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未払賃金立替払制度とは?

未払賃金立替払制度とは?

【Aさんの相談】
 本日,勤務先から,「経営状況が悪いから会社を閉めることにした。今日付けで破産申立てを行ったので,申し訳ないが従業員の皆も今日付けで解雇せざるをえない。」と言われ,突然解雇されました。まだ今月分の給料も貰っておらず,退職金も支払われるのか不安です。社長に確認したところ,「未払賃金立替払制度があるからきちんと支払いはできる」と言われました。この未払賃金立替払制度とは何なのでしょうか。また,賃金や退職金は全額支払ってもらえるのでしょうか。

1 未払賃金立替払制度とは

 会社などが倒産した場合,その会社の労働者は,給料などを支払ってもらえなくなる可能性があります。しかし,賃金は労働者にとって重要な収入源ですので,これが全く支払われないとなると,労働者は当面の生活が脅かされることになります。そこで,労働者を救済するための公的制度として未払賃金立替払制度が設けられています。
この制度は,使用者である事業主が倒産したために,賃金が支払われないまま労働者が退職を余儀なくされた場合に,独立行政法人(労働者健康安全機構)が当該事業主に代わって,賃金の一部を労働者に支払うという公的制度です。

2 どんな場合に未払賃金立替払制度が利用できるの?

未払賃金立替制度は,どのような場合でも利用できるというわけではなく,使用者及び労働者において以下の要件を満たす必要があります。
【使用者側の要件】
①使用者が1年以上事業活動を行っていたこと
 *使用者は法人でも個人でも構いませんが,事業を開始してから1年以上経っている必要があります。よって,設立や開業直後に破産する場合には適用対象外となります。
 ②a)使用者が法的倒産手続を受けたこと
(法的倒産手続…破産,特別清算,民事再生,会社更生のこと)
 または
  b)事実上の倒産のうち労働基準監督署長の認定を受けたこと
(事業活動が停止し,再開の見込みがなく,賃金支払能力がないことについて労働基準監督署長により認定を得ることが必要です。)
【労働者側の要件】
①賃金の未払期間中に,当該使用者に雇用され,労働基準法上の労働者として勤務していた者であること
②使用者が法的倒産手続の申立て,または,事実上の倒産について労働基準監督署長の認定の申請を行った日の6か月前の日から起算して2年間以内に退職した者であること

以上の要件を満たす必要があります。

3 全部は立替えてもらえない?

立替払制度が利用できたとしても,全ての未払いの労働債権について立替払いを受けられるわけではありません。立替えの対象となる賃金の対象は限定されており,また,金額についても制限があります。立替えてもらえる賃金は以下の通りです。

①対象となる労働債権は未払いの定期賃金と退職金のみ(以下,「賃金等」といいます)
⇒解雇予告手当や賞与・ボーナス,社内預金,福利厚生として支払われる給付,通勤手当等の実費,未払賃金に対する遅延損害金は含まれていません。

②賃金等のうち,従業員の退職日の6か月前から立替払請求日までの間に支払期日が到来するもので,金額が2万円以上であること

③立替えを受けられるのは,原則として未払額の8割!
※未払分全額を支払ってもらえるわけではありませんので注意が必要です。
 また,退職日時点の年齢に応じて,立替払いの上限金額は以下の通り決まっています。

退職時の年齢 未払賃金の上限額(A) 立替払額の上限額(A×0.8)
45歳以上 370万円 296万円
30歳以上45歳未満 220万円 176万円
30歳未満 110万円 88万円

4 請求から支払いまでの手続

事業主,労働者が上記の要件を満たし,労働者健康安全機構に対して立替払いの請求をした場合には制度を利用することができます。なお,請求は,法的倒産手続開始決定又は労働基準監督署長による事実上の破産についての認定がなされた日の翌日から2年以内にする必要があります。

請求書の書式は,労働者健康安全機構において用意されているのを使用しますが,インターネットでダウンロードできます。請求書に必要事項を記載して機構に提出しますが,提出の際には証明書の添付が必要です。破産手続であれば,破産管財人の証明が必要となります。証明を受けるためには,破産申立書や賃金台帳等の資料の提出が必要となるため,通常は,事業主側でこれらを用意する形になります。なお,請求は,労働者側からも使用者側からでも可能です。
未払い賃金立替払請求書と証明書を労働者健康安全機構に提出し,同機構において審査が行われます。その審査に通れば,未払い賃金が支払われることになります。

5 まとめ

 以上の通り,会社が倒産しても,一定の場合には未払賃金立替払制度により未払い額の8割を上限に支払を受けることができますので,従業員の皆さんは積極的にこの制度を活用しましょう。もっとも,適用を受けるためには,様々な要件を満たす必要があるので,自身が適用対象となるかについては破産手続に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

また,請求する場合には,様々な書類を収集しなければならず,手続は複雑ですので,実際の請求手続は弁護士に依頼された方が良いでしょう。