相続財産に含まれない財産②
<ご相談者様からのご質問>
先日,父が亡くなりました(遺言はありません。)。父の法定相続人は,私と兄の2人なのです。相続財産については,預貯金500万円ほどがあり,兄妹で仲良く250万円ずつで分けることに合意していたのですが,遺産分割協議書を作成する前に,父が兄を受取人とする生命保険をかけており,兄が100万円程生命保険金を受け取っていたことが分かりました。
私としては,相続財産は預貯金と生命保険金の合計600万円であり,300万円がが法定相続分としてもらえると考えているのですが,間違っているのでしょうか。
<弁護士からの回答>
前回は,相続財産に該当しない財産として,一身専属の権利義務についてご説明させていただきましたが,今回は,生命保険金についてご説明させていただきます。
生命保険金については,死亡により支給される仕組みになっていることから,相続財産に含まれると考えられている方が非常に多いのではないかと思います。
しかし,結論からお伝えすると,生命保険金は相続財産に含まれません。理由としては,相続財産とは,相続開始時(死亡した時点)において被相続人が有している財産であるところ,生命保険契約は,契約者と保険会社との間で,保険料を支払うかわりに「被保険者が死亡したことを条件として受取人に対し,生命保険金を支給する」ことを合意する契約です。すなわち,生命保険金はあくまでも保険契約に基づき受取人が受領することができるものであり,被相続人から承継した金銭ではないため,相続財産に該当せず,当該受取人固有の財産となります。
したがって,ご相談者様のケースにおいてもご相談者様の兄が受領した生命保険金100万円については,兄の固有の財産に該当するため,相続財産には含まれないことから,相続財産は預貯金の500万円のみということになります。
このように生命保険金については,遺産分割における相続財産には該当しませんが,生命保険金の額があまりにも高額な場合には,別の機会にご説明しますが,遺留分減殺請求権における「特別受益」として認定される場合もあります。
また,保険金の受取人が「満期の場合には被保険者(被相続人),被保険者が死亡した場合には相続人」と規定されており,相続人が複数存在する場合には,相続財産には含まれないものの,法定相続分にしたがって,各自保険金請求権を有することになります。
また,相続税においては,生命保険金も相続税の課税対象となる「みなし相続財産」に含まれますので,相続税の算定の際には注意が必要です。
相続財産に含まれない財産①
<ご相談者様からのご質問>
先日,元夫が亡くなったと聞きました。離婚調停の際,私が子どもの親権者となり,元夫から毎月2万円の養育費を支払ってもらうように約束してもらいましたが,全然支払ってもらえませんでした。元夫は私と離婚後再婚していましたが,再婚相手には養育費を支払う義務は相続されないのでしょうか。
<弁護士からの回答>
以前にもお話させていただきましたが,被相続人の一身専属の権利義務については相続されず,相続財産には含まれないことになります。そこで,本日は,相続財産に含まれない一身専属の権利義務について説明させていただきます。また,養育費に関しては複雑な問題があるため併せて養育費に関する問題についてご説明させていただきます。
一身専属の権利義務とは,その権利や義務の性質や内容から,他の人に与えたり課したりすることに馴染まない,本人にのみ与えられまたは課せられるべき権利義務のことをいいます。
具体的には,帰属上の一身専属権として,代理権,使用貸借権,労働者である地位等があり,行使上の一身専属権として離婚請求権等があります。
ご相談様のご質問内容では,養育費を支払う義務が相続財産となるかという点が問題となっておりますが,養育費の支払義務に自体は,帰属上の一身専属の義務として,相続の対象とはなりません。したがって,ご相談者様の元夫の再婚相手は,元夫の相続人ですが,養育費を支払う義務までは相続しませんので,今後の養育費に関しては,請求することができません。
もっとも,ご相談者様の事例では,元夫が養育費について,毎月2万円の支払い義務があるにも関わらずこれを支払っておらず,元夫が死亡するまでの未払いの養育費が存在します。この未払いなっている養育費については,上記の養育費を支払う義務とは異なり,単なる,金銭債務となっているため,一身専属の権利義務には該当しません。したがって,ご相談者様の事例の場合でも過去の未払分の養育費については,相続財産として元夫の再婚相手にも相続されます。
ここで注意が必要な点が2点あります。まず,上記の未払分の養育費(金銭債務)は,養育費の対象であるお子さん自身も相続します。この場合相続により債権者と債務者が同一人物になるため債務は消滅します(法律上,混同による消滅といいます。)。
したがって,再婚相手に請求できる金額は,再婚相手の法定相続分に相当する金額となります。
また,過去の未払分の養育費は,毎月支払われる「定期給付債権」であるため,民法169条により,各支払日から5年間で消滅時効になってしまいます。したがって,したがって,何もしていないと未払分の養育費として請求できる金額が毎月毎月減少してしまうことになりますので,いち早く弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。
相続財産について②~積極財産~
<ご相談者様からのご質問>
相続財産には借金も含まれるのですね。それでは,積極財産に関してはどのようなものが相続財産になるのでしょうか。
<弁護士からの回答>
前回は,相続財産に関する総論的なご説明と消極財産の具体例についてご説明させていただきました。今回は,積極財産についてどのようなものが積極財産に該当するかをご説明させていただきます。
1 不動産及び不動産所の権利
被相続人が所有していた土地(宅地,農地,山林)や建物(居宅や店舗も含みます。)等の不動産だけではなく,不動産上に設定されている権利,具体的には,地上権,永小作権や借地権,借家権利等の相続財産に含まれます。したがって,父親名義で賃借していた不動産に関しては父親が亡くなった後でも相続人は不動産を賃借することができます(賃借の対価である賃料を支払う必要はあります。)。
2 現金・有価証券等
現金のみならず預貯金,貸付金,売掛金,株券(株式)等の有価証券についても相続財産になります。この点,預貯金や貸付金等の債権については,可分債権であるのか不可分債権であるのかについてどのように相続人に分配されるのかについて複雑な取扱いになっていますので,別の機会に詳しくご説明させていただきます。
先日,夫が急になくなってしまいました。これから相続のことについて考えなければなりません。夫との間には子どもが1人おり,夫の両親もご兄弟も健在です。この場合,誰が相続人になるのでしょうか。
3 動産
被相続人が所有していた自動車や,家財道具,船舶,宝石,貴金属などの動産についても相続財産になります。動産に関しては相続財産に含まれるのかという問題よりも相続持参の価額をどのように評価するのかという点が問題となります。
4 その他(債権等)
上記以外にも電話加入金,著作権等の権利も相続の対象となります。債務不履行による損害賠償請求権についても相続の対象となります。損害賠償請求権のうち,精神的苦痛に対する慰謝料請求権については従来,一身専属の権利であるとして相続財産に含まれないとされてきましたが,最高裁の判例により(昭和42年11月1日判決),慰謝料請求権であっても相続財産に含まれ相続人において加害者に対し慰謝料請求権を行使することができるとされました。
相続財産について①
<ご相談者様のご質問>
父が先日なくなりました。相続人は私だけなのですが,父が所有していた物は実家の不動産があります。しかし,父はギャンブル等で作った借金もありますが,借金は父が作ったもので私は関係ありませんよね。
<弁護士からの回答>
これまでは,相続人,すなわち,誰が亡くなった人の財産を相続することになるのか,相続人の順位,資格の喪失等についてご説明させていただきました。
今回からは,これまで説明してきた相続人にどういった財産が承継(相続)されるのかという相続財産に関する問題についてご説明させていただきます。
今回は,相続財産の定義や総論的な内容をご説明させていただきます。
民法では,「相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と規定されています(民法896条本文)。
したがって,被相続人の財産に属した一切の権利義務が相続人に承継されるため,相続財産とは,相続開始時に被相続人の財産に属していた一切の権利義務,すなわち,被相続人が有していたプラスの財産(積極財産)とマイナスの財産(消極財産)のすべてのことをいいます。もっとも,民法896条但書では「被相続人の一身に専属したものは,この限りではない。」と規定されており,被相続人の一身専属の権利義務に関しては相続財産含まれないことになります。
このように,相続財産については,積極財産(プラスの財産)だけではなく,消極財産(マイナスの財産)についても相続されることになります。積極財産については別の機会のご説明させていただきますが,消極財産としては,負債(借金,事業での買掛金,住宅ローンなど)や,税金関係(所得税,住民税,固定資産税,その他未払いの税金など)に加え,未払いの家賃・地代,未払い分の医療費等も含まれるため,かかる消極財産を承継した相続人は,債権者等に承継した債務等を返済する義務を負うことになります。
また,相続の際には,積極財産のみ承継して,消極財産を承継しないということはできません。したがって,相続する際には,被相続人にどのような相続財産があるのかについてしっかり判明してから相続するかしないかを判断する必要があります(相続放棄については,別の機会でご説明させていただきます。)。
ご相談者様の事例でも,お父様の不動産を相続する際には,お父様が作った債務についても承継し,支払う必要があるので相続するか否かは,慎重に判断された方がよいでしょう。
当事務所でも相続に関しお手伝いさせていただく際には,相続財産を調査するサービスもございますので,お気軽にご相談ください。
特別縁故者について②
<ご相談者様からのご質問>
内縁関係の夫が先日亡くなりました。夫に法定相続人はいないのですが,この場合,特別縁故者として夫の財産を受け取れると聞きました。どのような手続きを行えばいいのでしょうか。
<弁護士からの回答>
前回ご説明したとおり,法定相続人がいない場合には,被相続人の財産は原則として国庫に帰属することになりますが,特別縁故者と認められた場合には,被相続人の財産を特別縁故者として取得することができます。
今回は,特別縁故者の要件と財産を取得するための手続きについてご説明させていただきます。
1 特別縁故者の要件
前回も若干ご説明しましたが,特別縁故者になることができる人物は,民法958条の3に規定されており,
①被相続人と生計を同じくしていた者
→内縁関係のように夫婦と同等の生活を送っている場合や,事実上養子と同様の関係にある人が該当することになります。
②被相続人の療養監護に務めた者
→病気やケガなどで療養する必要がある人に対して看護や介護を行った人も特別縁故者に該当することがあります。もっとも,看護師や介護士等職業上看護等を行うことが予定されている者については特別縁故者に該当しないことになります。
③その他被相続人と特別の縁故があった者
→上記①もしくは②に同等の関係があると認められるような人については特別縁故者に該当することになります。なお,特別縁故者は自然人に限定されることはなく,法人(公益法人,学校法人)についても認められます。例えば,被相続人が生前に,経営者として組織の発展に深く関わっていた法人においては,特別縁故者として財産の承継が認められる場合があります。
2 特別縁故者になるための手続き
特別縁故者になるためには,前提として相続人が存在しないことが必要になります。そこで,別の機会にご説明させていただきますが,まずは,家庭裁判所に対して,相続財産管理人の選任の申立を行う必要があります。相続財産管理人が選任されると,相続財産の調査だけでなく,相続人が存在するかどうかの調査を行うことになります。この調査において,相続人が存在しないことが確定して初めて特別縁故者の申立をすることができます。
特別縁故者として財産の承継を希望する場合には,家庭裁判所に対して,特別縁故者の申立と相続財産分与請求を行う必要があります。
当該申立がなされると,家庭裁判所において,申立人が特別縁故者に該当するかどうかを判断し,特別縁故者に該当するとの判断がなされると,被相続人の財産を相続することができます。
なお,上記の特別縁故者の申立は,相続人が存在しないことが確定してから3か月以内に申し立てる必要があり,3か月を過ぎてしまうと申立が認められなくなってしまうので注意が必要です。
相続財産管理人の申立や特別縁故者の申立て関しては提出すべき資料の収集や,特別縁故者に該当することを証明する必要があるなど,専門的な事柄であるため,特別縁故者として財産の承継を希望される場合には,是非一度,弁護士にご相談ください。
特別縁故者について①
特別縁故者について①
<ご相談者様からのご質問>
【ケース①】
10年以上内縁関係にあった夫が先日亡くなりました。席を入れていなかった理由は,夫には前妻との間の子がいたためそのお子さんに配慮してのことでした。夫の財産については一切受け取ることができないのでしょうか。
【ケース②】
10年以上内縁関係にあった夫が先日亡くなりました。夫には配偶者も子どももおりません。夫の両親等も既に亡くなっています。夫の財産については一切受け取ることができないのでしょうか。
<弁護士からの回答>
ケース①とケース②でご相談者様が置かれている状況についてはほとんど同じに思えますが,結論自体は異なります。今回は,内縁配偶者の相続と特別縁故者についてご説明させていただきます。
以前にもお話ししましたが,法定相続人である「配偶者」とは,法律上の配偶者のみであり,事実婚状態の内縁の妻は法定相続人にはなりません。もっとも,内縁の妻に関しては,単に婚姻届が提出されていないだけで,その実質は法律上の配偶者と同じであることから,法律上の配偶者と同様の保護が図られています。具体的には,内縁関係を解消する際には財産分与の請求だけでなく,相手方に帰責事由が存在する場合には,内縁関係解消を原因とする慰謝料請求を行うことも可能です。
しかし,内縁状態の場合,配偶者が死亡してしまうとすべて相続の手続により進んでしまうため,パートナーの死後に財産分与の規定を準用などして財産を得ることもできません(最高裁判所平成12年3月10日決定)。したがって,ケース①の場合には,ご相談者様のパートナーを被相続人とする相続における相続人は,お子さんになられるので,ご相談者様は財産を一切得ることができません(財産を得るためには,パートナーに遺言を作成してもらう必要があります。)。
では,ケース②の場合にはどうでしょうか。ケース①と異なり,ご相談者様のパートナーの方には法定相続人がいらっしゃいません。別の機会に詳しくご説明させていただきますが,相続人が存在しないと最終的に判断された場合には,被相続人が有していた財産は国庫(国の財産)に帰属することになります。しかし,死亡した人に相続人が存在しない場合等であっても,「被相続人と生計を同じくしていた者」,「被相続人の療養看護に努めた者」,など「被相続人と特別の縁故があった者」(特別縁故者といいます。)がいる場合には,その者からの請求により,家庭裁判所が相当と認めるときには,相続財産の全部又は一部を取得することができます(民法958条の3第1項)。したがって,ご相談者様の場合にも,相続人ではないものの,特別縁故者に該当する場合には財産を取得することができます。
次回は,特別縁故者の要件や,家庭裁判所への申立て方法等についてご説明させていただきます。
法定相続分について⑤
法定相続分について⑤
<ご相談者様からのご質問>
今では非嫡出子と嫡出子の法定相続分は同じなのですね。私は以前(平成15年頃)父の相続の際,遺産分割の審判を行ったのですが,その際は,非嫡出子として,他の兄弟よりも低い相続分しかもらえませんでした。その審判はとうの昔に確定してしまっているのですが,今からどうにかすることはできませんか。
<弁護士からの回答>
前回は,非嫡出子と嫡出子との間で相続分を区別している規定が憲法違反であるとした平成25年9月4日の最高裁判所の決定についてご紹介させていただきましたが,上記最高裁判所の決定は,当該決定が出された以前の相続に関しては影響を及ぼすのでしょうか。今回は,上記最高裁判所の決定の効力が及び範囲についてご説明させていただきます。
上記最高裁判所の決定は,平成25年9月4日に出されていることから,平成25年9月4日以降に発生した相続に関しては,全ての相続に関し非嫡出子であっても嫡出子と同じ法定相続分を取得することになります。
また,上記最高裁判所の決定は,平成13年7月に被相続人が死亡し,相続が開始された事件であったため,平成13年7月時点における,民法900条4号但書のうち非嫡出子と嫡出子の相続分に関する規定(「本件規定」といいます。)の有効性について判断しており,「本件規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していたものというべきである。」としています。この判事からすると,平成13年7月以降に発生した相続すべてについて効力を及ぼすように思えます。
しかし,上記最高裁決定は,平成13年7月から平成25年9月までの間に発生した相続において,本件規定が有効であることを前提として解決した遺産分割の事件が多数存在することから,過去に解決した事件についてまで効力が及ぶとすると,法的な安定性を害することから,本決定の違憲判断は平成13年7月から本決定までの間に開始された他の相続について,本件規定を前提としてされた遺産分割の審判,その他の裁判,遺産分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないとしています。
したがって,最高裁判所の決定を素直に読むと,平成13年7月1日以降に開始した相続について,「確定的なものとなっ」ていない場合には,非嫡出子と嫡出子は同じ法定相続分を有することになり,審判などで「確定的なものとなっ」ている場合には,もはや非嫡出子の相続分を争えないことになります。そうすると,ご相談者様の事例においても,すでに審判が確定している以上,残念ながら成立した遺産分割の効力を改めて争うことはできません。
なお,平成13年7月1日よりも前に発生した相続(確定的な法律関係が存在しないことを前提としています。)について,本件最高裁決定の効力が及ぶかについて,本件決定は直接判断をしているわけではありませんが,本件決定が,「その相続開始時点での本件規定の合憲性を肯定した判断を変更するものではない。」と判断していることに加え,平成12年6月30日に発生した相続を対象として,本件規定を合憲であると判断したものがあるため(最高裁判所平成21年9月30日決定),少なくとも平成12年6月以前に発生した相続については,本件決定の効力は及ばないと判断される可能性が高いといえます。
ご自身が婚外子である場合,上記のとおり以前に発生した相続であっても,嫡出子と同じ相続分をご主張できる場合は十分にございますので,遺産分割等を進める前に是非一度弁護士にご相談ください。
法定相続分について④
法定相続分について④
<ご相談者さまからのご質問>
先日(平成28年12月),父が亡くなりました。父と母との間の子供は私だけだと思っていました。しかし,相続手続きのために戸籍を取り寄せていたら,父に母以外の女性との間に子どもがおり,父が認知をしていたことがわかりました。母も私も今回はじめて知りとてもショックなのですが,この場合,父の財産はどのように分けられることになるのでしょうか。
<弁護士からの回答>
なかなかドラマチックな展開になっていますね・・・普通に生活している方が戸籍を見る機会は,ご自身が結婚や離婚をするときや相続のときしかないのが通常ですので,相続をきっかけにそれまで知らなかった事実が明らかになるケースも少なくありません(現に,上記と同じようなご相談をいただいたこともございます。)今回は,嫡出子と非嫡出子の法定相続分についてご説明させていただきます。
法律上の夫婦(婚姻関係にある男女)から生まれた子どものことを嫡出子といいます(なお,嫡出子には「推定される嫡出子」と「推定されない嫡出子」の2種類がありますが,その説明に関しては別の機会にさせていただきます。)。そして,法律上の婚姻関係のない男女の間に生まれた子どものことを非嫡出子といいます。したがって,ご相談者様の事例の場合には,ご相談者様が嫡出子となり,今回の戸籍の調査で判明したお父様とお母様ではない女性との間の子が非嫡出子となります(非嫡出子は婚外子とも呼ばれています。)。
従前,民法では,嫡出子と非嫡出子との間で相続分について区別をしていました。配偶者以外の相続人が複数人存在する場合(子が2人,兄弟が3人いる場合などです。)に関して規定している民法900条4項の但書では,「嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の二分の一とし」と規定されており,非嫡出子は嫡出子の2分の1の相続分しか有しないとされていました。
しかし,この規定に関しては,非嫡出子が嫡出子と同じ子であるにもかかわらず,父母が婚姻関係にあるかないかという子自身の意思により選択することができない事情により,相続において大きな不利益を被るのは不平等ではないかとの批判が多くありました。
そして,平成25年9月4日,最高裁判所において,民法第900条4号但書の規定のうち非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分は,法の下の平等に反し違憲(憲法違反)であると判示しました(最大決平成25年9月4日)。また,平成25年12月5日に,民法の一部を改正する法律が成立し,民法900条4号但書の規定のうち,非嫡出子と嫡出子との間の相続分に関する部分は削除されました。
したがって,上記最高裁決定が出された平成25年9月4日以降に発生した相続は全て,非嫡出子であっても嫡出子と同じ法定相続分となるため,ご相談者様の事例でも,法定相続分は配偶者であるご相談者様のお母さまが2分の1,ご相談者様の別のお子さん(婚外子)がそれぞれ4分の1(2分の1×2分の1)ずつとなります。
次回では,上記最高裁決定の効力の及ぶ範囲についてご説明させていただきます。
法定相続分について③
法定相続分について③
<ご相談者様からのご質問>
先日父が亡くなりました。家族は母と子が私含めて3人いましたが,私の弟2人(A,B)は,父が死ぬ前に亡くなっており,Aには子どもが2人(C,D)Bには子どもが1人(E)おります。Bは,子どもが生まれてすぐに奥さんと一緒に交通事故で亡くなっており身寄りが他にいなかったため,私の父が養子縁組をして育てていました。この場合,父の財産については誰がどれだけ相続することになるのでしょうか。
<弁護士からの回答>
ご相談者様の事例では,代襲相続が発生していることに加え,代襲相続人の1人が被相続人と養子縁組を行っていることが相続分の判断を複雑にしています。そこで今回は,代襲相続人の相続分と相続人の資格が重複した場合の取り扱いについてご説明させていただきます。
まず,被相続人(ご相談者様の父)の配偶者は当然相続人となります。また,子であるご相談者様も相続人になることに争いの余地はありません。さらに,ご相談者様の弟2人(A,B)は被相続人が死亡する前に亡くなっているため,A,Bのそれぞれの子ども(C,D,E)は代襲相続人に該当します。そして,代襲相続人の相続分は「その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。」(民法901条1項本文)と規定されており,かつ,代襲相続人が複数の場合には,その著経緯存続が受けるべきであった相続分を法定相続分に従って分配します(民法901条1項但書,900条)。
また,Bの子どもEは,被相続人と養子縁組を行っており,Eは代襲相続人であるとともに,子でもあるということになり,相続人の資格が重複していることなりなりますが,相続人の資格が重複している場合であっても,各資格に基づく相続分を合算して取得することができます。
以上をもとに,本件の各人の相続分についてみると,配偶者(ご相談者様のお母さま)は2分の1の相続分を有することになります。そして,子は,養子縁組をしたEを含めると4人となるので,まず,子の相続分としては,2分の1×4分の1で8分の1となります。したがって,ご相談者様は8分の1の相続分を有します。そして,Aの子ども(C,D)は代襲相続人として,Aの相続分(8分の1)を法定相続分にしたがい,それぞれ取得することになるため,C,Dの相続分はそれぞれ8分1×2分の1の16分の1となります。
最後に,Eは養子縁組による子としての相続分8分の1に加え,Bの代襲相続人としての相続分を合算した4分の1(8分の2)が相続分ということになります。
ご相談者さまの事例だけでなく,被相続人のお子さんの人数が多い場合や,被相続人の方が大往生され高齢でお亡くなりになられた場合,養子縁組や相続放棄等が絡んでくると,相続人が誰であるか,誰がどれだけの相続分を有しているかの判断が非常に複雑になってきます。当事務所では,遺産分割協議の代理人としてお手伝いさせていただく前提として,戸籍収集サポート(戸籍を収取し,相続関係図を作成)や,相続サポート(戸籍収集サポートに加え,財産関係の調査,遺産分割協議書の作成)等も取り扱っておりますので,是非お気軽にお問合せください。
法定相続分について②
法定相続分について②
<ご相談者様からのご質問>
先日,兄がなくなりました。兄は,結婚もしておらず,子どももおりません。両親も祖父母も亡くなっていますが,母は父と再婚する前に別の男性と結婚しており,その人との間にも子どもがいます。私と兄は,母が父と再婚した後に生まれたのですが,この場合,兄の財産はどのように分ければいいのでしょうか。腹違いの兄弟とはこれまで一度も関わったことがないので,話し合いをどうやって進めて行けばいいか不安です。
<弁護士からの回答>
相続手続きの際には,被相続人がお亡くなりになられていたときの状況次第で,これまで全く関わりのなかった親族と話し合いを行わなければならないことが少なくありません。前回は,配偶者との他の法定相続人との間の相続分についてご説明させていただきましたが,今回は,配偶者以外の相続人が複数にいる場合についてご説明させていただきます。
配偶者以外の相続人(子,直系尊属,又は兄弟姉妹)が複数人存在する場合についての相続分については,民法900条4号に「各自の相続分は,相等しいものとする。」と規定されています(900条4号本文)。つまり,配偶者以外の相続人が複数人存在する場合には,相続分についてその人数で等分することになります。例えば,相続人が配偶者と子ども3人の場合には,民法900条1号により配偶者が2分の1,子が残りの2分の1となり,子が3人いるため,2分の1を3等分,すなわち,子1人あたりの相続分は2分の1×3分の1で6分の1となります。
ご相談者様のお兄様を被相続人とする相続に関する相続人は,配偶者も子どもおらず,直系尊属もすでにいないことから,兄弟姉妹が相続人ということになります。
そして,兄弟姉妹はご相談者さまとお兄様の他に,父親が異なる兄弟姉妹(異父兄弟)の3人であるため,相続分はそれぞれ3分の1ずつになるように思えます。
しかし,民法900条4号但書では,「父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。」と規定されており,半血の兄弟姉妹(異父兄弟,異母兄弟)は全血の兄弟姉妹の相続分の2分の1が相続分であるとされています。したがって,ご相談者様の事例の場合には,ご相談者様とお兄様が5分の2ずつ,腹違いの兄弟は5分の1の相続分を有することになります。
ご相談者様の事例に関わらず,相続手続きの際にこれまで関わってこなかった親族の方と相続に関する話し合いを行うことは感情的な対立を生ずる危険もあり容易ではありません。
今回の事例のように,腹違いの兄弟の場合の相続分の区別については,一般の方ではご存じない方もいらっしゃると思いますので,当事者同士での話し合いではトラブルが生じてしまう可能性を否定できませんので,早めに弁護士にご相談いただくのがよいと思います。