「彼とはもう10年も付き合っているのに,全然プロポーズしてくれない…。本当に結婚する気あるのかしら?」
最近は,結婚に踏み切れない男性が多くなっているようです。こんな悩みをお持ちの方も多々いらっしゃることでしょう。今回は,こういったお悩みに関するお話をしていきたいと思います。
1 事例の紹介
私は,彼と付き合って10年になります。彼からのプロポーズはありませんが,7年前に,彼に対して「結婚してくれないなら付き合い続けるのは難しい。」と言ったところ,彼は「お前とずっと一緒にいたい。」と言ってくれたので,いずれ彼と結婚するんだろうなと思っていました。また,この話の後には,私の両親にも挨拶に来てくれました。それからも彼は,たまに将来のことを話していたので,結婚を前提に交際していると思っていました。
しかし,先日,彼から突然,好きな人ができたから別れたいと言われました。彼は,「お前との関係は,ちゃんとプロポーズもしていないんだから,婚約なんてしていない。だから慰謝料とか払う必要はない。」と言っています。
私は,彼に対して,婚約者として,法律的に何か請求することはできないでしょうか?
2 事例への回答
今回の相談者は,プロポーズをされていないため,彼の言うように婚約していないことになるのでしょうか?
(1) 婚約ってなあに?
婚約とは,将来婚姻をしようという当事者間の約束をいいます。つまり、日常的に用いている「婚約」と同じ意味と思っていただいて大丈夫です。
もっとも,婚約とは文字通り,結婚することの約束ですので,「婚約が成立しているかどうか」は「結婚の約束をしていたと言えるかどうか」を検討することとなります。したがって,プロポーズの有無だけでなく,婚約指輪の授受・婚姻式場の下見・両親への挨拶・結納式の実施等,様々な事情を総合して決定します。
(2) 本事例における婚約の成否
上でも述べたように,婚約は,将来婚姻をしようという当事者間の約束をいうため,そういった内容の合意があれば,プロポーズが無くても,婚約は成立します。
では,本事例で,そのような内容の合意が認められるでしょうか?
相談者は,彼氏からプロポーズを受けておらず,彼氏にはそもそも婚姻をする意思がないようにも思えます。
しかし,彼氏は相談者の「結婚してくれないと別れる。」との発言に対して,「ずっと一緒にいたい。」と答えており,結婚を前提の交際をして来たと言えそうです。そのうえ,相談者の両親にも挨拶に行ったうえ,継続的に将来の話までしていますので,婚約の成立が認められる余地もゼロではないと思われます。
しかし,「ずっと一緒にいたいと答えただけであって,結婚の約束などしていない。」「相談者の両親には挨拶をしたが,それは交際している彼氏として当然の行動であって,結婚とは関係がない。」「将来の話など付き合っていれば誰でもするでしょう。」と反論されれば,それも一理あります。
このように,婚約の成立は,極めて微妙な事実認定の上に成り立つものですので,100%婚約が成立していると言うためには,やはりプロポーズの事実が欲しいところです。また,「ずっと一緒にいたいという会話」「両親に挨拶へ行った際の会話」「将来の話」等は,現実的に立証が極めて困難であり,言った言わないの水掛け論になることが多いでしょう。
(3) 法的に請求できること
以上のとおり,婚約の成否は様々な事情を考慮して総合的に決めますが,話し合いで収まらない場合には,最終的に裁判で事実関係を立証する必要があります。そうなると,本事例では,ほとんど証拠がないかと思われます。
仮に各種事実が立証でき,婚約の成立が認定されたとすれば,その婚約を一方的に破棄した彼に対して,慰謝料を請求することも可能でしょう。
3 まとめ
以上のように,婚約の成否とは,極めて多数の事実関係を総合的に考慮し,それを立証する証拠を探し出す作業が必要となります。これは,過去の婚約に関する裁判例を把握しながら,裁判所がどのような証拠に基づいてどのような事実を認定し,どのような事実から婚約の成否を検討しているのかを把握していなくては,到底できない作業でしょう。(弁護士に相談をしても,弁護士によって判断が分かれるほど,微妙な事案も多数あります。)
また,場合によっては,婚約の解消に正当な理由があるのかが問題になることや,妊娠中絶についての費用分担,慰謝料の請求といった様々な法律問題が生じている可能性もあります。
そのため,正確な見通しを立てるには,多数の解決事例に基づいたノウハウが必要不可欠ですので,必ず経験豊富な専門家に相談するよう心掛けてください。