「事業に失敗して借金を作ってしまいました。妻の財産に借金の追及がされないように離婚できないでしょうか。」,「妻の財産に借金の追及がされないために離婚したのに,妻が再婚してくれません。あの離婚は無効のはずです。」こういったお悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか?今回は,本当は離婚したい訳ではないのに離婚した場合,その離婚は有効なのかお話ししたいと思います。
1 離婚ってどんなときに無効になるの?
協議離婚が有効になるためには,「離婚の意思」が必要とされています。協議離婚は,離婚届が役場で受理された時点で成立するので,「離婚の意思」もその届出をした時点で必要とされています。
そして,この「離婚の意思」とは,離婚の届出をする意思を言いますので,届出の際に届出の意思さえあれば,それが便宜上のものであっても離婚は有効と判断されることになると考えられています。
2 離婚が有効とされた具体例
では,実際に離婚が裁判所において有効と判断された具体例を見て行きましょう。注意していただきたいのは,あくまでここでお話しさせて頂くのは「離婚」自体の有効性の話であることです。「離婚」自体は有効であると判断されても,その他の法令によって罰則を受けることもありますのでご注意ください。
(1) 強制執行や債権者の追及を逃れるための離婚
まず,強制執行を免れるために,債務整理の解決までということで協議離婚をした場合や債権者の追及を免れ,家産を維持するための方便として協議離婚をした場合も離婚は有効と判断されています。
このように強制執行や債権者の追及を免れるための離婚をする目的は,妻に責任追及が及ばないためや自分の財産を隠すためといったものが多いように感じます。しかし,夫の借金のために妻に責任追及がなされることは事実上あるかもしれませんが,法的に有効なものではありませんので気にする必要はありません。
また,債権者の手から自分の財産を守るため,つまり,今ある財産を債権者ではなく妻に財産分与として与えることは,財産の隠匿行為として自己破産の場合に免責を受けることが出来なくなってしまったり,「詐欺破産罪」とされて「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金」という非常に重い罰則を受けてしまうこともあります。
(2) 生活保護の受給を受けるための離婚
次に,生活保護費の支給を受ける手段として協議離婚をした場合であっても,裁判所はその協議離婚を有効と判断しています。
これは相当意外で,一見すると裁判所が不正受給を助長しているように思えるかもしれません。しかし,これは先程も申しましたように,あくまで「離婚」それ自体の有効性についてのみの結果です。
このように生活保護費を受給しようとしての「離婚」自体は有効なのですが,偽装離婚をして生活保護費の支給を受けた場合、公正証書原本不実記載罪として「5年以下の懲役また50万以下の罰金」に処せられることになる可能性がありますので注意して下さい。
もしかすると,偽装離婚をしたとしても発覚しなければ大丈夫でしょ?と考えている人もいらっしゃるかもしれません。しかし,偽装離婚を早期に発見する役割を担っているケースワーカー達が,生活保護を受けている方のお宅を突如訪問し,生活の状況をチェックします。一般にその回数は,1ヶ月~数か月に1回ということが多いようですが,不正受給が疑われる場合,頻繁に視察が行われることになるでしょう。また,ご近所からの通報等もありますので,嘘を隠し通すことは難しいでしょう。
3 離婚が無効とされた具体例
離婚意思がないと判断された例としては,①離婚届への署名を拒否した妻に対し,夫が茶碗等を手当たり次第投げつけるなどの乱暴な振舞いをしたので,妻がその場を収拾するためやむなく離婚届に署名・押印したところ,夫がそれを役場に提出し,受理されてしまった場合,②妻が離婚に同意せず「そんなもの自分で書けばいいんじゃないの」と口走って離婚届の署名押印を拒んだところ,夫が他人に妻の氏名を代書させた離婚届が受理された場合があります。
また,③夫が,離婚届作成時点では一旦離婚を承諾して署名押印したのですが,その後まもなく市職員に対し離婚届が提出された場合には止めるよう依頼しました。しかし,妻が作成から約6か月後に離婚届を提出したのでそれを知ってすぐ裁判所等に相談に行くなどをした場合でも,離婚を無効としています。
これらのように離婚届の提出時点で夫婦二人のいずれかに離婚意思がないときであれば,離婚は無効ということになるのです。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?借金で生活が苦しいであるとか,妻に迷惑がかかるのではないか,ということと離婚をすべきか否かということは別の問題です。
離婚したくて離婚する場合であればいいのですが,離婚はしたくないけど離婚した方がいいと思って離婚しようと思っている場合は,一度弁護士に相談して下さい。そもそも離婚が有効とは限りませんし,他の法律によって刑罰が科される可能性もあります。それに,同種の事案に経験豊富な弁護士に相談すれば、それまで全く気付いていなかったアドバイスを受けることもあるかもしれません。