【債権者Aさんの相談】
先日,お金を貸していた友人が破産したため,裁判所に破産債権の届出を行いました。しかし,届出をした債権について,管財人から「証拠がなく,債務者本人も認めていない」という理由で異議が出されてしまいました。友人だったので,契約書等は作成しておらず,証拠はありません。けれども貸したのは事実です。この場合,貸付金について配当は受けられないのでしょうか。
債権者が破産債権の届出行った場合,債権の金額や,優先順位等について,管財人や他の債権者が異議を出すことがあります。今回は,届出をした破産債権に異議が述べられた場合,当該債権を有する債権者としてはどのように対応すればいいかについて,お話ししたいと思います。
1 異議の効果
⑴ 異議がない場合
届出債権について管財人や他の債権者から特段異議が述べられなかった場合,その債権は確定し,確定判決と同一の効力を持ちます。債権が確定すると,債権額に応じて割合的に配当を受けることになります。
⑵ 異議がある場合
異議が出されても,証拠を補充することによって債権の存在を証明すれば,異議が撤回される場合もありますが,異議が撤回されなければ,破産債権の内容が確定されず,配当は受けられません。
そこで,異議が出された破産債権を有する債権者としては,配当を受けるために債権の存在を主張立証して確定する必要があります。債権の確定手続は,異議を出された破産債権について判決等があるか否かによって債権者が行うべき手続の負担は全く異なってきます。判決等がある場合は,その債権の存在は一応確からしいと言えるため,債権者が主導して確定手続をする必要はありませんが,判決等がない場合は,債権者が主導して後述の確定手続(査定申立てや異議の訴え)を提起することになります。
2 査定の申立て(判決等が一切ない場合)
⑴ 査定の申立て
争われている債権について,判決等が一切ない場合,異議を出された債権者は,債権を確定させるために,異議を述べた債権者や破産管財人を相手方として,裁判所に債権査定の申立てを行わなければなりません。なお,異議を述べる者が複数いる場合は,その全員を相手方にする必要があります。
査定の申立ては,届出債権の調査期間の末日又は調査期日から1か月以内に申立てをする必要があります。また,手続の中では審尋が予定されており,裁判所は,債権者から意見を聴取した上で,債権の存否や額等について決定する裁判を行います。
この結果について不服がある場合は,後述の査定異議の訴えを提起して争うことになります。なお,異議の訴えが提起されなければ,債権は確定します。
⑵ 査定異議の訴え
査定申立ての決定に対して異議がある場合は,異議の訴えを裁判所に提起することになります。これは,通常訴訟ですので,他の裁判と同様,債権の存否等について,証拠などを提出して主張・立証することになります。
3 異議が出された届出債権について既に訴訟が係属している場合
管財人等から異議が出された破産債権について,判決等がない場合には,査定の申立てを行うのが原則です。しかし,判決は未だ出ていないものの,既に訴訟で債権の存否を争っている最中の場合には,その時点で改めて査定の申立てをするよりも,当該訴訟で提出された訴訟資料を流用した方が審理もスムーズですので,その場合は,査定の申立てではなく,係属中の訴訟を受継する形で債権の確定手続を行います。
例を挙げると,債権者が債務者に対して貸金返還請求訴訟を提起して,債権の存否を争っていたところ,債務者に破産手続開始決定が出ると,当該貸金訴訟は中断します。そして,債権者は,破産債権の額を管財人に届出をしますが,管財人が異議を述べた場合,債権者は,査定の申立てをする必要はなく,中断していた貸金訴訟を受継して,管財人に対し,破産債権の確認訴訟を提起することになります。
4 判決等がある場合
異議が出された債権について,既に「判決等」がある場合は,当該債権を有する者が主導して手続をする必要はなく,異議を出した側(管財人や他の破産債権者)が,当該債権を有する者に対して,裁判を提起して債権の確定手続を行うことになります。
ここで,「判決等」と記載しましたが,判決は未確定の場合も含みます。また,判決だけでなく,執行力ある債務名義も含まれます。執行力ある債務名義とは,執行文の付与された確定判決,和解調書,調停調書や執行認諾文言付の公正証書等です。異議を出された届出債権が,このような執行力ある債務名義や未確定判決で認められたものである場合は,その債権の存在は一応確からしいため,それを争う側が主導して裁判を提訴する必要があります。なお,異議を出した側から結局裁判の提起がなされなければ,異議がないものとみなされ,債権はそのまま確定します。
提訴する裁判については,「破産者がすることのできる訴訟手続」(破産法129条)に限られます。「破産者がすることのできる訴訟手続」とは,未確定判決がある場合は上訴の手続になります。他方で,確定判決がある場合は,争い方によります。例えば,確定判決後,既に債権が弁済されており,存在しないという理由で争う場合には,「請求異議の訴え」を提起することになりますし,確定判決の手続そのものに瑕疵があると争うなら,「再審の訴え」を提起することになるでしょう。
5 まとめ
以上の通り,届出債権に異議が出された場合,配当を受けるためには債権の存在を証明し,債権の存否を確定しなければなりません。破産手続という特別な手続の中で行われますが,結局は,証拠を集めて債権の存在を主張立証する作業となり,通常の民事訴訟と同じような作業が必要になりますので,ご自身の債権をしっかりと認めてもらうためには,弁護士にご相談されることをお勧めします。但し,破産手続である以上,配当対象財産は限られており,苦労して認めてもらった債権であっても,債権額や債権の優先順位,配当額によっては,確定手続にかける労力や費用が見合わない可能性もあります。そこで,異議を出された場合は,そもそも確定手続に進んだ方が得なのか損なのか等,そのあたりを見極めることがまず重要となりますので,早い段階で弁護士にご相談されることをお勧めします。