弁護士コラム

2024.10.25

鞭(ムチ)打ちの刑が日本でされることは?(罪刑法定主義)

鞭(ムチ)打ちの刑が日本でされることは?

執筆後藤弁護士

先日、シンガポールにて女性に対し、性的暴行を加えた日本人男性に対し、禁固刑(刑務所に収監される刑です)と鞭打ち20回の刑を言い渡された判決が確定したとのニュースに触れました。
判決が確定したということはこの日本人に対しては鞭打ちの刑がかせられることになるのですが、鞭打ち刑はどんな刑なのかと思って調べてみました。

シンガポールでは、鞭打ちの刑がかされることはめずらしくないらしく、観光でシンガポールに訪れた観光客が公共物に落書きをして捕まり、鞭打ちの刑が科せられることがあったそうです。
女性と51歳以上の男性には科すことができず、回数は、一般の男性は24回以内、少年の場合は10回以内とされています。
どうやら、この鞭打ちとても痛いらしく、1回打たれるだけでも失神する受刑者もおり、回数をわけて執行されるそうです。
執行のタイミングも決まっておらず、いつ執行されるかという恐怖におびえながら過ごすそうです。

鞭(ムチ)打ちの刑が日本でされることは?

ニュースのコメントでは、日本でも性犯罪などに鞭打ちの刑を科すべきだというような意見もありましたが、日本ではこのような刑罰を科すことができるのでしょうか。

まず、日本では、刑法9条で

「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。」

とされています。
※ただし、改正がなされており、令和7年6月1日からは、懲役刑と禁固刑が「拘禁刑」という刑罰に一本化されることになります。
懲役は、「刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる」刑(刑法12条2項)で、禁固は、刑事施設に収容される点では懲役刑と同じですが、所定の作業(労働)の義務がないものです。
※一本化された拘禁刑では、刑事施設の裁量で作業がされることになります。

そして、日本では犯罪や刑罰は、法律で規定されていなければ科すことはできないため(罪刑法定主義といいます。)、
上記刑法9条で規定されている以外の刑罰を科すことはできません。したがって、現状、日本では鞭打ち刑を科すことができません

では、現行の刑法を改正して、鞭打ち刑を定めることができるのでしょうか。
最も効力が強い法律のことを「最高法規」といい、この最高法規に反する法律は無効となります。
日本での最高法規は憲法で、憲法に反する法律の規定は無効になるところ、憲法36条では

「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」

と規定されており、この「残虐な刑罰」とは、最高裁判所の判例上、「不必要な精神的、肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰」とされています。
そうなると、鞭打ち刑については、不必要に肉体的苦痛を内容とするものであり、人道上は残酷と認められることは明らかだと思うので、日本では鞭打ち刑を科すことはできません。

日本では刑罰の目的が、司法矯正といって、犯罪を犯してしまった人の社会的な更生を目指すことが目的とされていることや、戦前の明治憲法下において拷問や残虐な刑が科されていたことの反省から、残虐な刑罰は「絶対に」禁じられているのですが、シンガポールでは、犯罪を犯した人に対する制裁を科すという目的が強いようです(シンガポールでは日本に認められている執行猶予という刑事施設に収容されることを猶予する制度はありません)。

すこし、話はずれますが、日本では、今、死刑制度が「残虐な刑罰」に該当するので廃止すべきではないかと議論がなされています。
死刑については、多くの国が廃止していること、冤罪だった場合のリスク、被害者側の立場などから様々な意見がある問題ですので、今回の記事をきっかけに、死刑を残すべきかという点について検討されてみてはいかがでしょうか。

 

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