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警察(警察官)にクレームをお持ちの方へ

突然ですが皆さんは「3歳にも満たない子どもがバラバラに切断された」という事件を知って、数日後「その事件の容疑者が逮捕された」という報道がなされたときどう思いますか?

「よかった、逮捕されたんだ!」
「こんな残酷なやつは死刑にしてしまえばいい!」
「サイコパスじゃないのこの人?」

もしかするとそんなことを思うかもしれません。
しかしながら、逮捕された人=犯人とは必ずしも限りません。

1 約7割は有罪にはなっていない

我が国では、公訴が提起(刑事訴訟法247条)されればそのほとんどが有罪になりますが、逮捕されたのちに起訴される確率は、31%程度にとどまっています(平成29年犯罪白書)。
つまり、逮捕された人の約7割は(実際に犯罪を行ったかはさておき)有罪にはなっていないのです。

逮捕された人というのは、その段階では罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由がある者(刑事訴訟法199条、通常逮捕の場合)であって、逮捕の段階では、犯人とは限りません。この段階で疑われている人(しばしば容疑者といわれます)のことを被疑者といいます。

刑事訴訟手続では「疑わしきは被告人の利益に」という原則がありますが(刑訴336条、憲法31条)、その一方で、警察段階では、条文に従うと、少なくとも疑わしい者を逮捕することとなっています。

もしかすると、あなたが何らかの理由で犯行の行われた現場にいて、疑われる状況になり、逮捕されることも十分にあり得る話なのです。

そうすると、最初に例に出した逮捕された人に対して感じた、「悪いことをした人が捕まった」という印象が、もしかすると間違っていた可能性もありますよね。
人にはあまり物事の判断に時間を割かず、白黒をつけてしまう性質があるので、それ故の仕方のないことであると思われます。

例えば、「カルテット」というドラマの主題歌にもなった椎名林檎さんの「おとなの掟」という曲の歌詞にこんなものがあります。

“ああ、白黒つけるのは恐ろしい
切実に生きればこそ“

本当に切実に、ものごとと向き合って考え、悩んだとき、苦悩しながら白黒つけることの難しさや恐ろしさに直面するものと思われます。

さて、ここで本題に戻りますが、反対に何かを悪いと決めて断ずる人がいなければどうなるでしょう。誰も何も悪いと言わない結果、物事がうやむやになってしまう事態が考えられるのです。そのため、一定の秩序を保たなければいけないという要請もあります。

秩序を保つためには、誰かを罪人であると主張する役割(つまり公訴の提起を行う人)もいなければいけないのです。その役割は検察官が職務の一貫として担っています(刑事訴訟法247条)。そして、その検察官の判断材料を集めるのが警察官の一つの役割となっています。このような役割の下では警察が行き過ぎた行為を行うことや、反対に、捜査に対して消極的になることも想定できます。

2 警察の責務に関する法律の定め

皆さんは警察官というとどのような人をイメージしますか?青島刑事でしょうか?シバトラでしょうか?警察官で思い出される人は結構刑事さんが多いような気がするのですが、実際に関わるとなると街の警察官であると思います。そして、みなさんがトラブルに巻き込まれるのも街の警察官との間であると思われます。

 なお、警察法によると、警察の責務は以下のように定められています。

(警察の責務)
第二条 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
1 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない。

警察官は、①犯罪の予防、②犯罪の鎮圧、③犯罪の捜査、④被疑者の逮捕、⑤交通の取締、⑥その他公共の安全と秩序の維持にあたること、を責務としていて、責務の遂行にあたってはその権限の濫用があってはならないこととされているのです。

3 警察官の行き過ぎた行為の報告先

当然、犯罪を行った可能性のある者を捜査するものですから、捜査が行き過ぎることも考えられます。逆に警察官にも色々いらっしゃいますので、なかなか捜査や取締に積極的でない警察官もいると思われます。
例えば警察官から、行き過ぎた行為を受けたとか、告訴を行っているのに受理しようとしないなどの事情で、警察官に対する苦情をお持ちになる場合もあるかもしれません。その際は、苦情の通報先がありますのでご利用になってみるのもよいかもしれません。

(1) 都道府県警本部 監察官室等
福岡県では監察官室という窓口が設置されています。警察官が実名を名乗らなかった場合については、制服を着た警察官の場合は胸にある識別章の番号【AA111】などアルファベット2文字と数字3文字をメモしておくと、のちのち特定することができます。福岡県警察の場合、以下が苦情の申出先になっています。
 〒812-8576
  住所:福岡市博多区東公園7番7号
     福岡県警察本部(相談コーナー)
  電話:092-641-9110

(2) 都道府県の公安委員会
 都道府県公安委員会は、都道府県知事の直下におかれる組織です。都道府県公安委員会が管理しているのが都道府県警察本部で、その下に県警本部と本部長、警察署があります。都道府県公安委員会に対し苦情を申し出ることも出来、その申出の根拠は警察法で定められています。以下が警察法の規定と、申出の方法に関する規則です。

(苦情の申出等)
第七十九条 都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者は、都道府県公安委員会に対し、国家公安委員会規則で定める手続に従い、文書により苦情の申出をすることができる。
2 都道府県公安委員会は、前項の申出があつたときは、法令又は条例の規定に基づきこれを誠実に処理し、処理の結果を文書により申出者に通知しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
(省略)

そして、国家公安委員会規則に『苦情の申出の手続に関する規則』という規則がありこのように定められています。

『苦情の申出の手続に関する規則』
(苦情申出書の提出)
第二条 苦情申出を行おうとする者(以下「申出者」という。)は、次の各号に掲げる事項を記載した文書(以下「苦情申出書」という。)に署名又は押印をしてこれを提出するものとする。
一 申出者の氏名、住所及び電話番号
二 申出者が住所以外の連絡先への処理の結果の通知を求める場合には、当該連絡先の名称、住所及び電話番号
三 苦情申出の原因たる職務執行の日時及び場所、当該職務執行に係る警察職員の執務の態様その他の事案の概要
四 苦情申出の原因たる職務執行により申出者が受けた具体的な不利益の内容又は当該職務執行に係る警察職員の執務の態様に対する不満の内容
2 (省略)
第三条 苦情申出書の受理に関する事務を行う警察職員は、申出者が苦情申出書を作成することが困難であると認める場合には、当該申出者の口頭による陳述を聴取し、苦情申出書を代書するものとする。
2 警察職員は、苦情申出書を代書した場合には、申出者に当該苦情申出書を読み聞かせ、又は閲読させた上で、その署名又は押印を求めるとともに、自己の所属、官職及び氏名を記載し、押印するものとする。
3 警察職員は、苦情申出書を代書するに当たり通訳その他の者を立ち会わせた場合には、当該苦情申出書にその者の署名又は押印を求めるものとする。

4 まとめ

なお、都道府県公安委員会宛のものは苦情の申出の手続に関する規則による決まりで必ず結果がお知らせされるというようになっているので、調査したうえでの結果をお知りになりたい方はこちらを選ばれる事が望ましいようです。
上記に定められるような苦情申出書には書かなければならない事項が難しく作成が難しいかもしれません。もしも記載が難しければ、法律上の規定ともからめて苦情申立書を作成することも出来ますので身近な法律家に相談するのがよいものと思われます。