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【離婚問題】別居時の生活費っていくらくらいもらえるの?婚姻費用分担額の基準

「私は1か月前に夫と別居しました。私は,夫の経営している会社を手伝っていましたが,別居してからは無職になってしまいましたので,夫に婚姻費用を支払ってくれるよう請求したいと思うのですが,いくらくらいもらえるのでしょうか?なお,私と夫の間には子供はいません。」
夫(又は妻)との間で別居したとしても,生活はしていかなくてはいけません。しかし,今回の相談者のように別居を機に無職になってしまい収入がなくなってしまうというケースも決して少なくはありません。そこで,このような場合には生活費を確保する方法として,婚姻費用を請求することになりますが,婚姻費用はいくらくらいもらえるのかという点についてお話ししたいと思います。

1 婚姻費用ってなあに?

 まずは,婚姻費用という言葉にはあまり聞き覚えはないと思いますので,婚姻費用とは何か,ということからお話ししたいと思います。
 前提として,夫婦は,法律上互いに生活保持義務を負っています。生活保持義務とは,自分の生活と同程度の生活を相手方に保持させる義務のことで,その義務の具体化として,相手方に対して婚姻費用を負担しなければなりません。婚姻費用とは,簡単に言うと生活費のことです。たとえば,衣食住費,医療費,交通費等,生活する上で必要な費用がこれに含まれます。
婚姻費用には,配偶者の生活費のみならず,夫婦間の未成熟子の生活費,教育費等も含まれます。なお,婚姻費用の問題は,別居したときに顕在化することが多いですが,同居中であっても請求することは可能です。(同居中の夫が生活費を渡さない等のケースがこれにあたります。)

2 婚姻費用の決め方

 では,この婚姻費用はどのように決めればいいのでしょうか?
 これについて,民法760条は,夫婦の「資産,収入その他一切の事情を考慮して」決せられると定めていますが,具体的にいくら払うかについての規定はありません。
そのため,婚姻費用についても財産分与や慰謝料の場合と同じように話し合いで自由に決めることができます。よって,お互いが納得している限り「全く支払わなくてもいい」とか「毎月100万円支払う」といった内容で婚姻費用についての合意をしても構いません。
 もっとも,話し合いで自由に決めることができるとはいえ,毎月の生活費として必要な金額というのは,各家庭によって多少差はあるとしてもある程度決まっているでしょうから,実際の生活費に必要な金額とあまりにかけ離れた金額を請求すると,話し合いはまとまらなくなってしまいます。話し合いがまとまらない場合は,調停を申立てることになりますが,調停でも合意に至らない場合は審判という手続きで金額が決まります。審判は,話し合いではなく,裁判官が一方的に金額を決定する手続きです。
調停や審判等の裁判所での手続きでは,婚姻費用の金額に関し,ある程度相場のようなものがありますので,交渉を有利に進めるためには,相場がいくらかを知っておくことが重要になってくるのです。

3 婚姻費用はどのように決められるの?

 前でお話ししたように,婚姻費用の金額については,基本的には話し合いによって自由に決定することができますが,調停においての話し合いでは,「簡易迅速な養育費等の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」(以下,算定表といいます。)をもとに婚姻費用を計算することが一般的です。
この算定表は,裁判所のホームページにも掲載されているため,ご覧になったことがある方も多いかもしれません。この算定表では,以下の事情を考慮して金額が決定されます。

① 支払う側の年収
 支払う側の年収が多ければ多いほど,婚姻費用の金額も大きくなります。

② 受け取る側の年収
受け取る側の年収が少なければ少ないほど,婚姻費用の金額も大きくなります。そのため,専業主婦の場合には婚姻費用も比較的高額になる傾向があります。なお,収入があるから請求できないという話ではなく,収入があったとしてもその収入に差があれば,婚姻費用の請求は可能です。

③ 子どもの人数
婚姻費用には子どもの生活費や教育費も含まれます。そのため,子どもの人数が多いほど婚姻費用も高額になる傾向があります。

④  子どもの年齢
子どもが大きくなると義務教育ではなくなるため,教育費なども多めにかかる傾向があります。そのため,子どもの年齢が高いほど婚姻費用も高額になる傾向があります。

4 算定表の利用手順

 婚姻費用算定にあたっては,上記の事情を考慮し,該当する算定表を参考にして金額を計算することになります。この際の算定表の利用手順は以下の通りです。以下は,実際に算定表を一緒に確認しながら読んでいただけると分かりやすいかと思います。
 
① 子どもの人数と年齢から利用する算定表を選ぶ。
(現行の算定表は,子どもの人数が3人までの分しか掲載されていませんので,4人以上のご家庭であれば,別途計算式による計算が必要です。これについては,婚姻費用算定に詳しい専門家弁護士にご相談ください。)

② 支払う側(義務者)の年収を確認して,算定表の縦軸の該当する金額を確認する。この際,自営業者か給与取得者で確認すべき場所が違いますので注意が必要です。
(なお,ここでいう年収とは,給与所得者の場合は,源泉徴収票上の「支払金額」の金額を言い,自営業者の場合は,確定申告書上の「課税される所得金額」の金額を言います。)
  ↓
③ もらう側(権利者)の年収を確認して,算定表の横軸で該当する金額を確認する。この際,支払う側の年収と同様に自営業者か給与取得者で確認すべき場所が違いますので注意して下さい。
  ↓
④ 両者の年収が交差するポイントが婚姻費用の金額になります
5 まとめ
 今回は,算定表を利用した婚姻費用の計算方法についてお話しさせて頂きました。調停における婚姻費用の算定においては,算定表における金額が基準となります。そのため,こういった相場を知っていただくことが解決のために役に立つと思いますので,一度確認してみてください。
 もっとも,算定表は,養育費や婚姻費用を簡易迅速に算定するために,典型的な家族構成について,統計資料に基づいて算出されたものですので,各事案の個別的事情については考慮されていません。たとえば,算定表で考慮されている子どもの教育費は,公立の高校までの費用ですので,私立の学校の学費や大学にかかる費用等は考慮されておらず,これらについては算定表で定める費用に加えて,請求できるケースもあります。また,子どもが4人以上の場合や,再婚して前妻と後妻の双方に子供がいるケースなどについては,算定表は使えないため,個別に計算する必要があります。
 これらの計算は,算定表が作成された背景事情や,基になった計算式を理解していないと不可能ですので,弁護士の中でも,婚姻費用や養育費に関し,多数の審判例を経験した詳しい弁護士でなければ,金額について正確な見通しを立てることは難しいです。
 婚姻費用は,毎月の負担となりますので,わずかであっても金額の増額又は減額は,生活に大きな影響を与える問題です。ですので,どうにか金額を増やしたい,減らしたいというような場合には,何か方法がないか経験豊富な弁護士に相談することをお勧めします。