婚約をしたもののどうも姑とうまくいかない…。そんな悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか?嫁姑問題は婚姻関係を結ぶ以上,ある程度は避けられないものかもしれませんが,出来ればお互い仲良くやっていきたいものです。今回は,どうしても姑との関係が上手く行かず婚約を解消させられてしまった場合についてお話しさせて頂きます。
1 姑のせいで婚約を破棄させられたら何か請求できるの?
では,婚約が有効に成立していたとして,姑のせいで婚約解消に至ったら何か請求できるのでしょうか?
婚約も法的に有効な契約です。そして,姑はその婚約という契約の存在を知っているため,当事者の一方に不当に働きかけたり,不当な干渉をして婚約解消を促したりした場合,姑も不法行為者として損害賠償責任を負うことがあります。すなわち,場合によっては,姑や舅も婚約を解消させられた女性に対してお金を払わないといけないことがあるのです。
2 どんなときに実際に慰謝料の支払いが認められるの?
では,いったいどんな事案であれば,慰謝料の支払いが認められることになるのでしょうか?実際に請求が認められた事例と認められなかった事例を紹介したいと思います。
〈慰謝料の支払いが認められた事案〉
◆事案①
女性は男性と婚姻するために勤務先を退職し,結婚式や新居の準備などを進め,男性も家具などについて注文していました。男性の母が婚約につき強硬に反対していたため,男性が挙式の1週間前に突然,仲人を通じて何の理由も示さないで,電話で婚約を破棄する旨を伝えたという事案において,裁判所は男性とその両親に対して約400万円の慰謝料の支払えと判断しました。なお,この事案においては,男性は優柔不断であって母親の反対が無ければ婚姻していたであろうという事情も認められています。この事案においては,婚約を解消した理由として「体型が劣等」などと主張しており,解消自体が信義に反するものであることを前提として,親の影響力が子供に対して強いことが考慮されています。
◆事案②
男性は,「両親が反対しても,結婚する」などと決意を明らかにし被差別部落の女性と婚約をしていました。しかし,男性の父は,被差別部落であることを聞くや一貫して婚姻に反対し,その反対の程度は,わざわざ男性を呼び戻し,男性の母とともに,考え直すよう強く説得し,さらに,別の機会にも同様に厳しく反対しており,これによって男性が女性との婚姻を重荷に感じるようにさせました。その後も,父親に会うにつれ,女性との接触を避けるようになっていきました。このような事案において,男性の両親が自分たちの意見を伝えるというレベルを超えて干渉しているとして,男性とその両親に500万円の慰謝料を支払えと判断しました。
〈慰謝料の支払いが認められなかった事案〉
男性の母親の結婚式の打ち合わせにおける言動,男性が母親の言いなりであったこと,男性の家の家風があまりに独特であったこと等から,女性は自分の両親と相談の上,婚約の解消を申し入れました。しかし,男性の熱意にほだされ一度は翻意しましたが,女性の両親が強く反対したため,女性が男性に対し,婚約の解消を申し入れた事案です。そこで,男性が婚約を破棄した女性及びその両親に対して慰謝料を請求したものですが,裁判所は慰謝料の支払いを認めませんでした。この事案では,親の反対に理由があること,女性の対応にも誠意があることなどが考慮されています。
婚姻というのは,家と家との結びつきという側面があるものの,大人同士であれば姑などの両親の同意が無くても可能なものです。そのため,姑に対して精神的損害に対する損害賠償義務が発生するのは,その動機が部落差別や民族差別といったものである場合や方法が嘘をついて唆したりするなど公序良俗に反し,著しく不当性を帯びている場合に限られます。すなわち,ただ両親に反対されたからであるとか姑と気が合わないからといったものでは認められないのです。
4 いくらくらいの慰謝料が認められるの?
もし仮に姑の行為が不法行為であるとした場合,いったいいくらくらいの慰謝料が認められるのでしょうか?裁判所は以下の事情などを考慮して慰謝料の額を決定していますので,一応確認しておきましょう。
・第三者の働きかけの内容
・婚約破棄に至るまでの期間
・性交渉の有無,程度
・お互いの年齢差
・被害者の年齢
・同居の有無,期間
・社会的地位や資産
・婚姻の準備の程度
・妊娠・出産の有無
・退職の有無
などを考慮して裁判所は,慰謝料の額を判断しております。そのため,姑のせいで離婚した場合の相場は明確に「これだ」というものはないですが,婚約破棄をした当事者よりも低くだいたい30万円~100万円といったところになると思います。もっとも,先程の事案のように400万円や500万円の慰謝料が認められたものもあり,事案によって大きく変動するところだと思います。
5 まとめ
いかがでしたでしょうか?婚姻というのは,上でも述べましたが,成人同士であれば姑などの両親の同意が無くても可能なものです。そのため,姑の行為が不法行為になるのは極めて限定的な場合に限られます。そうである以上,いくら姑が当事者同士の婚姻に関与してきているとしても姑に責任を追及するのではなく,婚約を破棄した者に対して責任を追及することを基本とすべきでしょう。
慰謝料の額は様々な事情を考慮して判断されますので,容易に「いくらくらい認められますよ」と言えるものではありません。また,慰謝料額の判断には,専門的知識だけでなく相場観という経験が無ければ,身につかないものも影響するため,その判断は非常に難しいものです。なお,婚約破棄に正当な理由がない場合であれば慰謝料に限らず,家具や衣類の代金,退職にあたって得られなかった利益などの損害賠償なども請求できる可能性があります。
お困りの方はぜひ同種事案について経験豊富な弁護士に相談するようにしてください。