愛し合っているからといって必ずしも婚姻届を提出し,婚姻関係を法的に結ばなければならないわけではありません。愛し合っているとしても,何らかの理由で内縁の妻(夫)として,婚姻届けを提出せずに夫婦関係を維持している人もいらっしゃいます。
しかしながら,内縁関係はあくまでも法律上の制度である婚姻関係と比較すると,法的な保護が十分ではない面が見られますが,いくつかの権利と義務は夫婦と同様のものが保障されています。今回は,内縁関係があるにすぎない場合でも相続権があるのかだけでなく,内縁の夫が亡くなったときに,その財産を内縁の妻にあげることができるかについてお話ししたいと思います。
1 内縁関係に与えられる法的保護
内縁とは,婚姻届を提出していないため法律上婚姻関係にあるとは認められていないものの,婚姻意思を持って生活を営み,周りから見れば夫婦と同視できる状況にある男女関係を言います。内縁関係が認められた場合,その当事者には,単なる交際関係とは異なる法的な保護が与えられることになります。
具体的には,不当な内縁関係の破棄や不貞行為(いわゆる不倫ですね。)には慰謝料の支払い義務が発生しますし,内縁関係継続中に共同して構築した財産については財産分与が認められることになります。それでは,このような権利義務のほか内縁の妻に配偶者相続権は認められるのでしょうか?
民法は,「配偶者+子等(直系卑属),父母等(直系尊属),兄弟姉妹」を法定相続人として定めていますが,「配偶者」には,法律上の婚姻関係にある者のみが該当し,内縁の配偶者に相続権を認めるものではありません。そのため,内縁の妻は,法定相続人として相続が認められないので,内縁の夫が死亡したとしても相続によって自動的に財産を得ることはできないことになります。では,内縁の妻に財産を残すことはできないのでしょうか?
もちろんそんなことはありません。内縁の妻に財産を残すための方法として,以下で説明しますように,遺言による方法や贈与という方法がございます。
2 内縁の妻に財産をあげるために
では,内縁の夫が内縁の妻に財産をあげるためには具体的にどのような方法を用いればいいでしょうか?
(1) 遺言による方法
まず,内縁の夫が,遺産の一部又は全部及び祭祀財産を内縁の妻に遺贈するという趣旨の遺言書を作成する方法が考えられます。もっとも,法定相続人がいるかいないかによってどの程度の財産を与えることができるかが分かれてきますので,場合を分けて検討してみましょう。
ア 法定相続人がいる場合
法定相続人には,「配偶者+子等(直系卑属),父母等(直系尊属),兄弟姉妹」があたります。これらの者がいる場合,遺言が無ければ,これらの法定相続人が財産を相続することになりますので,内縁の妻は遺言なくして財産を取得することができません。
もっとも,遺言を作成している場合であっても,内縁の妻が全財産を取得できるとは限りません。遺留分というものがあるからです。遺留分とは,被相続人が財産を処分したとしても奪われることのない相続財産の一定割合を言います。
例をあげてみたいと思います。父,母,長男,長女の4人家族がいるとします。ある日,父が「長男に全財産を相続させる」という遺言を残して死亡したときであっても,母と長女は一定の財産を受け取ることができます。これを遺留分と言うのです。
そのため,たとえ亡くなった本人が「全財産を内縁の妻に相続させる」と遺言していたとしても,亡くなった人に子や配偶者などがいる場合,相続財産を受け取ることを請求する事ができます。なお,兄弟姉妹しかいない場合,このような制度はありませんので,内縁の妻に全財産を遺贈するとの遺言が存在していれば,全財産を内縁の妻に遺贈することが可能となります。
イ 法定相続人がいない場合
法定相続人がいない場合,遺言など何もしていなければ相続財産は国庫に帰属するのが原則となります。しかし,内縁の妻に全財産を譲り渡す旨の遺言書が作成していれば,内縁の妻に全財産を遺贈させることができます。
(2) 生前贈与・死因贈与
内縁の夫が内縁の妻に対し,贈与によって財産の全部又は一部を移転する方法もあります。被相続人が生前に内縁の妻に対する贈与を行った場合はもちろん,被相続人の死亡により効力が発生する贈与契約(死因贈与)が締結されていた場合も財産が承継されることになります。
なお,明示的に書面などで贈与契約がなされていない場合でも,履行が終了していることなどが認定できれば,贈与の取消が認められないこともありますが,書面によらない贈与は取り消すことができますので,やはり書面として残しておくべきでしょう。
これらの贈与については,相続人に対する生前贈与と異なり,相続開始から1年以上前の贈与であれば,遺留分減殺の対象とならない可能性もあります。
3 内縁の夫が何も対策をしていないときには財産をもらえないの?
内縁の夫が財産をあげるためにとる方法としてはこの2つが考えられますが,仮にこのような方法をとっていないときであっても,内縁の妻に財産の所有権が認められることがありますのでご紹介させて頂きます。
(1) 特別縁故者への財産分与
内縁の妻は法定相続人とはなることができませんが,内縁の夫に法定相続人となるべき者がいない場合,遺言や贈与と言った方法をとっていないとしても,家庭裁判所に申し立てをすることによって「特別の縁故があった者」として内縁の妻が相続財産の全部又は一部を取得することができるときもあります。ただし,特別縁故者として遺産を取得するには,相続財産管理人を家庭裁判所に選任してもらうなど,相当に煩雑な手続きが必要となりますし,手続完了までに相当の時間(1年など)を要する場合が多いため,あまりお勧めできません。
(2) 共有
また,遺言や贈与といった方法をとらなかったために,,子や配偶者などの相続人から内縁の夫の財産であると主張されている場合であっても,当該財産は内縁夫婦の協力によって築かれた財産であるとして解決することも考えられます。共同経営の実体があったり,費用負担をしている事実があったりすれば,共有持分が認めることになるでしょう。
しかし,内縁の妻が高齢・病弱であるなどして財産形成に貢献していない場合,この構成を採用しても保護することが難しいと言わざるを得ません。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は,内縁の夫の財産を内縁の妻にあげるための方法などについてお話しさせて頂きました。
もっとも,,内縁の配偶者に相続人がいる場合,,贈与を取り消されたり,,遺留分減殺請求をされたりする可能性があります。そのため,,配偶者の方の将来の生活にもかかわってきますので,,経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。
また,適切な対策を講じるためには,生前贈与と遺言書を上手く組み合わせて行わなくてはなりませんが,その場合には贈与税の問題が発生します。そのため,税務に強い弁護士に相談されることが最善の方法でしょう。