「私と妻は,結婚して10年になり,子供が一人います。私の月収はだいたい30万円程度です。妻は,いわゆる教育ママで子供のためと思えば,いくらでも高価な教材を購入してしまいます。2か月前にも業者から20万円もする高額な英会話教材をローンで購入していました。もっとも,子供の教材については妻自身がパートで働いたお金を使っていたので何も言っていませんでした。しかし,妻がパートをやめてしまい,自分のお金で払えなくなると,私に対して業者から英会話教材の代金を請求されるようになりました。私は,夫として請求に応じなければならないのでしょうか?」
今回は,妻が勝手に購入したものについて夫も責任を負うのかということについてお話ししたいと思います。
1 妻の債務を夫も払わないといけないのか?
そもそも英会話教材を購入したのは妻であって,夫は何も関与していないのですから,それぞれの責任で支払うべきとも考えもありえそうです。つまり、夫が支払う必要はなく、妻が払うべきだ、ともいえそうです。
しかしながら,法律は,夫婦の共同性を重視して,婚姻共同生活のための行為(以下、日常家事といいます。)から生じた債務については夫婦に連帯責任を負わせてもよい,と考えています。
そこで、法は、妻が日常家事に関する契約を結ぶ場合,夫も連帯して責任を負うことになると規定したのです。そのため,妻が勝手に契約したとしても日常家事に関するものであれば、夫の債務でもあるといえ,妻が代金を支払わない場合には夫が代わりに代金を支払わなければならないのです。
2 日常家事ってどんなもの?
では,夫が妻の代わりに代金を支払わなければならない日常家事に関するものと認められるのはどんな行為になるのでしょう。
日常家事とは、「未成熟子を含む夫婦が日常の家庭生活を営む上で通常必要とされる一切の事項」をいうとされています。そして、その行為が日常家事にあたるかの判断にあたっては,①夫婦の社会的地位や職業,資産,収入などの内部事情,②法律行為の種類・性質などの客観的要素が考慮されます。
これだけだとわかりにくいと思いますので少し具体的な話をしてみたいと思います。たとえば,どんな家庭であっても、ディスカウントストアでの家族の食料、家具などの日用品,生活に必要な医療,娯楽・交際,教育などにかかる費用は必要だと思います。そのため、これらの費用はどんな家庭であっても日常家事にあたるといっていいでしょう。
しかし、家具を購入することがすべて日常家事に含まれるわけではありません。年収300万円くらいの家庭の妻が北欧製の家具が好みだとして、夫に無断で北欧製の家具を500万円で購入した場合はどうでしょう?直感的にもこれは日常家事ではないと感じると思います(逆に年収が1億円ある家庭で日頃も数百万円の家具を買っているような家庭ならこれも日常家事といえることもあると思います。)。
3 相談への回答
さて,これまでの話を踏まえて、今回の相談についてはどのように回答すべきでしょうか?
裁判所においても、妻が子の教材を購入したという事案について判断が分かれていますので、実際の裁判例を見てみたいと思います。
・月収約30万円,土地建物を所有している家庭がローンで18万9,000円の学習教材を購入した行為について日常家事の範囲内であると認定しました。
・300万円の借金がある家庭がクレジットで約72万5000円の学習教材を購入した行為について日常家事の範囲外であると認定しました。なお、この事案においては、子の夫婦の教育熱はそれほどのものではなかったこと、学習教材の販売員による熱心な勧誘により買わざるを得なかったことなども認定されています。
こういった裁判所の判断を踏まえると,今回の相談の場合は,相談者の月収が約30万円であり,購入した学習教材も約20万円ということですから,おそらく日常家事の範囲にあると認められることになりそうです。
4 まとめ
上でも見てきたように、日常家事にあたるかどうかは,事案によって異なり,その家庭がお金持ちであるとか教育費にお金をかける家庭であるとかそういった事情も踏まえて判断されることになります。そのため,同種の事案を経験している弁護士でなければ,的確な判断が難しいことがありますので,同種事案について経験豊富な弁護士にご依頼するようにしてください。