「プロポーズされたのに,全然婚姻してくれる気配がない…。本当に婚姻する気あるのかしら?」そんな悩みをお持ちではありませんか?法律事務所では,このような優柔不断な彼氏をお持ちで悩んでいる方もいらっしゃいます。今回は,婚約者と強制的に婚姻できるかというトピックについてお話ししたいと思います。
1 事例の紹介
Aさんは,長年付き合っていたBさんと婚姻しようと思い,平成21年12月25日にプロポーズしました。Bさんは,Aさんのプロポーズを喜んで受け入れました。幸せいっぱいの二人でしたが,Aさんは仕事が忙しいと言って,平成25年になっても婚姻する気配すらありません。Bさんは,プロポーズされて婚姻の約束をしていた以上,Aさんと強制的に婚姻することができるでしょうか?何か法律を使って解決することはできないのでしょうか?
2 事例への回答
(1) 婚約の成立
婚約とは「将来婚姻しようという合意」をいいます。本件では,AさんはBさんにプロポーズをしており,Bさんもそれを受けていることから,婚約は成立しているといえます。(なお,正確に婚約が成立しているかどうかは,プロポーズの有無だけでなく,婚約指輪の授受・婚姻式場の下見・両親への挨拶・結納式の実施等,様々な事情を総合して決定します。)
(2) 法律で何かを強制するためには・・・
まず,法律で何かを強制するためには,どんな手続きを踏まなくてはならないかという点からお話し致します。日本の法律では,債務名義(権利があると裁判所等が認めたもの。例えば判決など。)に基づいて,裁判所に強制執行を申し立てることで,強制的に権利を実現するという制度になっております。つまり,「婚約が成立しているのだから,強制的に婚姻させて欲しい。」と言うためには,裁判所で「婚約が成立しているから,婚姻する権利があります。」という判決をもらわなくてはなりません。そして,これを使って,強制執行を申し立てなくてはなりません。
(3) 履行強制の可否
それでは,Bさんは,裁判所の強制執行を使って「Aさんと婚姻する権利」を強制的に実現することができるでしょうか?これを実現するために考えられる強制執行の方法とは,①直接強制,②代替執行,③間接強制の3種類があります。
ア 直接強制について
直接強制とは,債務者の意思にかかわらず,国家機関が権利を直接,強制的に実現することをいいます。たとえば,不動産を差し押さえる場合などがこれにあたります。
しかし,この方法でAさんと婚姻することはできません。婚姻して夫婦としての共同生活を営むことは,Aさんにとって重要な人格的な問題であり,国家が勝手に婚姻届を記入する訳にはいかないからです。
イ 代替執行について
代替執行とは,第三者に債権の内容を実現させて,その費用を国家機関が債務者から取り立てることをいいます。たとえば,家賃も払わずに賃貸物件に住み続けている人がいる場合に,裁判所が引越業者に家財道具の撤去をさせ,その業者費用を賃借人に請求することなどがこれにあたります。
しかし,この方法も用いることができません。婚姻は,第三者によって代わりにすることができないからです。
ウ 間接強制について
間接強制とは,判決による決定事項が実現されるまでの間,裁判所が債務者に対して一定の金銭の支払義務を課すことによって,債務者を心理的に圧迫して,間接的に権利の実現を図るものをいいます。たとえば,不法占拠している人がいつまでも家を出ていかないときに,出ていかないなら毎日1万円ずつ支払えというように義務を課して,間接的に出ていかせるという目的を達成させることなどがこれにあたります。
残念ながらこの方法も用いることができません。婚姻とはお互いの意思が合致してこそ
意味があるのに,このような方法で結ばれても実体のある婚姻生活を送ることができないからです。
3 まとめ
以上のように,現在の日本の制度では,裁判所が「婚約が成立したこと」を認めたとしても,「婚姻を強制する」方法が用意されておりません。そのため,Bさんは婚約者であるAさんと強制的に婚姻することはできないのです。婚姻とは,相互に深い情愛のもと信頼と愛情を基礎として共同生活を営むことにその本質があることからすれば,致し方ないことかもしれませんね。
もっとも,家事事件手続法244条に基づいて,家庭裁判所に対し「婚約の履行を求める調停」を申し立てることができます。これは,婚約したにも関わらず,婚姻に至らない場合,裁判所の調停委員会を間に入れて話し合いを行うものです。このように,話し合いによって解決を試みる方法は用意されています。
結局,「婚約したにも関わらず,婚姻に至らない場合」には,「強制的に結婚する」のではなく,「婚約の約束を守ってくれないことを理由として慰謝料を請求する(そのような相手と結婚することは諦める)」という方法が最も現実的な選択肢となるでしょう。慰謝料を含め,どうすればいいか判断が難しいときなどには,専門家に相談してみてもいいかもしれません。