【相談事例63】居酒屋でどうしてビール瓶の栓が開けられてるの?
【相談内容】
最近はコロナの影響で、外でお酒を飲むことができず、家で晩酌をする機会が増えました。
家でビール瓶を開けていて思ったのですが、居酒屋などで瓶ビールを頼むと、いつも決まって栓が開けられた状態で持って来られている気がします。
私は自分で栓を開けて飲みたいなと思うのですが、予め栓が開けられて提供されているのには何か理由があるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
コロナウイルスの影響で、福岡県にも緊急事態宣言が出され、外出の自粛要請により、飲食店を経営されている方の損失は計り知れない状況ではないかと心配していますが、2020年4月9日に、居酒屋などの飲食店において、期間限定ではありますが酒類の持ち帰り用の販売認めるための期限付酒類販売小売業免許を付与する制度が開始されるとの発表が国税庁より出されました。
今回の相談内容も酒類販売と関わって来る問題の為ご説明させていただきます。
1 飲食店を営むには
一般的に飲食店を営むには、飲食店営業許可をえればよく、飲食店営業許可があれば、お店でお客さんに酒類を提供することが可能になります。
2 酒類を販売するには
しかし、酒類を販売する場合には、お酒の販売に対する税金を適切に徴収するために酒税法という法律により、酒類小売業免許を取得する必要があります。
すなわち、居酒屋で瓶ビールの中身のビールを提供する場合には免許は不要ですが、仮に、栓を開けずにお客に提供した瓶ビールをお客さんが持ち帰ってしまった場合には、酒類小売業免許を有していないにもかかわらず、酒類を「販売」したことになってしまい、酒税法違反になってしまう可能性があります。
このように、栓を開けずに瓶ビールを提供してしまうと、酒類を販売しているとなってしまうリスクがあるため、わざわざ栓を抜いて(栓を抜く手間よりも、免許をとる方が何倍も手間です。)、持って帰らずにこの場で飲むよう働きかける必要があるのです。
3 期限付酒類販売小売業免許
このように持ち帰りのために酒類を販売する場合には免許が必要になるのですが、コロナウイルスの影響で、飲食店の売り上げが減収となっていることへの対策として、簡単な申請で取得できる期限付きの免許制度が開始されました。
この制度を利用して、酒類を販売して出来る限り損失を減らして、事業が継続できる飲食店の方が増えるよう願うばかりです。
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【相談事例62】婚活アプリでのトラブル②
【相談内容】
婚約に至っていなくても慰謝料請求できる場合があるのですね。
認められる可能性があるのであれば、是非、元交際相手に対して慰謝料請求を行いたいと考えています。
ですが、彼に慰謝料請求を行った場合、彼の奥さんにも知られてしまった場合、彼の奥さんから逆に慰謝料請求をされるのではないかと不安なのですが大丈夫でしょうか。
【弁護士からの回答】
前回は、既婚者であるにもかかわらず独身と嘘をつかれて交際継続していた場合には貞操権侵害を理由として慰謝料請求が認められる場合があることについて説明しました。
男性は、既婚者である以上、配偶者である奥さんがいるにもかかわらず他の女性と肉体間関係を行っているため、不貞行為に該当するようにも思えます。
交際相手の配偶者からの慰謝料請求が認められるかについてご説明させていただきます。
1 不貞行為を原因とする慰謝料請求の要件
不貞行為を原因とする慰謝料請求が認められるためには、①故意、または過失により②他人の権利又は法律上保護される利益を侵害し、③ ②の行為に損害が発生することが必要になります。
2 本件について
仮に、ご相談者様の元交際相手の夫婦間が円満であることを前提とすると、交際相手とご相談者様のとの間の交際関係(性的関係)を行ったことにより、元交際相手と配偶者との間の円満な夫婦関係が害されるという損害が発生しているため、上記②と③の要件については認められる可能性が高いです。
もっとも、ご相談者様は、交際相手に独身であると嘘をつかれて、交際相手方独身であると信じて交際を行っていたのであるため、①の要件のうち、 故意(既婚者であると知りながら交際関係に至った場合)の要件は満たさないことは明らかです。
では、過失があるか、すなわち、独身であると信じたことについて過失が認められるか(通常の人であれば既婚者であると認識すべきであるにも関わらず認識していなかった)と認められるかという点が問題になります。
この点については、交際中の具体的なやり取りなどを正確に把握しなければ判断できませんが、婚活アプリに登録しているという時点で、独身者が前提であること、自身の家族にも会っていることからすれば、独身者であると信じてもやむを得ないと認められると思いますので、過失についても認められない可能性が高いと思います。
3 最後に
このように、独身であるとだまされていた場合には、慰謝料請求が認められない可能性は高いですが、配偶者が感情的になり、認められなくても請求してくる可能性は否定できません。
貞操権侵害を理由とする慰謝料請求の場合には、認められるか否かという問題だけでなく複雑な問題が絡んでいるため、請求を考えられている方は是非一度弁護士にご相談ください。
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【相談事例61】婚活アプリでのトラブル①
【相談内容】
婚活アプリで知り合った男性と交際をしていました。
男性とは約2年程度交際しており、私の両親も挨拶しており、彼からは、「そのうち自分の両親にも相談する」と言われており、私も真剣に結婚を考えていました。
しかし、彼のSNSをたまたま見つけて中を見たところ、彼が既婚者であることが分かりました。
これまで2年もの間裏切られていたのかと思うと彼を許せないため、慰謝料請求を行いたいと思っています。
【弁護士からの回答】
婚活という言葉が一般的に知れ渡るようになり、最近では、ご相談者様のように婚活アプリを使って婚活を行う方も増えていると思います。
婚活アプリでは、知り合うまでに相手の情報を詳しく知ることができないケースも多く、既婚者であるにも関わらず独身を装って女性と会う男性も少なくないと聞きます。
そこで、今回は、既婚者であるにも関わらず独身と偽って交際をした男性に対する慰謝料請求等についてご説明いたします。
1 交際関係の解消は原則自由
まず、婚約状態になっている場合は別ですが(婚約破棄に関しては別の機会にご説明させていただきます。)、単に交際している状態を解消する場合には、原則として慰謝料は発生しません。
交際関係は、一般的に、婚約関係と違い、法的に保護される関係であるとは認められていないため、他に好きな人ができたという理由などで交際関係を解消した場合であっても、恋愛自体は自由であることから、原則として元交際相手に対して慰謝料の請求は認められません。
2 貞操権侵害を理由とする慰謝料請求
もっとも、ご相談者様の事例のように、既婚者であることを秘して交際関係(性的関係)に至った場合には、貞操権を侵害されたとして、慰謝料請求が認められる場合があります。
既婚者であることを秘している場合だけでなく、全く結婚する意思がないにもかかわらず、結婚をすることを約束し、交際関係を継続していた場合にも認められる場合があります。
この貞操権侵害に関する慰謝料請求に関しては、事案の具体的な内容を踏まえ、「貞操権を侵害された」と認められるような場合でなければ認められないものであり、その認定は非常に複雑であることに加え、認められる金額についても、交際期間、その間の交際内容、妊娠・中絶の有無などで大きく変化しうるものであるため、慰謝料請求を検討されている方は是非一度弁護士にご相談ください。
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【相談事例60】裁判官でも分からない場合、判決はどうなる?
【相談内容】
家でケンカしているときなど、言った、言わないというようなことで、争いになることってありますよね。
民事裁判でもその事実があったかなかったかが争いになることが多いと思うのですが、すべての事件で、「あった」「なかった」ということを裁判官が判断するのは大変ですよね。
「あった」のか「なかった」のかが分からないというような場合も出てくると思うのですが、その場合にはどういった判決を下すことになるのですか。
【弁護士からの回答】
ご相談に来られる方からは、「裁判で白黒決着をつけたい」といったように裁判になると事実の存否など客観的な真実が明らかになるということを期待されている方も少なくありません。
しかし、裁判官も万能ではないため、ご相談者様がおっしゃるように、その事実が存在したのか存在していないのかを判別することができないということも少なくありません。
そこで、今回は、民事裁判における事実認定についてご説明させていただきます。
1 裁判官でも本当の真実はわからない
当事者間である事実の有無について争いがある場合、現在の技術では、タイムマシーンなどがない以上、その時の様子を直接見ることができません。
したがって、実際の裁判では、どのような証拠が提出されるかにもよりますが、裁判官であってもその事実が存在するか存在しないかがわからないという状態になることも少なくありません。
すなわち、訴訟で判断するのは、証拠上その事実が認められるか否かであり、客観的にその事実が存在したか否かということを判断する場ではありません。したがって、「裁判で白黒はっきりさせたい」というご意向は必ずしも裁判で実現されるものではありません。
2 事実の存否が不明な場合の決着
それでは、裁判において、ある事実が存在するか存在しないかについて裁判官においてもわからないという状況になった場合、どのような判決が出されるのでしょうか。
この場合、わからないので原告被告とも引き分けということにはならず、立証責任を負っている当事者に不利益な判決がでることになります。簡単にいうと、その事実が存在するということを証明する責任を負っている当事者が不利益を被るということになります。
そして、通常、ある法律上の効果の発生を主張する人がその法律上の効果を発生させるために必要な要件に関する事実を立証する必要があります。
例えば、お金を貸したので返してほしいと請求する貸金返還請求訴訟の場合、お金を渡したという事実及び渡したお金を返還する合意をしたという事実は、貸金返還請求権の発生を主張する原告(お金を貸した人)が立証責任を負うことになります。他方、お金を借りたのは間違いないが、すでに返済したという事実に関しては、弁済という法律効果の発生を主張する被告(借りた人)が立証責任を負うことになります。
したがって、裁判において、本当に弁済をしたのかわからないという場合には、立証責任を負っている被告に不利益な判決がでるため、貸金返還請求が認められることになります。
3 証拠の重要性
このように、立証責任を負っている事実については、その事実の存在を主張する側においてその事実を立証する(要は裁判官を説得する)必要があり、どのような証拠が存在するかという点が非常に重要になってきます。
現在そろっている証拠で立証することが可能か否かという点については非常に専門的な問題であるため、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
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【相談事例59】仕事で撮影した写真は誰のもの??
【相談内容】
飲食店を経営している者です。
先日、従業員に指示して、店のホームページに載せる店の外観を撮影するように指示しました。その従業員は写真撮影を趣味にしており、一眼レフカメラで撮影してくれて、とてもいい写真を撮ってくれて、それ以来ずっと店のホームページや飲食店が掲載されているサイトにその写真を掲載していました。
この度、写真を撮ってくれた従業員が退社することになりました。従業員が退社したあとも、その人が撮影してくれた写真を継続して使いたいのですが、著作権の関係などで問題はないでしょうか。
【弁護士からの回答】
最近では趣味で一眼レフカメラを持たれている方も多く、プロ顔負けの写真を撮影される方も少なくないと思います。
では、ご相談者様の事例のように、従業員さんが撮影された写真について、使用者が自由に使用することはできるのでしょうか。
1 写真の著作物性
ご相談の事例で問題になるのが、写真には著作権が認められるかという点にあります。著作権が認められる=写真が著作物に該当するかという点が問題になります。
著作権法上「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法2条1項1号)とされており、写真についても、例えば証明写真等のように、創作性が否定されるもの以外、著作物に該当するとされています(著作権法10条1項参照)。
2 職務上著作について
次に、写真の著作権を有する人、すなわち著作権者は誰になるのでしょうか。
個人で写真を撮影する場合には、撮影を行った人が著作権者であり、撮影した写真について著作権を有することになります。
そうすると、ご相談者様の事例でも、店の外観などを撮影した写真の著作権者は撮影した従業員になるということになりそうにも思えます。
しかし、著作権法15条1項では、「法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」と規定されております。簡単にいうと、使用者の発意(具体的な指示)に基づき、業務上作成したものであり、使用者や法人の名で公表するものであれば、その著作者(著作権者)は、法人や使用者になるということを規定しています。
したがって、ご相談者様のケースでも、撮影を依頼した際に、写真の著作権について取り決めをしている場合等をのぞき、お店の外観を撮影した写真の著作者(著作権者)はお店ということになるため、従業員の方が退社した後もその写真を継続して使用することに関しては何ら問題ありません。
著作権等の知的財産に関しては、企業や事業主の方があまり意識されない分野ですが、意外にトラブルにもなりやすい分野ですので、是非お気軽に弁護士にご相談ください。
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【相談事例58】闇営業は違法??~闇営業の問題点について~
【相談内容】
最近ニュースで、お笑い芸人が闇営業を行ったとのことで謹慎処分を受けているニュースが目立ちます。
気に入っていた芸人さんが見ることができなくなってしまうのはとても残念なのですが、闇営業ってそんなに悪いことなのですか?
そもそも闇営業ってどういったものをいうのでしょうか。
【弁護士からの回答】
複数人のお笑い芸人が、詐欺グループが主催したパーティーに所属事務所を通さずに参加したことが明らかになりニュースとなっています。さらに、当初、芸人の方は主催したグループから報酬(ギャラ)を受け取っていないと釈明していたところ、後日、実際にはギャラを受け取っていたことが判明し、所属事務所から謹慎新処分を受け、出演番組などに大きな影響を及ぼすような重大な事件として連日報道されています。
この事件では「闇営業」というワードが非常に多く出てくるのですが、私個人の感想ですが、この「闇営業」というワードのイメージが、この事件の問題点を複雑にしているのではないかと思います。
そこで、今回の「闇営業」にまつわる事件について法的に何が問題であるのかについてご説明させていただきます。
1 問題となりうる行為について
今回の闇営業問題において問題となりうる行為としては、
① お笑い芸人が所属する事務所を通さずに直接仕事の依頼を受けた行為
② 依頼主(パーティーの主催者)が詐欺グループであったこと
③ 報酬を受領していたこと
(④ 報酬の支払ったのが詐欺グループであったこと)
といった4つの問題点が考えられます。
そして暴力団ではないものの、犯罪グループの仕事の依頼を受け、犯罪行為により得た収益である可能性がある報酬を受け取ること自体、社会モラル的に非常に問題のある行為であるため、これだけ大きな事態に発展していると思われるのですが、今回は「闇営業」という点に絞って説明させていただきますので、①と③の問題点についてご説明させていただきます。
2 ①について
お笑い芸人が所属事務所を通さずに直接仕事の依頼を受ける行為については「闇営業」と言われているそうです。「闇」という響きから違法な人からの依頼を受ける行為を「闇営業」であるというようにイメージしてしまいそうですが、今回の事件でも依頼をしたのが法的に何ら問題のない人であっても「闇営業」ということになるのでしょう。
この事務所を通さずに直接仕事の依頼を受ける行為については、その行為を規制する法律は存在しません。したがって、「闇営業行為」を行ったことのみをもって、罪に問われるような行為には該当しません。
この闇営業については、芸能事務所と所属する芸人との間でどのような契約を行っているのかという点が重要となってきます。事務所自体が直接仕事を受ける行為自体を許容していたのであれば、闇営業をいくら行っていたとしても問題は一切ありません。
反対に、事務所として、事務所を通さない仕事を一切禁じている場合や、報酬が一定額以上の場合には事務所を通して仕事をするよう取り決めがある場合にそれに反した場合は所属事務所との契約を解消されてしまうリスクがあります(ニュースなどでは、そもそも所属事務所と芸人との間での契約内容が明確になっていないという点も取りざたされているようであり、契約内容の明確化については芸能界における重要な問題点だと感じております。)。
3 ③について
このように闇営業行為については、芸能事務所と芸人との間の契約内容の問題ということになるのですが、闇営業行為により報酬を受領することについては何か問題点があるのでしょうか。
この点、仕事を行い、その対価として報酬を得ること自体は法律上何ら問題はありません(依頼主が上記のように違法なグループである場合には、モラル上の問題があることは否定できません。)。もっとも、お笑い芸人の方は、所属事務所と雇用契約を締結しておらず、業務委託契約を締結しているため、事務所からの給料(報酬)についても事業所得として確定申告を行っているのが一般的であるようです。そして、闇営業により取得したギャラ(報酬)も事業により得られたものであるため所得として計上する必要があります。
したがって、仮に芸人の方が闇営業で取得したギャラを確定申告の際に収入に計上していなかった場合には、所得隠しとしていわゆる脱税行為に該当することになり、その程度が所得税法などにより刑事罰に課せられる危険性もある行為です。
4 まとめ
今回の闇営業問題により芸能人や所属事務所のコンプライアンスの重要性が広く認知されたことはとても意義があり、芸能人のみならず通常の会社においても、従業員のコンプライアンス研修や会社における従業員のコンプライアンスの管理体制の構築は非常に重要な問題であることは否定できません。
企業や従業員のコンプライアンスの環境についてお悩みの方は、ぜひお気軽にお問合せください。
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【相談事例57】婚前契約とは?~結婚前に契約書を作成する理由は?~
【相談内容】
芸能人などが結婚する前に、婚前契約書というものを作成したとして話題になっているのをテレビで見たことがあるのですが、婚前契約書とはどういったものをいうのでしょうか。
「婚前」ということは結婚する前に作成するものだと思うのですが、どうして結婚前に作成しなくてはいけないのでしょうか。
【弁護士からの回答】
欧米などでは、一般的に行われているのですが、日本ではあまりなじみのなかった婚前契約ですが、最近では日本でも婚前契約を行ったうえで夫婦になれるかたは少なからずいらっしゃいます。
そこで、今回は婚前契約の内容についてご説明させていただきます。
1 婚前契約とは
婚前契約とは、結婚をする前に結婚に関する取り決めをしておくことをいいます。
具体的には、同居中における生活のルールやお子さんの育て方に関するルールを定めることや、金銭管理の方法について規定することに加え、慰謝料についてもあらかじめ定めておくことがあります。
例えば、「夫が妻に暴力を振るったら1回あたり〇〇万円支払う。」といった内容や、「不貞行為をした場合には1回あたり〇〇万円を支払う。」などといった文章を入れることもあります。また、結婚期間中の決め事だけでなく、離婚時に関する条件についても定めることが一般的です。例えば、離婚の際の財産分与の対象となる財産を特定する条項を設ける場合や、分与の割合についてあらかじめ合意しておくことが多いです。
2 婚前契約のメリットとは
日本では、結婚する前に離婚に関する話し合いなどをすることに抵抗を感じるなどの理由から、婚前契約の普及率は極めて低いです。
しかし、夫婦の間で事前に合意事項を作成することで、結婚生活後の生活上の無用なトラブルを避けることが可能になります。また、慰謝料の関する金額などを定めておくことで、不貞行為等違法な行為をしないという強い誓いにもなるため、離婚を避けるために婚前契約を締結する方もいらっしゃいます。
また、会社を経営されている方の場合には、自社の持ち株についても共有財産の対象となりうるものであることから、財産分与の対象となってしまうと、離婚後の会社の経営に影響を及ぼすことになりかねないため、あらかじめ婚前契約において、株式は財産分与の対象とならないことについて合意しておく方がよい場合があります。
3 なぜ「婚前」に作成?
それでは、なぜ、婚「前」契約というように婚姻前に作成しなくてはならないのでしょうか。
それは民法上の規定を理由としており、民法744条では、「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。」と規定されており、婚姻中行った契約については、夫婦の一方から取り消すことができると規定されているため、婚姻中に合意したとしても、その実効性がありません。
婚姻前に関する契約については、民法758条1項に、「夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は、変更することができない」と規定されており、婚姻前に行った夫婦間の財産契約については、届出後に変更することができないという強い拘束力を有することになるため、届出前に作成する必要性があります。
入籍予定の方で婚前契約したほうが良いのではないかと検討されている方は、是非一度当事務所までご相談ください。
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「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例56】転居先に弁護士から通知が~職務上請求について~
【相談内容】
数年前に知人から大きい金額を借りていましたが、生活が苦しくなってしまい、払うことができず、申し訳ないという思いがありながらそのまま別のところへ引っ越してしまいました。その後、借りていた知人の代理人であるという弁護士から、借りたお金の返却を求める書面が届いてびっくりしています。
知人は、引っ越す前の住所は知っていますが、当然のように転居先については教えていなかったのになぜ現在の住所がわかったのでしょうか。
【弁護士からの回答】
ご依頼者様の代理人として、相手方に対し、弁護士として受任したことを連絡する書面(通常、「受任通知」といいます。)を送付するのですが、受任通知を送付した後、相手方の人から「どうして住所がわかったのですか」とお問合せいただくことが少なくありません。
そこで、今回は、弁護士などによる住民票の職務上請求についてご説明させていただきます。
1 住民票とは
まず、住民票についてご説明させていただきます。
住民票とは、市町村役場において住民がどこに住んでいるのかについて記録したもので、各市町村役場において住民基本台帳という市町村がまとめている帳簿(「公簿」といいます。)にまとめられています。世帯ごとにまとめられており、氏名、本籍、生年月日や前住所地や、住民となった日や住所を設定した日などが記載されています。
2 住民票を取得することができる人は?
上記のとおり、住民票には前住所、現在の住所など重要な個人情報が記載されているものであるため、原則として、本人及び同一世帯の人しか取り寄せることができず、第三者では自由に住民票を取得することができません。
もっとも、弁護士、司法書士等の一定の職業についている人(「特定事務受任者」といいます。)であれば、依頼者から受けている事件において必要な範囲で、第三者の住民票を取得することが可能であり、これを職務上請求といいます。
したがって、ご相談者様のように、お金を払わなければいけないのにも関わらず、転居して雲隠れをしようとしても、弁護士が職務上請求を行うことにより、転居先の住所が判明してしまうので、雲隠れしようとすることはお控えいただいたほうがよいでしょう。
逆に、お金を貸した人がどこかに行ってしまったという場合であっても、旧住所がわかっていれば弁護士において職務上請求を行うことにより、相手方の所在が判明するケースもあるため、泣き寝入りするしかいないのかとあきらめる前にぜひ一度弁護士にご相談ください。
なお、弁護士の職務上請求ですが、ご依頼者様の法律上問題に関し必要な範囲でのみ取得することができるものですので、単なる人探しの場合や、所在を知りたいという目的のみでは弁護士であっても職務上請求を行うことはできないので、ご承知おきください。
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「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例55】「お子様お断り」のお店は違法?
【相談内容】
子どもと用事があり外出し、お昼になったためどこか食べるところを探しており、おいしそうなレストランを見つけたため、入ろうとしたところ、入り口に「小さいお子さんのご入店はお断りさせていただきます」という張り紙が貼ってあり、入ることができませんでした。
子どもの入店を断るなんて、違法ではないですか。
【弁護士からの回答】
小さいお子さんがいらっしゃる場合、周囲の人に配慮したりなど入ることができるお店も限られて、お店を探すことも大変な場合もあり、ご相談者様のようにお子さんの入店を断られてしまう方も少なくないと思います。
今回は、店側による入店拒否の行いの適法性についてご説明させていただきます。
1 契約自由の原則
日本の民法においては、私的自治の原則という制度が採用されています。私的自治の原則とは、私人間の法律関係(権利、義務の発生)については、基本的に国家が干渉すべきではなく、私人の自由な意思によって決定すべきであるという原則です。
その私的自治の原則の1つとして、契約自由の原則というものがあります。それは、契約をするかしないか、誰と契約の相手方とするか、どのような内容の契約を締結するか等契約に関する事項については当事者の自由に任せるべきであるという原則です。
この契約自由の原則については、法律で特別の定めがない限りあらゆる契約に認められる原則です。契約自由の原則の例外、すなわち、定の場合に当事者が制限される法律として、労働者を保護するために制定された労働基準法、取引の公正を確保するための、独占基準法などがあります。
2 飲食店での契約について
飲食店での契約関係についてみると、飲食店では、お客が代金を支払い、店側が料理を提供するという契約関係になります。そして、飲食店に関しては基本的に相手方等を限定されるような法律は基本的にありません。
考えられるものとしては、各都道府県において制定されている暴力団排除条例によって、暴力団に対して飲食を提供することは禁じられているぐらいでしょう。
したがって、飲食店においては、誰に料理を提供するのかという点や、誰の入店を許可するのかという点について、店側が自由に決定することができます。
よく、高級レストランで設定されているドレスコードについても、店側において入店することができる客の服装を自由に決定することができるという点で、契約自由の原則が採用されています。
このように飲食店での法律関係においても店側において「小さいお子様の入店はお断りします。」として、小さいお子さんの入店を拒否することができます。
小さいお子さんを抱えた方からしてみると、自分たちだけ差別されているような気持になってしまうかもしれませんが、自由な入店を認められなければならないということになると、店側に入店を強要させてしまうことになり、契約自由原則に反してしまうことになります。
もっとも、喫茶店やレストランにおいても、逆に小さいお子さんに配慮が行き届いたお店も多く存在していると思いますので、そういったお店を探されるのがよいのではないかと思います。
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「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例54】「殺す!」といったら殺意あり?~故意について③
【相談内容】
殺意の認定というのは非常に難しいのですね。よくドラマなどで「ぶっ殺してやる!」などと言って殴ったりする場面があると思うのですが、その場合には殺してやると言っているので、殺意があることは間違いないですよね?
【弁護士からの回答】
前回に引き続き、今回も殺意の認定の判断要素についてご説明させていただきます。
前回ご説明した考慮要素は、殺意の認定において重要な考慮要素でしたが、今回の考慮要素は、一般の方からすると重要と思われがちですが、裁判上での重要度は前回の内容よりも下がる傾向になります。
1 動機(犯行前の事情)について
通常、人を殺害しようと考えている人は、快楽殺人鬼などの場合を除いて、対象となる人に対して、相当程度の恨みを有している場合や、殺さなければならないような事情を有しているのが通常です。
したがって、喧嘩の際の突発的に殺意が生じた場合を除いて、被害者の方に対して何らかの動機を有している場合には、殺意が認定される方向に働くことになります。
もっとも、単に嫌っていたという程度の動機では足りず、殺意を抱いてもやむを得ないと認められる相当程度強い動機である必要があります。
2 犯行後の事情について
例えば、犯行後に犯人が自ら119番通報した場合や救助行為を行った場合には、死の結果を企図していなかった可能性が高く、殺意を否定する方向に働きうる事情になります。
逆に、何ら救助行為を行わず被害者を放置した場合には、死の結果を容認していたと認定される方向になり得ます。
もっとも、救助行為を行った場合であっても、「行為」時には殺意があり、思い直したという可能性も否定できませんし、放置した場合であっても、致命傷には程遠い傷害結果であるのにも関わらず追撃しなかった場合には、逆に殺意を否定する方向にも働きうるため、行為後の事情の評価は非常に相対的であるため、考慮要素としての重要性は若干下がるといえるでしょう。
3 その他(行為の言動について)
では、ご相談者様のご質問にあるように、犯行時に、犯人が「殺してやる」などと発言している事情はどうでしょうか。
確かに殺意があることをうかがわせるような発言を行っていること自体は、殺意を認定する方向に働きうる事情ですが、そのような発言を常日頃から行っている人もおり、そのような乱暴な言葉を使っている人に限って本当に殺してやるとまでは思っていないケースもよくあります。
したがって、発言を行ったことのみをとらえるのではなく、犯人の性格や従前の言動についても考慮する必要があります。
4 最後に
前回から殺意の認定についてご説明させていただきましたが、殺意があるか否かという問題は、成立する犯罪や量刑が非常に異なる非常に重大な争点であるにも関わらず、判断が非常に難しい問題でもあります。
裁判員裁判ではそのような非常に重大かつ難しい争点について一般の人が判断せざるを得ないため、選ばれた裁判員の方のフォローも必要になってくるのではないかと思います。
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「相談事例集の掲載にあたって」