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振り込め詐欺救済法に基づく手続きで被害金を取り戻そう

皆さんは「振り込め詐欺」という言葉をご存知でしょうか?その悪質な犯罪行為はニュースでもたびたび取り上げられているため、ほとんどの方が耳にしたことがあるのではないでしょうか。
では、振り込め詐欺に遭ってしまった場合、もうお金を取り返すことはできないのでしょうか?やはり、詐欺グループから取り返すことは困難なのかもしれません。そこで、今回は、万が一振り込め詐欺の被害に遭ってしまったとき、どのように救済してもらえるか、法律に基づく手続きについてご説明したいと思います。

1.振り込め詐欺の定義

「振り込め詐欺」とは、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺及び還付金等詐欺などの犯罪行為の総称で、2004年に警視庁によって命名されました。この振り込め詐欺は、「特殊詐欺」に該当します。そもそも特殊詐欺とはどのような詐欺行為のことなのでしょうか。

警察によると、特殊詐欺は「面識のない不特定多数の者に対し、電話その他の通信手段を用いて、対面することなく被害者をだまし、不正に入手した架空または他人名義の預貯金口座への振り込みなどの方法により、被害者に現金などを交付させたりする詐欺」と定義されています。

特殊詐欺の中でも代表格といえるのが、今回取り上げる振り込め詐欺で、特に高齢者が被害に遭う傾向が強く、平成30年の警察庁の調査によると、被害者の7割以上が高齢者となっています。

もしも、自分や周りの人たちがこれらの詐欺の被害に遭ってしまった場合、どうしたらよいのでしょうか。被害に遭ってしまった場合の救済処置を定めた法律があるので、次はそちらを見ていきましょう。

2.振り込め詐欺救済法とは

振り込め詐欺と思われる電話を受けたときは、詐欺だと気づいて被害を未然に防ぐことが出来たら一番良いですが、残念ながら多くの方が被害に遭っているのが現状です。このように振り込め詐欺の被害に遭ってしまった被害者の方々を助けるために作られたのが「振り込め詐欺救済法」という法律で、平成20年6月21日から施行されました。

振り込め詐欺救済法では、振り込め詐欺の被害者に対する被害回復分配金の支払い手続等を定めています。被害回復分配金とは簡単に言うと、振り込め詐欺の加害者の預金口座から取り戻し、各被害者に分配(返還)される資金のことです。その手続は以下の3つに分かれて進められます。

① 取引停止(口座凍結)
② 債権消滅手続
③ 被害回復分配金の支払手続
ここからはそれぞれの手続について詳しく見ていきましょう。

3. 振り込め詐欺救済法に基づく手続①取引停止(口座凍結)

被害にあってしまった際に、まず行うのが取引停止手続です。取引停止手続では、金融機関に対し、犯罪行為に利用された疑いのある預金口座に関する取引の停止等の措置をとることができます。いわゆる口座凍結のことです。口座凍結後は該当の預金口座では、入金や振り込み、預金の引き出しなどが一切できなくなります。

この口座凍結を行うには、振り込め詐欺の被害者側が、払込先(加害者)の預金口座を開設している金融機関に対して、その口座が犯罪利用の疑いがあるということを情報提供しなければなりません。情報提供の方法としては、金融機関に直接口座情報を提供するやり方以外に、警察や弁護士会、金融庁や消費者センター等の公的機関や、弁護士や認定司法書士を通して情報提供を行うことも可能です。情報提供を受けて金融機関により、すみやかに取引停止の措置が取られます。

もともと、振り込め詐欺救済法が施行される以前は、振り込め詐欺の被害に遭った際の口座凍結の手続は加害者の名前が分からなければ行えませんでした。また、名前が分かったとしても、預金は口座名義人のものということで被害金を取り戻すことは容易ではありませんでした。

しかし、振り込め詐欺救済法に基づく口座凍結は、振込先の口座番号と口座名義人が分かれば可能で、かつ要請後に早急に口座凍結が行われるので、加害者は預金を引き出すことが出来なくなり、被害金の回復の可能性が大きくなりました。
取引停止手続がとれたら、次は債権消滅手続へと移ります。

4.振り込め詐欺救済法に基づく手続②債権消滅手続

債権消滅手続では、加害者が振り込め詐欺に利用した預金口座の所有権がはく奪されます(=失権)。所有権がはく奪されることで、口座内の預金等の債権も加害者のものではなくなります。実際にこの手続きがどのような流れで進んでいくのかを見ていきましょう。

まず、①の取引停止措置を行った金融機関が、加害者の失権のための公告を預金保険機構に要請し、それを受けた預金保険機構が、ホームページで「債権消滅手続開始」の公告を実施します。この預金保険機構の公告というのは、預金保険機構のホームページにアクセスすれば誰でも見ることができ、「債権消滅手続き開始」の公告では、加害者の口座情報(金融機関、店舗、預金の種類、口座番号)や名義人の氏名や名称、預金額の情報を公開しています。

この公告開始から60日以内に、口座名義人からの届出がなければ、債権は消滅し、「債権消滅」の公告が実施されます。この公告を受け、次の被害回復分配金の支払手続へと進みます。

5. 振り込め詐欺救済法に基づく手続③被害分配金の支払手続

「債権消滅」の公告の実施を受け、今度は金融機関が「支払い手続開始」の公告を預金保険機構に要請しなければなりません。この公告では、②「債権消滅手続開始」で公開した情報に加え、被害者に対して、被害回復金の支払申請期間を掲載しています。

そのため被害者は金融機関に対して被害回復分配金の支払い申請を行う必要があります。 被害者からの支払い申請を受付けた金融機関は、申請人が支払いを受けるに値するのかを判断した上で、値すると判断した場合は被害回復分配金の支払いを行います。

この時の支払額は消滅預金等債権の額(=凍結口座の預金額)×(各被害者の被害額/総被害額)となります。つまり、複数の被害者から支払い要請がある場合は、口座に残っている残高を、それぞれの被害額に比例した額を配分したうえで支払われることになります。

このような仕組みで振り込め詐欺救済法に基づく被害回復分配金の支払いは行われているため、総被害額分の預金が残っていなければ、被害者の方は全額返金を受けることが出来ません。

さらに残高がない、もしくは1000円未満の場合は振り込め詐欺救済法による支払い手続の対象にもなりません。また支払いまでに1か月程度の期間を要しますので、これらの点を心得ておかなければなりません。

6.まとめ

以前は、振り込め詐欺にあってしまったら犯人の特定をしなければ、その被害金を取り戻すことは困難だとされていました。しかし、振り込め詐欺救済法の施行後は、犯人の特定が出来なくても預金口座の凍結を行うことができるようになり、その後の手続きも定められたため、被害金を取り戻せる可能性が大きくなりました。

それでも、被害金を全額取り戻せる保証はないですし、取り戻すまでには期間を要します。日頃からご自身や、周りの人たちが被害に遭わないように振り込め詐欺の手段や実体を把握し、注意しておくとともに、万が一被害にあってしまった時は、早急に対処をすることが必須です。

弁護士を通じて金融機関に情報提供を行うことも可能ですので、もし一人で対応することが難しいと感じた場合はすぐに専門家に相談をしてください。