裁判所から破産手続開始決定が送られてきた!どうすればいいの?
◆債権者Aさんの相談
売掛先B社から売掛金の入金がなく,連絡しても連絡がつかない状態が続いていました。このまま逃げられるのではないかと心配していたところ,突然,裁判所からB社の破産手続開始決定と,債権届出書が送付されてきました。この場合,どのように対応すればいいのでしょうか。また,債権届出書を出さずに放置していた場合,何か不利益はあるのでしょうか。
今回は,裁判所から破産手続開始決定と債権届出書が送付されてきた場合,債権者としてどのように対応したらいいかについてご説明したいと思います。
1 債権の届出はしなければならないの?
破産法は,破産債権の行使について,「この法律(破産法)に特別の定めがある場合を除き,破産手続によらなければ,行使することができない。」と定めており(破産法100条1項),各債権者が個別に弁済を受けたり,訴訟や強制執行を通じて債権回収することを禁止しています。ここでいう,破産手続による権利行使というのは,具体的には,破産債権を裁判所に届け出て,裁判所で行う破産手続の中で,認められた額を回収していくという方法になります。破産法は,この手続以外による債権回収を認めていないため,裁判所に破産債権の届出をしなかった場合,債権を回収することはできなくなります。
今回,Aさんは,裁判所から破産手続開始決定と共に債権届出書の送付を受けていますが,これが破産債権の届出用紙となりますので,破産手続に参加し,債権回収を考えている債権者の方は,これを記載して裁判所に返送しなければなりません。
2 債権届出期間を経過してしまった場合
債権の届出期間については,裁判所が破産手続開始決定と同時に決定し,その期間は破産手続開始決定後2週間以上4カ月以内の範囲で定められます。債権者は,原則として裁判所が決めた届出期間内に債権届を返送しなければならず,届出債権については,破産管財人が債権額や債権内容を調査します。
それでは,届出期間を経過してしまった場合,一切届出は認められないのでしょうか。 これについては,管財人による届出債権の調査期間が終了する前の時点であれば,債権届出期間経過であっても届出は可能です。他方で,調査期間経過後の届出の場合は,届出が調査期間経過後になってしまったことについて,債権者の責めに帰さない事由に基づくものである場合に限り,届出が認められます。但し,その場合の届出は,債権届出ができなかった事由の消滅後1カ月以内にする必要があります。
3 債権届出書に記載する内容
債権届出書には,以下の①~⑤の内容を記載しなければなりません(破産法111条)。また,別除権者(抵当権者,質権者,特別先取特権者等,破産手続によらずに権利行使ができる債権者)は,これに加えて⑥⑦の内容を記載して届出なければなりません。
①各破産債権の額及び原因
②優先的破産債権であるときは,その旨
③劣後的破産債権又は約定劣後破産債権であるときは,その旨
④自己に対する配当額の合計額が最高裁判所規則で定める額(1000円)に満たない場合においても配当金を受領する意思があるときは,その旨
⑤前各号に掲げるもののほか,最高裁判所規則で定める事項(※)
(※)最高裁判所規則で定める事項は以下の通りです(破産規則32条2項)。
i) 破産債権者及び代理人の氏名又は名称及び住所
ii) 破産手続及び免責手続において書面を送付する方法によってする通知又は期日の呼出しを受けるべき場所(日本国内に限る。)
iii) 執行力ある債務名義又は終局判決のある破産債権であるときは,その旨
iv) 破産債権に関し破産手続開始当時訴訟が係属するときは,その訴訟が係属する裁判所,当事者の氏名又は名称及び事件の表示
v) 破産債権者の郵便番号,電話番号,FAX番号,その他破産手続に関する通知を受けるために必要な事項として裁判所が定めるもの
(⑥別除権の目的である財産)
(⑦別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額)
4 届出の方法
届出は,債権届出期間内に債権届出書を返送する方法で行いますが,その際には,届出書だけでなく,届出債権の証拠書類(例えば,契約書や請求書等)の写しを添付する必要があります。また,破産債権が執行力ある債務名義である場合や,終局判決のあるものであるときは,執行力ある債務名義の写し又は判決書の写しの送付も必要です。
なお,代理人による届出の場合は,代理権を証する書面の提出も必要です。
5 破産手続開始決定のみで債権届出書が送付されなかった場合
今回の事例では,裁判所から,破産手続開始決定通知書と共に債権届出書が送付されていますが,債権届出書は必ずしも送付されるわけではなく,破産手続開始決定通知書だけが送付されるケースもあります。これは,配当の引き当てになる財産がほとんど存在せず,債権調査を行っても無意味になってしまうケースです。この場合は,債権届出を行う必要がないため,債権届出期間も定められず,債権届出書の送付もされません(調査留保型と呼ばれます。)
6 まとめ
以上の通り,配当が見込まれるケースの場合には,裁判所から債権者に対して債権届出書が送付され,債権者は,所定の期間内に所定の内容を記載した届出書を提出しなければなりません。債権届出には,債権額だけでなく,債権の発生原因や優先順位等,諸々の事項を記載しなければなりません。これらの記載事項については,法律の専門家でなければ判断がつかない場合も多いため,破産の通知を受け取った債権者の方は,破産に詳しい専門家にご相談されることをお勧めします。