であれば知っておくべき労災保険に関する基礎知識について紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
労働災害は突然発生するものです。これを機に労災保険について正しく理解し、万が一の場合に備えていただけたらと思います。

また、労災保険は、経営者・労働者の方々が安心して働くことができる職場環境を整えるための大切な制度です。何か分からないことがある場合には、後回しにせず、社会保険労務士に相談していただくことをお勧めします。

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