弁護士コラム

2018.01.24

破産手続でいう免責制度ってなあに?

1 免責制度とは

免責制度とは,債務者の経済的更生を支援するために,債務の返済責任を免除する制度です。破産手続を通じて配当を行ってもなお債務が残る場合,その債務を返済しなければならないとなると,破産手続後も債務の返済に追われ,債務者の経済的自立が妨げられてしまいます。そこで,破産法は,破産手続終了後になお残った債務については,一定の場合を除き,原則として免責することを認めています。なお,免責制度があるのは個人の債務者のみです。法人の場合は,破産手続の終結により法人格を失うため,免責による経済的更生を認める必要がないからです。
一般的に,自己破産すると借金が消えるというイメージだと思います。これは,破産手続きによって消える訳ではなく,免責されて消えるので,この点を十分に理解されておいてください。

2 申立て手続

 免責手続は,破産手続とは別の手続であるため,別途免責を求める申立てをする必要があります。ただ,個人破産の場合は免責獲得目的で破産をする場合がほとんどなので,現行の制度では,個人破産の場合は,破産申立てと同時に免責申立てがなされたものとみなすという運用をしています(申立書の雛形に免責申立ての記載があり,印紙代も免責申立分を含んだ金額である1500円を納めるのが通常です)。ですので,債務者が免責されることを潔しとせず,反対の意思を有している時は,免責申立てをしないことを破産手続申立て時に表示する必要があります。なお,免責申立ては,破産手続申立てと同時ではなく,追って申立てをすることも可能ですが,破産手続開始決定が確定してから1か月を経過する日までの間に申立てをする必要があります。

3 免責不許可事由とその調査

 免責により,債務者の経済的更生が図られる一方,債権者の財産権は大きく害されることになるため,免責は,全ての債務者に認められるわけではなく,誠実な債務者にのみ認められます。そこで,破産法は,一定の場合を免責不許可事由として定め,破産管財人は,免責を求める債務者に,免責不許可事由に該当する事情がないかについて調査を行い,その調査結果に基づき裁判所が免責決定を出すかどうかを判断します。なお,同時廃止事件の場合は,管財人の選任はないため,免責不許可事由の判断は,事実上本人が申述した内容に基づいて裁判所が判断することになります。
個々の免責不許可事由としてどのようなものがあるかについては,別の記事で詳述しますが,仮に免責不許可事由に該当しても,裁量免責という制度があり,裁判所の裁量で免責が認められることもあります。
もちろん,免責不許可事由があれば形式的には免責されない可能性がありますが,裁判所もそれほど形式的ではありません。免責させなくては経済的に立ち直れない人に対して,免責不許可事由があるからといって免責させなければ,その人は立ち直ることができないまま放り出されてしまいます。そのため,余程悪質なケースでなくては,裁判所は裁量免責で免責を認めてくれるケースが多い印象です。

4 免責債権と非免責債権

免責許可決定を受けると,全ての債務が消えると思っている人もいますが,免責によって消える債務と消えない債務があるので注意が必要です。
免責許可決定を受けても消えない債務を,非免責債権と呼びますが,破産法では,以下の債務を非免責債権として規定しています。

①租税債務の一部

破産手続開始前の原因に基づいて発生した租税債務のうち,破産手続開始当時に①納期限が未到来のものと,②納期限が一年以内のものについては,免責許可を受けても消えません。

②破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償債務

 不法行為に基づく損害賠償債務のうち債務者の単なる故意(損害の発生について認識していた場合)に基づくものではなく,積極的な害意をもって行った不法行為に基づく損害賠償債務は免責許可を受けても消えません。このような債務が破産免責によって消えてしまうと,社会の法秩序は成り立ちません。

③故意又は重過失による不法行為のうち,他人の生命又は身体を害する不法行為に基づく不法行為に基づく損害賠償債務のうち,故意又は重過失(故意に匹敵するような重い過失)により生じたもので,それが相手の生命・身体という重大な権利を害している場合には,損害賠償債務は消えません。

④親族の扶養義務等
 婚姻費用分担義務や養育費支払義務等,親族間の扶養義務に基づく債務は消えません。

⑤労働債権等
個人使用者に雇われている使用人の賃金請求権や退職金の請求権等の労働債権は消えません。また,使用人からお金を預かっていた場合は,使用人に対する預り金返還債務も消えません。

⑥破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった債務
 破産者が債務があることを知りながら裁判所に申述しなかった債務については,債権者が免責に対して意見を申述する機会が事実上奪われてしまうため,債権者保護の権利から原則として消えません。但し,債権者が破産手続開始決定を知っていた場合は,債権者に申述機会があるため,この場合は非免責債権には当たりません。

⑦罰金等の債務
 罰金,加療,刑事訴訟費用追徴金及び過料等は消えません。

5 保証人等に対する免責の効果

  免責許可の決定は,破産者に対してのみ及びます。そのため,債権者は,破産者の保証人や連帯債務者,物上保証人等に対して従前通り請求できます。

6 まとめ

  以上の通り,破産法は,免責制度を設け,債務者の経済的更生を支援しています。破産でお悩みの方の中には,「破産して債務を消すなんてお世話になっている債権者に申し訳ない。」と言って,破産手続の利用を躊躇される方もいますが,上記の通り,免責は誠実な債務者のみに法が認めた制度であり,免責されるかどうかについては裁判所による審査の上で決定される事柄ですので,何ら躊躇する必要はありません。どうしても免責を避けたいのであれば,免責の申立てを希望しない形で申立てることも可能です。
  また,免責を希望して破産をお考えの方については,それが本当に消える債務なのかどうかについてはしっかりとした確認が必要です。債務のほとんどが税金等の非免責債権の場合は,免責されず,破産申立てをする意味がありません。
  破産による免責についてお悩みの方は,一度破産手続に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

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