日本では,結納という伝統があります。もし結納をすませた後に婚約が解消された場合,その返還を求めることができるのでしょうか?また,婚約指輪や婚約中のプレゼントは返してもらえるのでしょうか?今回は,婚約解消をした場合に結納や婚約指輪などの贈り物を返してもらうことができるかということについてお話させて頂きます。
1 結納ってなあに?
まず,結納についてご確認しておきたいと思います。
結納とは,婚約の成立を確認することを目的とする贈与であって,伝統的に社会的な慣習として行われてきたものです。つまり,結納とは,両家が親類となって「結」びついたことを祝い,贈り物を「納」め合うということを意味するものなのです。
結納にはこのような意味合いがあることから,裁判所においても「結納は,婚約の成立を確証し,あわせて,婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間の情誼(人と付き合ううえでの義理)を厚くする目的で授受される一種の贈与である」としています。つまり,結納には,「婚約の成立」を示すという意味合いと「婚姻が成立した場合に両者・両家の仲を良くする」という目的があるといえます。
2 結納の返還
では,婚約後,婚姻(結婚)に至らなかった場合などに結納の返還を求めることができるのでしょうか?
結納には,前でもお話ししたように「婚約の成立」を示すという意味合いと「婚姻が成立した場合に両者・両家の仲を良くする」という目的があるといえます。そのため,結納の授受があったものの,婚姻が成立しなかった場合などには,結納の目的が達成できなくなるため,結納をあげた人(通常,結納をあげるのは男性ですので,以下では男性ということにします。)は,結納を返してもらえることになります。もっとも,婚約解消に双方の合意があるときには,当事者間でいくら返すのかといった条件を自由に決めることができます。
(1) 結納をあげた人が悪くて婚約を解消したときも返還してもらえるの?
婚約を解消した場合,男性が結納を返還してもらえることは上でも確認したとおりです。しかし,女性に原因があって婚約が解消した場合はまだしも,男性が浮気して婚約を解消した場合でも結納を返還してもらえるのでしょうか?
結論から言えば,男性側が浮気をした場合には,結納の返還は認められない傾向にあると言えるでしょう。浮気をしたような場合にまで結納の返還を求めることは誠意に欠けており許されないと考えているようです。
もっとも,裁判所によって判断が分かれており,確実に結納の返還は認められないというわけではありません。
ちなみに,結納を受け取った女性の側にも落ち度がある場合,お互いの落ち度を比較して,男性側の落ち度の方が女性の落ち度よりも大きければ返還を請求することができず,女性の落ち度と同等又は小さければ,結納金の返還が許されると判断している裁判例もあります。
(2) 婚姻した場合,返還しなくていいの?
結納は,先程もお話ししたように「婚姻が成立した場合に両者・両家の仲を良くする」という目的があることを前提とすると,婚姻が成立した場合は,結納の目的は達成されているため,返還を求めることができないことになりそうです。
しかし,裁判例をみると,法律上の婚姻が成立した場合であっても,婚姻期間が短く,夫婦としての実態がなかったような場合,例外的ではありますが結納の返還が認められる余地があります。それでは,どんな場合に結納の返還が認められたか,逆に認められなかったのか,裁判例を紹介致したいと思います。
〈結納の返還が認められた事例〉
・挙式後約2か月にわたって事実上の夫婦として生活していましたが,二人の間に法律上の婚姻関係は成立しておらず,当事者間が特に親しくなることもなかったという事案
・法律上の婚姻生活は3か月存在したのですが,そのうち20日程度同棲したに過ぎず,ほとんど実家にいた事案
・婚姻後2年が経過しその間に子供が一人生まれたが,当初から結納を受け取った側が婚姻を継続する意思がなく,婚姻前からずっと浮気を続けていた事案
〈結納の返還が認められなかった事例〉
・挙式後約8か月夫婦生活を続け,その間に婚姻の届出も完了しており,法律上の婚姻が成立していた事案
・挙式後約1年間事実上の夫婦として生活をしていた事案
これらの裁判例などからすると,婚姻が成立した場合には当初からよっぽど悪意を持っていたり,あまりに短期間であったりしない限り,結納の返還を求めるのは難しいことになりそうです。また,仮に認められたとしても全額の返還ということはほとんど認められないことになると思われます。
3 結納以外の費用も返してもらえるの?
上でお話ししたように結納については婚姻をしていなければ,返還してもらえる可能性が高いと思います。では,婚約指輪や婚約中にあげたプレゼントなども返還してもらえるのでしょうか?
(1) 婚約指輪
まず,婚約指輪について見てみましょう。
婚約指輪についても結納の場合と似ていて,「婚約の成立」を示すという意味合いと「婚姻の成立」という目的があると言えます。そのため,婚姻に至らなかったのであれば、婚約指輪も返してもらえる可能性が高いと言うべきでしょう。
もっとも,婚約指輪を返してもらっても使い道はないことが多いでしょうし,換金しても大きく値下がりしてしまっているので,婚約指輪ではなく,婚約指輪を購入したときと同じ代金を請求することはできないのでしょうか?
これについては,婚約指輪を渡した際,もらった女性が婚姻をしないと思っていた場合でもない限り,購入代金の請求までは認められないと考えられます。つまり,婚約指輪そのものを返還すればよく,婚約指輪を購入した際の代金相当額までは請求できないことになります。
(2) 婚約中のプレゼント
次に,婚約中にあげたプレゼントについて見てみましょう。
婚約中に男性があげたプレゼントは,任意で行った贈与であるため,原則としてプレゼントの返還を請求することはできないでしょう。
しかしながら,裁判例においては,例外的に,プレゼントの返還を認めたものもあります。その裁判例では,このような婚約中の贈与は,将来自分の妻になる者になされるという特殊な契機を持つのであり,まったく返還を認めないのも可哀想だからということで,婚約解消の原因が女性の責められるべき事情にある場合や贈与された金品が,男性の地位・収入に比して不当に高価高額である場合,その物品を女性の手元に残しておくことが無意味である場合などにおいては,男性は女性に対して返還を請求することができるとしました。
このように何らかの特別な事情がある場合には,婚約中にあげたプレゼントについても返還が認められることがありそうです。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は結納や婚約指輪などの贈り物の返還が認められるのかということについてお話しさせて頂きました。
婚姻関係の解消について合意がある場合であれば,当事者間で条件を話し合う中で,結納の返還などについても決めていくことになるでしょう。その場合にあっては,なにも現物で返す必要はなく,金銭など別のもので清算することも可能です。この場合には,合意書などを作成しておき,婚姻解消後のトラブルを防ぐべきでしょう。
また,いろいろとお話ししたように,結納と婚約解消に関する問題は簡単に判断できるものではなく,婚約解消に至った経緯や,婚約中の生活の実態等を総合的に判断犯する必要がありますので,適切な解決を図るためには,専門的な法的知識だけでなく婚約に関する事件について豊富な経験が必要になるものです。そのため,お困りの際には婚約に関する事件について豊富な経験を持つ弁護士にご相談ください。