夫が逮捕されました!今後の手続きはどうなるの?
【Aさんの相談】
先程,突然警察から,「旦那さんを傷害罪で逮捕しました。今から警察署で調べがあるので今日はご自宅には帰れません。」との連絡が入りました。私は,突然の逮捕の連絡にパニックになり,とりあえず「主人に会わせてください。」と頼みましたが,警察の方から,「接見禁止処分が付いているから今はご家族の方も会えません。連絡を取りたいなら弁護士さんを通されてください。」と言われました。親族なのに,事件の詳細も主人がいつ戻ってくるのかも全く教えてもらえず,勤務先にもどのように説明したらいいのか不安でいっぱいです。仮に弁護士さんを頼むとしても,費用がどのくらいかかるのか,また,国選弁護人や私選弁護人といった制度の違いもよく全く分かりません。
今後についてはどう対応すればいいのでしょうか。
今回は,Aさんのように,身近な人が突然刑事事件に巻き込まれた場合に,残された親族はどのように対応すればいいのか,刑事事件の流れと共にご説明していきたいと思います。
1 逮捕→勾留→起訴の流れ
逮捕後の捜査状況については,たとえ親族の方であっても捜査秘密ですので詳しい事情を教えてもらえないのが普通です。そのため,どのように手続が進んでいるのか,目に見えなくて余計に不安になることもありますが,逮捕後の手続きの流れやスケジュールについては,法律で厳格に決まっています。逮捕後の大まかな流れとしては,①逮捕→②勾留→③起訴(又は不起訴)の流れで進んでいきます。
⑴ 逮捕~勾留まで
逮捕は,短期間の身柄拘束のことで,その時間は最大でも72時間(3日間)に限られています。捜査機関は,逮捕後72時間の間に急ピッチで取り調べを進め,その人を釈放するか,引き続き捜査を続けるか判断します。
そして,捜査機関側でさらに取り調べに時間を要すると判断した場合には,検察官が裁判所に勾留請求を行い,裁判所が勾留を認めた場合には,追加で10日間身柄を拘束されることになります。この10日間は,原則的な勾留期間の長さであり,10日間で足りない場合には,さらに10日以内の範囲で勾留期間を延長できるとされています。
そのため,逮捕後最長で20日間勾留される可能性があります。(なお,内乱,外患,外交,騒擾等の重大犯罪については最大25日の勾留が可能とされています。)一般論にはなりますが,大抵の案件では勾留延長がなされる場合が多く,事実上,20日間勾留の事案が多いように思われます。
そして,検察官はこの勾留期間が満了するまでに,本人を起訴するか不起訴にするかを決め,不起訴にする場合は,勾留期間満了後は釈放されます。
⑵ 起訴後の手続
起訴された場合,通常は1~2ヶ月後に第1回公判期日が指定されます。事件の内容が複雑でなければ(簡易な事案で,被告人が犯した犯罪事実を全て認めているような場合),審理は1回のみで終わり,次回判決となることも多いです。(なお,1回目で判決まで行く場合もあります。)他方で,事件が複雑で,証拠調べに時間がかかる場合には,複数回にわたって裁判期日が開かれます。
裁判中の身柄拘束については,起訴前から勾留されている場合は,起訴後も勾留の効力は自動的に継続するため,保釈請求等により釈放されない限り,裁判が終わるまで勾留が続きます。
⑶ 本件のAさんの場合
以上の通りですので,Aさんの場合も,逮捕後最大23日間(72時間+勾留10日+勾留延長10日)身柄を拘束され,それまで家に帰って来れない可能性があります。また,起訴された場合には裁判が終わるまで帰って来れない可能性もあります。
ただ,最終的にどの程度勾留が続くのか,起訴されるのか,いつ釈放されるのかは,事案によって異なりますので,見通しが不透明です。このような状況で逮捕されたことを勤務先に伝えると,懲戒解雇扱いにされる会社もありますので,ご注意ください。
そのため,勤務先等に対しては,「体調不良で入院している」等,長期間の不在でも不自然に思われないような理由づけをして説明をしておいた方がいいでしょう。
2 弁護士は頼むべき?
刑事事件は,身体拘束が長期化すれば,社会生活上の不利益も大きく,処分の内容も今後の人生を左右する重大事ですので,どのような事件であっても弁護士はつけておくべきでしょう。しかし,弁護士を頼むとなると,まず気になるのは費用の点だと思います。
しかし,資力がない方でも弁護人は選任できます。現行の刑事訴訟制度では,本人に資力がない場合が(目安としては,月収が50万円未満とされています),国の費用で弁護人を選任できるという国選弁護人制度を設けているからです。国選弁護人制度を利用するには,一定の要件があり,起訴前の場合は,対象となる事件が限られており,一定の重大犯罪(死刑・無期・長期3年を超える懲役又は禁固の罪)の場合に限られています。他方で,起訴後に関しては,事件の内容を問わず,資力がない場合は,選任請求すれば国選弁護人が選任されます。なお,弁護人は名簿に従って裁判所が選任するため,本人や親族の側で選ぶことはできません。
3 国選弁護人と私選弁護人,どちらに頼むべき?
国選対象事件じゃない場合などで,国選弁護人を利用できない場合や,個人的に信頼している知り合いの弁護士に弁護人になってもらいたいとき等には,私選弁護人の選任を検討します。私選弁護人の場合,国選弁護人と異なり,本人や親族で弁護人を探してきて,個別に委任契約を締結することになります。この場合,費用は各弁護士事務所の基準によります。
なお,国選の場合は一般的に私選よりも報酬が安いことが多く,あまり能動的に動いてくれない弁護士も多いと言われています。そのため,国選弁護人を利用できる場合でも,あえて私選弁護人を選任するというケースもあります。なお,私選弁護人が選任された場合,国選弁護人は選任されることはありません。既に国選弁護人がついていた場合は,解任され,私選弁護人のみになります。
しかし,国選弁護人でも本当に一生懸命弁護活動を行ってくれる弁護士も多数いますので,国選弁護人だからという一事をもって判断されるのは避け,弁護人としっかり話して方針を検討されてください。
4 勾留前に弁護人を
被疑者段階での国選弁護人は,勾留されないと選任されないことになっています。そのため,逮捕段階では弁護人が付いていないケースが大多数です。この段階でも,早急に手を打てば,本来行われるはずの勾留を避け,在宅事件として釈放してもらえる可能性もありますので,早急に弁護人を依頼されることをお勧め致します。
5 最後に
以上の通り,逮捕された場合は,事案の内容にもよりますが,ある程度長期間の身体拘束も覚悟する必要があり,忍耐強く対応していく必要があります。刑事事件は,捜査機関という強大な国家権力を相手に,被疑者という弱い立場で取り調べを受けざるを得ず,捜査状況も外部からは見えないため,本人も親族も心身共に疲弊していくことが多いです。身近な人が刑事事件に巻き込まれた際は,1人で抱え込まず,まずは親身に相談に乗ってくれる弁護士にすぐに相談に行きましょう。