過払い金ってなぁに?
<相談内容>
最近よくテレビで「過払い金を取り戻せる!」「借金を長年返済している人は過払い金があるかもしれないのでぜひ相談を!」というCMを目にすることも多いですが,そもそも過払い金って何なの?って思われている方も多いと思います。そこで,今回は,過払い金について福岡の弁護士がお話ししたいと思います。
1 過払い金とは
借金をする際,個人間や親族間の借入れでない限り,元本をそのまま返済するだけでなく,弁済期までの利息や,弁済期経過後の遅延損害金を付して返済する内容で契約することが多いと思います。この利息や遅延損害金の利率(以下,両者をあわせて「利息等」と言います)については,利息制限法と言う法律が上限利率を定めており,これを超える利息等の契約は無効となります。そのため,借主がこの利息制限法の上限利率を超えた利息等を返済していた場合,当該返済部分は「払い過ぎたお金」として貸主に対し不当利得返還請求ができます。この払い過ぎたお金がつまり「過払金」と呼ばれるものです。なお,利息制限法の上限利率は以下の通りです。
◆利息制限法の上限利率の定め(同法第1条,第4条)
元本10万円未満 | 元本10万円以上100万円未満 |
元本100万円以上 |
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利息 | 20% | 18% | 15% |
遅延損害金 | 29.2% | 26.28% | 21.9% |
※遅延損害金の上限利率は,利息の上限利率の1.46倍を超えることはできないため(利息制限法4条1項),上記の利率になります。
2 どうして利息制限法を超えた貸付がなされていたのか?
過払い金は,上述の通り,利息制限法違反の利率で貸付がなされていた場合に問題になるものですので,法定金利を守っていたら過払い金問題は生じません。それでは,どうして利息制限法の上限利率違反の貸付が横行していたのでしょうか。
これは,簡単に言うと,現在では既に改正されて存在しない条文になりますが,昔は貸金業法43条1項によって,利息制限法の上限利率を超えて借主が任意に利息を返済した場合,その返済は有効とするという趣旨の条文(一般的に「みなし弁済規定」と呼ばれるものです。)が規定されていたからです。
利息制限法の上限利率違反については,当該利息等の定めが無効になるだけで,刑事罰や行政処分が予定されているわけではないため,利息制限法違反の貸付も横行していたのです。なお,一定の利率を超えた貸付については,出資法という法律によって刑事罰が科されていましたが,その利率は昔は109.5%であり,利息制限法の利率よりもはるかに高かったため,利息制限法以上,出資法未満の利率での範囲で貸付が横行していたわけです(この,利息制限法の上限利率と出資法における刑事罰対象となる上限利率の間にズレがあり,この間の金利で貸付が横行していた問題のことを,グレーゾーン金利問題と呼ぶこともあります。)
しかし,不況に伴う多重債務問題の深刻化や,闇金被害が社会問題化したことを背景に,最高裁が消費者保護の見地から,みなし弁済規定について厳格に判断する立場を採ったため,過払い金返還を認める判例が続出し,それに伴い各種法令が改正されました。なお,現在では,貸金業者の貸付に関し,刑事罰対象となる金利は20%に引き下げられており,グレーゾーン問題については解消されています。
3 過払い金はどうやって取り戻すの?
過払い金返還手続の流れとしては,まずはこれまでの借入れや返済についての取引内容を確認し,利息制限法所定の上限利率による引き直し計算を行います。その結果,過払い金が発生する場合には,借入先との間で返還に応じてもらうよう交渉を行い,交渉がまとまらない場合には訴訟を提起して争うことになります。
4 こんな場合でも請求できるの?
多重債務問題でお悩みの方は,そもそもどこにいくら借りているかも分からず,過払い金があるのかが分からないという方も多いと思います。また,もしかしたら過払い金が発生していたのかもしれないが,既に借金は完済してしまったという方もいらっしゃると思います。そこで,上記の場合,返還請求ができるのかについてお話ししたいと思います。
⑴ 資料がなく,どこにどのくらい借りて返したか分からない場合
借主側で,どこにどのくらい借りたのかについて覚えておらず,資料も残っていなかったとしても,返還請求はなし得ます。貸金業者は,貸付や返済についての取引履歴について,借主に対して開示すべき義務を負っており(貸金業19条の2),帳簿の保存義務も負っているため(貸金業法19条),借主側で借金の詳細を把握していない場合は,まずは貸主に対して取引履歴を開示してもらい,過払い金が発生するかについて計算することが可能です。
⑵ 完済している場合
既に借金を完済していたとしても,過払い金返還請求権が時効にかかっていなければ,過払い金の返還を請求することは可能です。過払い金返還請求権の時効は10年ですが,この起算点は最終の取引完了日であり,借入日ではありません。
5 まとめ
以上のとおり,過払い金は,利息制限法で定める上限利率に違反してなされた貸付であり,その返還を求めることは権利として認められるものです。借りたお金を返すのは当然ですが,法律で定められた利率を超えての返済義務はありません。過払い金がどれくらい発生しているかについては,利息制限法の利率による引き直し計算が必要となり,具体的な返還手続きについては,各債権者との交渉や訴訟が必要になるため,借金問題でお悩みの方は,一度専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。