夫に騙されて離婚してしまった…。そんな離婚も有効なの?
「私Aは,夫Bから,『借金の返済を滞らせている。このままでは家族に迷惑をかけるので,一時的に離婚してほしい』と頼まれ,仕方なく離婚届を書きました。1年経っても連絡がないため,夫Bの会社に電話すると離婚する前から夫Bは別の女性Cと婚姻しようとしており,実際に離婚後すぐに婚姻したとのことです。今からでも離婚を取り消すことはできないでしょうか?」こんなことをされたら絶対に許せないでしょう。今回は,夫に騙されて離婚してしまった場合に離婚を取り消すことはできるかについてお話ししたいと思います。
1 詐欺による離婚は有効か?
詐欺又は強迫によって協議離婚をした人は,その離婚の取消を裁判所に請求することができます。これは,離婚の協議は,当事者の自由な意思に基づいて成立するものであるはずですのに,詐欺などにより騙された人は自由な意思に基づいて判断できていないからです。
この場合,前でも述べたように離婚の取消を裁判所に請求しないといけません。当事者間で話し合いをして市役所等に離婚を取り消してくださいというような他の方法ではいけないのです。妻Aは夫Bに騙されていたとはいえ,,一度は合意のもとに離婚届を出していますから,,戸籍上離婚は有効となっているためです。なお,借金があることが真実で単なる借金逃れのために離婚した場合であれば離婚は有効です。今回のケースでは,Bは,本当はAと離婚してCと婚姻する意思であり,Aと再び婚姻する意思はないのに,あたかも借金逃れのための一時的な離婚であるかのように装って離婚していることから詐欺と判断されたことに注意して下さい。
2 離婚取消の方法
「裁判所に請求できる」とはいっても,裁判所に対してどのように請求すればいいかは分からないと思いますので,,今から裁判所に請求して離婚を取り消す方法をご説明したいと思います。
協議離婚の取消しは,人事に関する訴訟事件として,調停前置主義というものの適用を受けています。調停前置主義とは,人事に関する紛争は,その性質上,話し合いで終結させることが望まれるため,可能な限りは調停で結論を出すべきだという観点から,必ず1度は調停手続を経なければならないとすることをいいます。
そのため,離婚の取消しの主張をする人は,いきなり訴えを提起するのではなく,,まずは,家庭裁判所に対して,離婚取消しの調停を申し立てる必要があります。なお,離婚の取消しの主張は,詐欺又は強迫を受けた人だけで,相手方となるのは,その配偶者だけですので,,当事者の父母が離婚の取消しを請求するということはできません(相手方が死亡した場合には,検察官に対して訴えを提起することができます。)。
また,この取消しの主張は,詐欺又は強迫を受けた当事者が,詐欺を発見し若しくは強迫を免れた後3か月を経過したときや「離婚をしたということでいいですよ」というように離婚があったことを追認したときには,できなくなってしまうので注意が必要になります。
3 夫がすでに別の女性と結婚していたことはどうなるのか?
もっとも,夫Bはすでにほかの女性Cと婚姻していましたが,この結婚はさきほどのAとBの離婚との関係はどうなるのでしょうか?関係が複雑で分かりにくいと思いますので,,図を書いて説明することにします。
前でも述べたように,,①BがAを騙した後にBとCは婚姻しています。しかし,これは詐欺に基づくものであるため,②AとBとの離婚は家庭裁判所に請求することで取り消せますので,Aの離婚取消しの請求が認められることになるでしょう。取消が認められるとその行為の時点に遡って行為が無効となりますので,③AとBとの離婚は初めからなかったことになりますから,BとCが婚姻するときもAとBとの婚姻は継続していたことになります。
そのため,④BとCとの婚姻は,AとBとの婚姻関係中になされたものであり,BとCとの婚姻は家庭裁判所に請求することで取消すことができます。なお,Bのように配偶者がいるのに別の異性と婚姻した場合のことを重婚といい,刑法上の犯罪にもされています。
4 まとめ
以上のように, Aとしては①Bとの離婚を取り消すことが可能です。選択肢としてはそれだけにとどまらず,②Bとの離婚を取り消した上で,再度Bが先ほど述べたような詐欺行為を行ったことを踏まえての離婚条件を協議することも可能です。この方法を選択する場合ですと,離婚条件の中に詐欺行為を行ったことについての慰謝料を請求することになります。
さらに,Aは③B及びCに対して損害賠償請求をしていくことも可能です。これらのうちいずれの選択をするかは最終的にあなたが決めることになりますが,事案を踏まえた上でどの主張をすべきかを判断するに当たっては,法的な知識だけでなく豊富な経験が必要不可欠になってきます。そのため,このような事案でお困りの際には,離婚事件について豊富な経験を有する弁護士に相談するようにしましょう。