未成年の子供がいる夫婦の離婚では、親権、養育費、子供の姓、面会交流等の様々な内容について決めなければなりません。
今回は親権に関わる部分に特化して説明したいと思います。
1.親権者の権利
未成年の子供がいる夫婦の離婚では必ず親権者を決めなければなりません。親権の取得を簡単に説明すると、子供を引き取り育てていく権利という理解が一般的ではないかと思います。では、実際には親権の取得により具体的にどの様な権利が発生するのでしょうか?代表的な権利として2つの例を挙げます。
① 身上監護権
子供の衣食住にかかる日常の世話、教育やしつけをする権利・義務。
②財産管理権
子供の財産を管理し、契約等の財産管理に関する法律行為を代理で行う権利・義務。
以上2つの権利は、子供を育て教育すると同時に、金銭管理と未成年の期間における契約行為を代理で行うという権利です。両方の権利とも子供を育てるにあたり必ず必要な権利になります。
また、親権のうち、①身上監護権には次のような内容も含まれています。
㋐子供の住む場所を指定する権利
㋑子供が悪いことをしたときに注意し罰を与える権利
㋒子供が仕事をするときに判断し許可を与える権利
以上、親権に含まれる代表的な権利を紹介しました。このように、親権と一括りになっているものの、本来は細かい権利を複合して親権という言葉が成り立っています。
2.親権者の決定
離婚では親権の取得が最大の争点となり、離婚に際し取り決めるべき事項のうち、その他の問題点については全て合意していても親権の問題がネックとなり、離婚手続が長期化、複雑化するケースは少なくありません。
離婚手続には、協議離婚や調停離婚等、段階に応じて各手続が用意されていますが、親権の問題が各離婚手続へどの様に影響するのかを簡単に説明します。なお、各手続の詳細は別記事で改めて説明していますので、そちらをご参照ください。
① 協議離婚
協議離婚では、当事者が離婚届を市町村役場へ提出し、役所から受理された場合に離婚が成立します。提出する離婚届の必要記載事項には、親権者の欄があり、夫婦のうちどちらが親権者になるかを明記する必要があります。
もし、親権者の欄が空欄であれば離婚届は受理して貰えないため離婚自体が成立しないことになります。夫婦間で話し合って親権者を決定出来ない場合には、協議離婚での解決はできないため、離婚手続は離婚調停へと進んでいきます。
② 離婚調停
調停離婚は、家庭裁判所を利用し、調停委員という第三者を介して離婚の内容や条件を話し合う手続となります。真っ向から親権が争われる場合は、家庭裁判所の調査官が選任され、夫婦のどちらが親権者として適切かの調査が行われ、調査結果を基に協議を行う場合も多いです。
ここで親権者について合意することが出来れば問題無いのですが、あくまでも話し合いであり、裁判所が親権者を指定することはできないため、お互いに主張が対立した場合は不成立となり審判、若しくは訴訟に移行します。
③ 審判
審判離婚は、離婚やその条件の大筋については当事者間で合意がまとまっているものの、合理的な理由によらずに細かい点について合意がまとまらない場合に、裁判官の決定で離婚、親権を含めたその他の諸条件を決定することが出来る手続きです。親権で互いの主張が真っ向から対立している場合に裁判所が審判を出すケースはほとんどないと思われます。
また、審判の通知を受け取ったとしても異議申し立てにより審判の効力を失わせることが可能なため審判で離婚が決定するケースは離婚手続全体の割合から見ても少ないです。審判の効力が失われると、次は離婚訴訟となります。
④ 離婚訴訟
調停の不成立、審判の取り消しから移行するのが離婚訴訟です。訴訟では実際に裁判期日が開かれ、裁判官が離婚の成立を認める判決を出した場合には親権者等の諸条件も合わせて決定されます。
以上、①から④で分かるように離婚手続きにおいて親権者を話し合いで決定できるのは②の離婚調停の段階までで、審判、訴訟となると裁判官が決定権を持つことになります。
家庭裁判所が親権者を指定するときの傾向として、子供が乳幼児の場合は母親が優先されています。母親に育児放棄、虐待等で子供を養育出来ないことが明らかな場合などの特別な事情が認められる場合は、父親が親権者に指定されるケースもあります。
そして、家庭裁判所は子供の現在の生活環境を維持することを優先的に考えられています。裁判所を利用して離婚手続を進めている夫婦は別居しており、子供は夫婦どちらかが監護していることが一般的です。その様な状態で、裁判官が現在監護していない親を親権者として指定した場合には、子供にとっては家、同居人などの生活環境全般、保育園や小学校などに通っている場合は周辺との関係性も含め大きく変わることになるため、子供への負担を強いることになってしまうためです。
では、仮に子供が2人以上いるケースでは、親権者はどの様に指定されるのでしょうか?子供が2人居る場合には、子供1人1人につき親権者が定められます。そして、兄弟姉妹は同一の親権者が指定されることが一般的です。
また、子供が満15歳以上であれば、裁判所は親権者の指定について子供の意思を確認することが義務付けられています。仮に15歳未満であった場合でも発達状況により子供の意思が親権者の指定に大きな影響を与えることは多々あります。
もし、子供を妊娠している間に離婚することになってしまった場合はどうなるのでしょうか?その時点では子供生まれていないため、親権者という立場も存在しません。そして、この様な場合では原則として生まれた時点で母親が親権者となります。もしろん、生まれた後に親権者を父親に変更する手続きも可能となります。
稀なケースとしては、親権から身上監護権(子供の世話や教育に関する権利、義務)を分けて親権者と監護者(監護権者)に分ける事で解決をはかることもあります。このケースでは、監護者が子供を引き取り日常的な世話や教育を行っていくことになりますが、あくまでももう一方の親が親権者として親権の内、他の権利を有することとなります。
3.離婚後の親権者の変更について
離婚時に定めた親権者を後日変更することは可能です。しかし、元夫婦間の話し合いだけで全てを決定できるわけではありません。もし、話し合いで簡単に親権者を変更出来てしまうと、その都度子供の生活環境が大きく変わるため、子供に不利益を与える結果となります。
その様な状況を防ぐために親権者を変更したい場合には、家庭裁判所へ親権者変更調停の申立てを行う必要があり、調停が成立すれば親権者を変更することが可能となります。調停が不成立となった場合には審判に移行することになります。
親権者の変更が認められるには主に次のようなケースが考えられます。
①親権者が病気等により子供の世話が不可能となった場合
②子供への虐待が認められる場合
③子供の養育環境が著しく劣悪な状態であるとき
④ その他、親権者の変更が子供にとって必要であると認められるとき
親権者の変更が確定したら、確定した日から10日以内に市町村役場へ「親権者変更届」を提出します。なお、親権者と監護者がそれぞれ分かれているケースで、監護者のみを変更したいとうときは当事者の話し合いだけで変更をすることが可能です。
4.おわりに
以上のように親権者の決定は離婚手続全般と大きく連動しており、互いに影響を及ぼしています。また、一度指定された親権者を後日変更するには一定の条件があるため簡単ではありません。離婚時の親権者の決定は、その後への影響を考えると互いに簡単に折り合いがつかないケースが多いです。
加えて、親権の問題は互いに感情面の対立に発展するケースが多く、本来は対立していなかった部分まで問題化してしまうこともあります。その様な事態に陥る前に、弁護士に問題点の整理や見通しなどを相談することも解決策への1つとなります。