「マルチ商法」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「儲かる話があるから説明会に来てほしい」、「簡単に儲かる方法がある」という誘い文句は、マルチ商法かもしれません。マルチ商法自体は違法ではありませんが、様々なリスクがあるので、何も知らずに始めてしまうと、様々な問題に直面してしまいます。
今回は、そうならないためにもマルチ商法の実態と、その危険性についてご説明していきたいと思います。
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1.マルチ商法って何?
はじめに、「マルチ商法」とは、いったいどのような商法のことをいうのでしょうか?「マルチ商法」とはマルチレベルマーケティングプラン(多階層販売方式)の略語ですが、これは俗称のことで、正式名称は特定商取引法で「連鎖販売取引」とされています。
② 再販売、受託販売もしくは販売のあっせん(または役務の提供もしくはそのあっせん)をする者を
③ 特定利益が得られると誘引し
④ 特定負担を伴う取引(取引条件の変更を含む。)をするもの
特定商取引法によると、この連鎖販売取引は以下のように定義されています。
具体例を交えて分かりやすく説明しますね。
例えば洗剤や化粧品の販売事業を行っている組織の会員が、知り合いや家族を新規会員として誘うときに、「自分が本部から買い取った洗剤や化粧品を他の人におすすめし、再販売すると、売り上げの一部と会員紹介料がもらえて儲かるよ。」と言って勧誘するということです。
「儲かるよ」と言って勧誘をするものの、マルチ商法を行う際には自己負担も伴います。それが④の特定負担で、特定負担とは主に一定の会員費(無料の場合もあり)や保証金、本部から自分で商品を買い取りするときにかかる費用のことを言います。
マルチ商法ではこのように、「儲かるよ」と言って新規会員を勧誘しますが、会員は実際にはどのように利益を得ているのでしょうか。ここでも具体的な説明をしていきたいと思います。
まず、Aさんが新規会員Bさんを勧誘し、入会すると、会員紹介料が入ってきます。また、Bさんが入会後に商品を売り上げたときの利益の一部もAさんの売り上げ紹介料として入ってきます。その後BさんがCさんとDさんを勧誘したときも、Aさんは直接勧誘をしてい ませんが、紹介料を得られる仕組みになっているのです。
そのため、一度会員になると自分の下の会員を作り紹介料を得ようと、熱心に勧誘をおこなうようになります。このように会員が自分たちの利益の為に勧誘・商品の販売を行うこと自体がブランドや商品の宣伝活動になるので、組織側としては特に広告活動をする必要がないというメリットもあるのです。
次に、マルチ商法と同じようによく聞く、「ねずみ講」というものがあるので、そちらを詳しく見ていきましょう。
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2.マルチ商法とねずみ講のちがい
マルチ商法とよく似たものに、「ねずみ講」が存在します。ねずみ講は俗称のことで、正式名称は「無限連鎖講」といいます。マルチ商法とねずみ講は仕組みが似ているため、混合されがちですが、この2つは完全に別物で、ねずみ講に至っては無限連鎖講の防止に関する法律で全面的に禁止されています。
無限連鎖講の防止に関する法律 第3条
次に、なぜねずみ講は違法なのかを明らかにするために、ねずみ講の仕組みについてみていきましょう。ねずみ講はマルチ商法と同様に、会員が新規会員を勧誘し、入会金を請求し自分の利益とします。その新規会員も、更なる新規会員(=後順位の会員)を勧誘し、入会金を請求します。
そしてその一部を自分の利益とし、残りを自分より先に入会している会員(=先順位の会員)に分配する、という形をとります。分配を受けた会員は、自分より先順位の会員がいればさらにその利益を分配する…という形式が組織内で連鎖しています。
以上がねずみ講の仕組みなのですが、ここだけ見ていると、どちらもねずみ算式の構造になっていて、マルチ商法とねずみ講にはさほど違いがあるようには思えません。いったい何が違うのでしょうか?また、なぜマルチ商法は合法なのにねずみ講は違法なのでしょうか。
それは、マルチ商法とねずみ講の大きな違いに、「商品の購入の有無」があるからです。
マルチ商法では、商品の購入があくまで目的で、商品と引き換えに後順位の会員から料金をもらい、そこから紹介料が発生します。そのため、ピラミッドの最下層になったとしても、支払った商品代金と引き換えに、商品が手に渡ります。
しかし、ねずみ講の場合は組織に入会するときに先順位の会員に入会金を払うものの、引き換えに何かが自分の手に渡るわけではありません。そのため、最下層の人は自分より後順位の会員を見つけなければ、損をするだけで終わってしまいます。
日本の人口には限りがあるため、ねずみ講もいつか終わりが来てしまいます。というのも、例えば、勧誘・入会を繰り返すことによって既にAさん以外の日本国民全員が同じ組織に加入していたとします。
そしてAさんも勧誘を経て会員になったとき、Aさんは新規会員を勧誘することができません。Aさんは自分だけ入会金を払うだけで、自分は何の利益も得られません。このように損をするだけの人が現れてしまうので、ねずみ講は法律で禁止されているのです。
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3.マルチ商法の危険性
ねずみ講と比較してみて、マルチ商法は合法だし、後順位の会員をつければ儲かるから良いのでは?と思う方もいるかもしれませんが、合法だからといって、危険性がないわけではありません。そもそも、多くの利益を得られるのは、上位ランクの会員であって、そうなるためには、多額の保証金などの金銭の支払いや、多量の商品購入が条件となります。
仮に多額の金銭を支払い、商品を大量に購入したとしても、売り切る(後順位の会員を作る)ことが出来ず、昇格も出来ずに、多額の借金と商品在庫だけが自分の手元に残った、ということにもなりかねません。
また、より多くの新規会員を獲得しようとすると、自分の周りの人たちに見境なく声をかけ、執拗なセールストークで勧誘をするので、今まで築いてきた人間関係が崩れていく恐れもあります。マルチ商法は決して違法ではありませんが、上手くいかない場合は、自分が金銭的なリスクに晒されるだけでなく、周りの人たちを巻き込んでしまう恐れがあるので、メリットだけでなくデメリットも理解しておきましょう。
4.まとめ
構造的には似ているマルチ商法とねずみ講ですが、「商品購入の有無」がその大きな違いとなり、また合法か違法かの境目となります。金銭的なリスク以外にも、自分の人間関係を脅かしてしまう可能性があります。近年では大学生のサークル活動でもねずみ講のようなやり方でメンバーを集めていて、トラブル化したという事案もあります。
いつ自分が勧誘される立場になるか分かりませんので、勧誘を受けたときはリスクがあることを念頭に置いておきましょう。また、トラブルが起こってしまった場合は早めに弁護士や専門家に相談することをおすすめします。