別居にあたって妻が子供を連れて別居した場合,夫はただ傍観するしかないのでしょうか。そんなことはありません,すぐに対応することで子供と暮らすことができるようになるかもしれません。今回は,妻が子供を連れて別居したケースにおいて,子供と暮らすためにはどのような方法が考えられるか,どんなときに認められるかについてお話し致します。
1 どんな方法をとればいいの?
まず,忘れてならないのは,別居していたとしても離婚するまでは,子供の親権者であり監護権者(簡単に言うと世話をする人です。)は妻と夫のいずれでもなく,どちらともが親権者であるということです。そのため,民法上,親権者や監護権者を指定するのは離婚の時とされています(民法766条)。
もっとも,離婚前であっても監護権者を父母どちらかに指定することは可能です。これが監護権者指定の調停及び審判です。この手続きを経ていなければ,仮に子供を取り戻したとしても相手に取り戻されてしまうおそれがあります。
また,監護権者として指定された場合であっても,子供の引渡しを求めるのは別手続になります。そのため,監護権者指定の調停や審判を申し立てる際は,子の引渡の調停や審判も同時に申し立てることになります。そして,さらに急いで子供を取り戻したい場合であれば,審判前の保全処分を申し立てることになります。
以上が子供を取り戻すための方法になります。まとめておくと,妻が子供を連れて別居した場合,夫としてはすぐに監護権者指定及び子の引き渡し審判申立書及び審判前の保全処分を申し立てることになるでしょう。ちなみに,早く子供を取り戻そうとするのが普通ななか,月1回程度のペースで話し合いを行うのは現実的ではないので,通常,調停を申し立てることはありません。
2 どうやって判断するの?
では,実際に監護権者指定及び子の引き渡し審判及び審判前の保全処分を申し立てたとした場合,どのような事情を考慮してどちらが子供を育てるかを判断するのでしょうか。これらの申立ての判断基準は同じと考えられていますので,一括して検討したいと思います。
子の監護者指定・引渡しなど子の監護に関する処分については,「子の利益」「子の福祉」が判断基準となります。子の監護者指定・子の引渡しの判断は,当事者双方のいずれが監護者として適格かの比較衡量によって決せられます。それでは,考慮要素を確認してみましょう。
〈父母側の事情〉
監護能力,監護態勢,監護の実績(継続性),(同居時の)主たる監護者,子供との情緒的結びつき,愛情,就労状況,経済力,心身の健康,性格,生活態度,直接子に対してなされたか否かを問わず暴力や虐待の存否,居住環境,保育あるいは教育環境,親族等監護補助者による援助の有無,監護補助者に任せきりにしていないか,監護開始の違法性の有無,面会交流についての許容性など
〈子供の側の事情〉
年齢,性別,心身の発育状況,従来の養育環境への適応状況,監護環境の継続性,環境の変化への適応性,子供の意思,父母及び親族との情緒的結びつき,兄弟との関係など
以上のような様々な事情を考慮して子供をどちらが育てるべきかを比較して判断することになりますが,このなかでもとりわけ重要視されるものとして「監護環境の継続性」があります。この視点は次にお話しする子連れ別居のときにも妥当するので心に留めておいてください。
3 じゃあ妻が子供を連れて出て行った場合に違法となる余地はあるの?
さて,それでは妻が子供を連れて別居したケースでは,どういう判断がされることになるのでしょうか?
まず,確認しておきたいのは,父親の同意なく子供を連れて別居したとしても,必ずしも違法と判断されるわけではないということです。妻による子供の監護が違法とされるためには,子の年齢,意向,連れ出すにあたっての具体的経緯や態様を総合的に考慮して判断することになります。
よって,実際に子連れ別居が違法と判断されるか否かは個別の事案を見たうえでさらに様々な事情を総合的に判断して検討することになるでしょう。そして,妻が嫌がる子供に対して暴力をふるいながら連れ去った場合など違法な連れ去りと評価され得るときであれば、違法に連れ去った妻の監護状況を「監護環境の継続性」として考慮せず,また監護者としての適格性を疑わせる事情として考慮することが出来ます。
ただ,違法な連れ去りであると評価された場合であっても必ず夫が監護者になれるわけではありません。その他の事情を考慮した結果,連れ去った妻のもとで監護すべきであると判断されることもあり得るため,注意して下さい。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は子連れ別居の場合に子供を取り戻すことができるかについてお話しさせて頂きました。裁判所は上でも述べましたが,「監護環境の継続性」を重視しています。そのため,このような子連れ別居の際には、子連れ別居が違法と判断されるか適法とされるかということだけではなく,一日でも早く対応をすることが何よりも大事になります。また,すぐに対応しようとしても法律の専門家ではない場合や専門家であっても十分なノウハウのない弁護士であれば迅速に対応することができません。
よって,お困りの場合は一日でも早く経験豊富な弁護士に相談するようにしてください。