離婚するにあたって,どうしても考えなければならないお金のこと…。子供の親であれば,子供に不自由はさせたくないですよね。今回は,子供を育てるための費用である「養育費」について知っておくと便利な知識をご紹介したいと思います。なお,一般に監護権者になるのは妻の場合が多いので,養育費を支払う側を元夫,養育費を支払われる側を元妻としてお話しさせて頂きます。
1 養育費はいつまでもらえる?
まずは,養育費の額を決めるにあたって重要な要素となる養育費の支払終期についてお話ししたいと思います。
(1) 基本的には20歳まで
養育費とは,経済的に独立して自己の生活費を獲得することが期待されていない年齢にある者,すなわち未成熟子に対して支払われるものですから,一般的には子供が成人する20歳までとされています。
もっとも,両親の経済力や学歴等に照らして,子供が大学に進学することが予定されている場合,20歳までではなく,「子供が大学を卒業する年の3月まで」と定めることもあります。このような場合,子供の年齢が20歳を過ぎても大学を卒業するまでは養育費を支払ってもらえることになります。最近は,一般的に大学に進学する子がほとんどですので,裁判所も基本的に大学に進学することを前提に考える傾向にあります。ですので,大学卒業までというのが基本形になりつつあると考えて良いかもしれません。
(2) 20歳まで支払わなくて良いこともあるし,減額されることもある
また,養育費を「子供が成人になるときまで」と定めていたとしても,場合によってはそれより前に支払わなくていい場合や減額が可能なこともあります。
このような定めをしている以上,本来であれば,養育費の支払は子供が成人になるまで続きます。
しかし,子供が中学校・高等学校を卒業してすぐに就職をした場合のように子供が自分で独立して生活費を獲得できるようなときにはその時点で養育費を支払わなくても良くなると考えられます。
また,支払う側の個人的事情,社会的事情の変更,例えば会社をクビになったとか,怪我をして長期入院したとかで収入が大きく減った場合や再婚して育てなければならない子供の数が増えたような場合,物価が著しく下がった場合などでは,養育費が減額されることもあり得ます。
ただし,これらも一度決めた内容を変更するのであれば,変更するための手続を経る必要がありますので,注意が必要です。
2 一括払いと分割払いどっちがお勧め?
では,以下の「2 一括払いと分割払いどっちがお勧め?」から「5 振込先口座は子供名義か元妻名義か」では,実際に養育費をどうやって支払うか,どうやってもらうかという「支払方法」についての話をしたいと思います。
「養育費を一括で支払ってほしい」との要望をたびたび耳にします。このような要望をする理由は,途中から支払ってくれなくなるのではないか,という不安によるものです。
養育費は,未成熟子の日々の生活のための費用ですから,月払いが原則です。したがって,一括払いしてもらうには養育費を支払う側との間で合意をすることが必要になります。
しかし,一括払いとなれば金額が極めて高額になること,元妻が本当に子どもの養育費として使用してくれるのかという不信感,養育費を一括払いすることで子供との縁が切れてしまうのではないかという不安感等から,養育費を支払う側が養育費の一括払いに合意することは稀です。現実的に,将来の養育費全額を一括で支払えるだけの貯金を持っている父親は本当に稀でしょう。
もっとも,仮に養育費を一括でもらえるとしても,贈与税の支払義務が発生する可能性が高く,本当に一括払いの方がいいのかは慎重に判断すべきでしょう。
なお,一括払いを選択した場合,子供のために確実に使われることを担保する方法として,養育信託という方法がございますので,ご検討の際は信託銀行に問い合わせてみることをお勧め致します。
3 養育費を払い忘れることのリスク
例えば,元夫が会社員で今月の養育費の支払が遅れたとしましょう。このような場合,普通の債権であれば,滞っている分しか差し押さえることは出来ませんが,養育費の場合は,将来の養育費をすべて差し押さえることが可能とされています。つまり,元妻は,地方裁判所に対し,将来にわたる給料債権の差押えを申し立て,これが認められると,元妻は実質的に給料天引きで養育費を受け取るのと同じ効果が期待できます。そうなると,元夫は養育費の終期まで給料の一部を差し押さえられ続けることになります。
そのため,元夫としては,養育費については絶対に支払いを忘れないように注意する必要があります。
4 養育費を手渡しすることってできる?
養育費を支払う際に「子供に手渡しをすることは出来ませんか?」とおっしゃる方もいらっしゃいます。たしかに,子供に直接気持ちを伝えることが出来るというメリットはありますが,あまりお勧めは致しません。養育費を支払ったことを立証することが困難だからです。
養育費の支払方法として一般的に用いられるのは「預貯金口座への振り込み」です。このような支払い方法を定めるにあたっては,振込先の口座だけでなく,振込日も明確に定めておく必要があります。
なお,銀行の自動送金を利用する方法もございます。これは,元夫の口座から振込日に自動で指定の口座に振り込むという方法です。この方法を採用するには,銀行に自動送金を申し込む必要がありますが,一度手続きをしておけば,今後毎回金融機関へ出向く必要がなくなるだけでなく,「3 養育費を払い忘れることのリスク」でお話ししたようなリスクのある払い忘れの可能性もなくなりますので検討してみてはいかがでしょうか。
5 振込先口座は子供名義か元妻名義か
元夫が子供を育てるための費用の分担として養育費を支払っている以上,元妻に支払うのが原則です。しかし,元妻に対する感情や子供に将来思いを伝えたいなどの理由から子供名義の預金口座に振り込みたいと思う人も多いと思います。このように子供名義の口座に振り込むとする方法も合意さえすれば可能です。つまり,養育費の振込先口座は子供名義でも元妻名義のいずれでも構いません。
なお,養育費だけでなく,解決金や財産分与の支払いがある場合,これらを同一口座に振り込むことにしていると,一部しか支払えなかった場合に何のお金を振り込んで,何のお金が滞納になっているかが分からなくなってしまいます。ですので,解決金・財産分与なども問題になる場合には別々の口座に振り込むようにすることをお勧め致します。
6 確実に養育費を獲得するための方法
最後に元夫が養育費を支払ってくれない場合を見越した対策についてお話ししておきたいと思います。
養育費について合意書を作成していれば,支払いが滞っても大丈夫と思っている方がよくいらっしゃいます。確かに,このような書面が作成されていれば裁判になった時に便利ではあるのですが,これがあるからと言って直ちに給料などを差押えて強制的に養育費を支払ってもらえる訳ではありません。このような書面だけですと,調停や裁判という手続きを経なければなりません。
そこで,給与差押等の強制執行を視野に入れるのであれば,公証役場で「強制執行をしても構いませんよ」との文言(強制執行認諾文言)を付した公正証書を作成することです。公正証書を作成しておけば,わざわざ裁判をすることなく,強制執行で相手方から養育費を回収することが可能になります。
7 まとめ
いかがだったでしょうか?今回は,養育費について知っておくと便利な知識についてお話しさせて頂きました。養育費は長期的に支払っていくものになるため,どうしても先の話として安易に期限や金額などを決めてしまう傾向にあります。また,月ごとに見てしまうと金額がどうしても安価になってしまうため,弁護士を入れるのは少し躊躇われるかもしれません。しかし,養育費の支払終期が1年でも,毎月の養育費が1万円でも変われば,総額としては数十万円単位で変わってくることも少なくありません。そのため,離婚事件に経験豊富な弁護士を入れて話し合いを行うことをお勧め致します。