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離婚した夫が破産しました。財産分与や慰謝料、養育費の支払いはどうなるのでしょうか。

【Aさんのご相談】

夫が浮気をしたため、夫とは離婚することにしました。離婚協議の結果、養育費として月3万円、財産分与として400万円、不貞の慰謝料として100万円を支払ってもらうことで合意し、そのうち財産分与については300万円を離婚時、残りの分と慰謝料を毎月合計10万ずつ(財産分与5万、慰謝料5万)分割で払ってもらうことになりました。
しかし、離婚後まもなく夫は破産し、先日、免責決定が出ました。免責決定を受けても、養育費や慰謝料、財産分与については支払いを続けてもらえるのでしょうか。また、既に財産分与としてもらった300万円については、破産直前に譲り受けた財産として否認されてしまうのでしょうか。

離婚に伴い、養育費、財産分与、慰謝料等について取り決めをした後に、支払義務者が破産してしまうといったケースはよく見られます。そこで、今回は、離婚に伴う各種請求権が、破産手続上どのように扱われるかについてご説明したいと思います。

 

1 破産により免責される債権とは?

 破産手続では、免責という制度があり、免責決定が出ると破産手続開始前の原因に基づいて発生した請求権(これを「破産債権」と言います。)については、原則として免除されることになります。
 しかし、免責制度は、債権者に対して及ぼす不利益も大きく、また、破産によって免責を認めることが不合理な結果を招くものもありますので、破産法は一定の債権については、免責の対象から除外する扱いをしており、これらの債権を「非免責債権」と言います。なお、非免責債権の種類は個別に破産法に規定されています。

2 Aさんの離婚に伴う各種請求権は非免責債権にあたる?
まず、前提としてAさんは、破産前に離婚が成立し、離婚条件が合意されているため、養育費、財産分与、慰謝料等の各種請求権は破産債権に該当します。
それでは、非免責債権にあたるのか、以下個別に検討していきます。

①養育費

 養育費は、「子の監護に要する費用」(民法766条1条)として、非免責債権として規定されています(破産法253条1項4号ハ)。
 よって、破産手続に影響せず支払いを受けることができます。

②財産分与

 財産分与は、夫婦共有財産の清算という意味合いでなされることが通常ですが、場合によっては今後の生活保障という扶養的趣旨、さらには慰謝料的意味合いが含まれていることもあり、財産分与のなされた趣旨に応じて実質的に判断する必要があります。
 このうち、通常の財産分与の趣旨である清算的財産分与の場合や、慰謝料の意味合いで行われた財産分与に関しては、非免責債権には当たりませんので、免責されることになります。
 これに対し、扶養的財産分与に関しては、非免責債権に該当する可能性があります。
 今回のAさんの場合、慰謝料については別途合意しているため、Aさんの財産分与請求権は、慰謝料的意味合いはないと言えるでしょうし、扶養的財産分与を基礎づける事情も見当たらないので、非免責債権には該当しないと考えられます。
 よって、財産分与請求権として残っている分割金部分については免責されてしまいます。

③不貞による慰謝料請求権

 不貞による慰謝料請求権は、不法行為に基づく損害賠償請求権に該当します。不法行為に基づく損害賠償請求権が非免責債権に該当するかについては、破産法では、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」については非免責債権として規定されています。
 そこで、不貞行為が「悪意で加えた不法行為」と言えるかが問題になります。
 これについての最高裁の判例はありません。しかし、下級審の判断の中には、「悪意で加えた不法行為」とは、単純な故意による不法行為ではなく、積極的な害意に基づく不法行為であると解釈して、非免責債権には該当せず、免責されると判断しているものが複数あります。
 たとえば、東京地方裁判所平成15年7月31日判決では、不貞期間が5年に及び、不貞相手の女性が妻との離婚を確認することもなく男性と挙式まで挙げていたという事案において、裁判所は、「不法行為としての悪質性は大きいと言えなくもないが、不貞相手の女性から妻に対して直接向けられた加害行為はなく、全事情を総合勘案しても「悪意をもって加えた不法行為」には該当しない」と判断し、慰謝料請求権については免責されると判断しています。
 上記裁判例の立場では、よほど悪質でない限り非免責債権とされるのは難しく、本件冒頭事例のAさんの慰謝料請求権も免責されてしまうと思われます。

 

3 既に財産分与として支払いを受けた財産は否認されてしまうの?

 破産直前のように債務状況が悪化している時点で、財産を特定の債権者に支払う行為は、破産後に管財人から否認(=取消)されることがあります。
それでは、破産直前になされた財産分与についても、否認されてしまうのでしょうか。
これについては、財産分与とは、婚姻期間中に築いた夫婦の共有財産を清算する意味合いからすれば、夫婦の財産のうち2分の1に関しては、当然に相手方配偶者に分与を求める正当な権利があるといえますので、適正な金額の財産分与であれば、原則として否認の対象にならないと考えられています。
しかし、財産分与という名目で、本来求めうる適正額を大幅に上回る財産を不当に譲り受けた等の場合には、無償で財産を散逸させ、債権者を害しているといえますので、不当に過大な部分については否認対象行為になります。なお、財産分与が適正額であるか否かについては、財産の額のみならず、その形成に至った一切の事情を考慮した上で決まりますので、財産分与に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

4 まとめ

 以上の通り、離婚に伴う各種請求権については、その性質に応じて破産手続上の取り扱いが異なってきます。特に、財産分与に関しては、財産分与合意時にどのような事情を考慮して当該金額が決められたのか等について実質的な判断を経なければ、破産によって否認されるか否か、免責されるか否かについて判断が困難ですので、元配偶者が破産してお悩みの方は、破産と離婚に強い弁護士のご相談されることをお勧めします。